「おい、大丈夫か?」
「……だいじょぶじゃない……」

出水から預かった合鍵で、部屋に入ると奥の寝室のベッドの上に布団で出来た小山が目に入る。声をかければ、消えそうなかすれた小さな声がその山の中から聞こえた。

「さむいよ、慶さん」
「どれ……あっつ!お前熱どんだけあんの」
「わかんない公平ととうやががっこ、行く前はかったときは38どだった」
「よし、病院いくぞ」

布団をはがせば、うぇぇと嫌そうな泣き声がさあらから発せられる。
しょうがねぇだろ、さすがに布団ごと病院とか無理だって。
いつもさむがりなさあらが着てる厚手のコートを手繰り寄せて、病院やだぁとイヤイヤしてるさあらの手に袖を通す。
熱のせいで余計いつもより甘えったれてんな。

コートにくるまれたさあらの脇の下に手を入れ、子供を抱くみてーに抱え上げる。
ろくに飯も食えてないせいか、いつもより軽く感じる。その分、いつも以上に体温が熱いけど。

出水から玄関に保険証とかおいとくんで、と言われていたとおり小さなポーチと、合鍵、そしてさあらを抱えたまま外に出る。

「慶さん、さむいーやだぁ」
「はいはい、すぐ車だからな」
「うぇえ」
「泣くなって」

助手席にさあらとポーチを放り込んで、車を走らせる。
ボーダー提携の病院は、ボーダーの名前を出せば優先的に診てもらうことができるのが何よりの利点だ。

「軽い肺炎になりかかってますね」

そう診断されたさあらは、点滴を打たれ眠ってしまった。
歩いて帰るのは無理そうだった。
あ。つーか俺さあらの靴はかせてねーわ。
しょうがないかと、またさあらを抱えて、薬をもらい、車に乗せて、目指すはさあらの家ではなく、俺の家。

「あ、出水か?」
『はい、さあらは?』
「肺炎だと」
『まじか、今は?』
「俺んちで寝てる。点滴打ってちょっと楽みてーだな」
『了解。あーじゃぁ、とうやは今日は俺んちに泊まるように言っときます』
「それがいいな、お前は?」
『学校終わったらそっち行きます。柚宇さんも多分』
「わかった」

時間を見れば、ちょうど昼休みなのだろう。
出水からの電話に状況を伝えながら、餅を焼く。朝からバッタバタでなんも食ってなかったのを思い出したら、突然腹が減ったから。
さあらが倒れたことで、本日のうちの任務は急遽風間隊に変わってもらうことになった。
その段取りで朝から本部を行ったり来たりしてたからな。
まぁ、元々風間さんはさあらを妹みたいに可愛がってるとこがあるから、快く引き受けてはくれたんだけども。

「ん……」
「お、起きたか?」
「慶さん……の家?」
「そうそう、肺炎だっつーからしばらくお前はうちの子な。とうやにうつすとやべーだろ?」
「…ん……」

こくこくと小さく頷くさあらの頭をぽんぽんと撫でてやるとまるで猫のように幸せそうに目を細めた。
枕元においてあったアクエリを少し飲ませて、軽くむせた背中をさすってやって。
さあらを再度布団の中に押し込んだ。

「もうちょっとしたら出水とかくるから、寝とけ」
「うん」

素直な返事が聞こえて、10分もすればまた静かな呼吸が聞こえ始めた。



「おじゃましまーす」

突然ガチャリと開いた玄関から、聞こえてきたのは国近の声。
インターホンくらい鳴らせよ、とは思うけど。その音でさあらが起きたらまずいからまぁいいかと思っておく。

因みに国近は気を使ったわけじゃなくて、普段も突然ドアを開ける。
ちっとは上司に気を使えと思う。

「どうっすか?」

国近に続いて出水も入ってきて、一応俺に声をかけながら、足は止めずにそのまま寝室のさあらのところへ。
手を伸ばせば届くところまで近づくと、寄り添うようにベッドサイドに腰をおろした。

「お前と電話してちょっとしてから一回起きたけどそっからずっと寝てる」
「そうっすか」

あっちぃ、とさあらの額に触れてはそう呟いた出水がそっと手を引いた瞬間。

「こうへい」
「ん、起きたか?」
「うん……おかえりなさい」
「ただいま」

ゆっくりと目を開けたさあらはぱちぱちと何度か目を瞬かせて、出水を視界にうつすとふわりと嬉しそうに笑った。
相変わらず、目ざとい。さっきまで俺が触ろうが起きる気配もなかったのにな。

手を繋いでそのまま離れそうにない二人をおいて、リビングに戻ると国近が次々にテーブルの上に物を並べている。

「色々買ってきたよー。さあらの好きな桃缶でしょ、ゼリーとかなら食べれるだろうし、それも買ってきたし、冷えピタに、喉が痛いかもしれないからのど飴も買ったしー、あと皆泊りだから食料も色々かってきたよー」
「やっぱ全員泊まるのか」
「うん、唯我くんも学校終わったら来るって」

ああ、そういやあいつはお坊ちゃま学校で結構うるさいとこだとかで、拘束時間が普通高より長いんだっけ。
っておい、国近お前。

「ゲームまで持ってくるとか、国近お前な」
「えーさあら復活まで泊まり込みだから、ゲームはいるでしょー」
「え、ずっと泊まんの?」
「え、うん」

はぁ、とため息を吐き出した俺は悪くないと思う。
まぁでも、うちらしいといえばうちらしい。

しょうがないかと思いながら、とりあえず国近のもってきた食料を漁る。

「おい、今日鍋でいいか?」
「いいよー。薄味のなら調子よかったらさあらも食べれるかもだしー」
「だな。ほら、ゲームあとにして手伝え」
「国近、了解ー」




あー腹減った、とリビングに戻ってきた出水に声をかける。

「さあらは?」
「寝ました、俺が近くにいると無理に喋ろうとするんで一回休ませねーと」

困ったふりして、ちょっと嬉しそうなのどうなのお前。
そう思いながらジロっと睨んでやれば、出水はわざとらしく肩をすくめた。

ピンポーン、と結構でかい音が部屋に響く。
げ、っと思うと同時に、出水が玄関に向かう。

抑え気味の怒鳴り声と、泣きそうな唯我の声を聞きながら、国近に見てこいと寝室に目をやれば、とっくにそのつもりだったらしい国近がそぉっとさあらの様子を確認していた。

「大丈夫、よく寝てるー」

よかったよかった。寝たばっかなのにまた起きちまうかと思った。
そんなことをしてたら、唯我を引きずりながら出水が戻ってきた。

「お前ほんと、タイミング悪すぎ」
「すいません……!で、さあら先輩はどうなんですか?大丈夫なんですか?肺炎って入院とか?なんなら僕が病院手配しますよ!」
「大丈夫だから、落ち着けっツーの」

珍しく動揺してる唯我は、身振り手振りをつけて次々に質問をくりだし、結果また出水に叩かれている。

「とりあえずしばらく毎日点滴には連れてくけど、入院までは大丈夫だ」
「そうですか、よかったです……」

さあらは普段、同じポジションで、弟子的な扱いである唯我にはかなりきつく当たる。
それはもちろん、唯我を嫌ってではなく、強くしたいためだ。
時には、手がでることもあるし、口も悪くなる。
その為、唯我はさあらを怖がっているのかと思いがちだが、唯我が、強いさあらに憧れ、そして懐いているのは、うちの隊では皆知っている。
心底安心した、というように息を吐き出した唯我に、出水も国近もしょうがねぇ奴って感じに苦笑を浮かべていた。

「さ、とりあえずごはんたべよー」
「そうっすね、唯我お前今日どうすんの?泊まんの?」
「いいんですか?」
「いいんじゃねーの。ね、太刀川さん」

珍しいことに、唯我も一緒にお泊まりかよ。
まぁいいけど。

「かまわねえけど、ちゃんと連絡しとけよ」
「はい!」
「〆を雑炊にしたら、さあらが起きたら食べれるかな」
「だといいけど」

結局、その後鍋をやってる最中。俺たちの声で、さあらが起き出し、さあらも仲間にいれてよぉと泣き出して、出水が抱えてリビングに連れてくるのは。
それからすぐのことだった。

さあらのかぜのなおしかた


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