「ひゃ!?え、なに!?なーにこれ!え!?」

防衛任務でいつものようにトリガーオンしたら、ボンッといつもと違う音がして……え、何なんの音?って思ってたらモクモクとトリガーから煙が。え、煙ってなに。
白い煙が消えて、自分のトリガー持ってる手を見たら。

「なに?え?なんなの?ええええ……?」

私の手は、いつもの半分以下の大きさに。
隊服は大きすぎてずるずる引きずってるし、中のインナーも大きすぎて肩からずり落ちそうだし、ブーツはぶかぶか。いつもより地面がすごい近い。


つまり。換装したら子供になりました。え?どういうこと?


「……さあら?」
「うん」
「まじでさあら?」
「そうだよ」
「この子供が?さあら?」
「だから!そうだってば!」

換装する時に一緒にいた慶さんと公平と柚宇ちゃんも私と同じくらいかもしかすると私以上に驚いていて、何度も何度もわたしの名前を呼んで確認してくるけども。
中身はいつもどおり私自身なので、そんなに呼ばなくても間違いなく私だって!
ちょっと子供?幼児?なせいで呂律が回りにくくて、しゃべりにくいので、本日は私はひらがなおおめでおおくりしますです。はい。

「開発部ううううううううう!!」

我に返った慶さんに、私はそのままがしりと抱え上げられ、大きな声を出して慶さんは走り出した。その時私の手からぽろりと落ちたトリガーは、さすがのサポート公平が拾ってついてきてくれている。すごいスピードで慶さんが走ってるせいで柚宇ちゃんが出遅れてしまったのはしょうがないとおもうの。
そして申し訳ないことに、すごい困った顔を公平はしていて……ごめんね公平。私も何が起きたかわからなくて不安で、こわいけど。自分以上に混乱してる人がいると冷静になるんだね。はじめて知った。

「あ、けーさん」
「どうした!どこか痛いか!?」
「ううん、ぱんつおちたー」
「は!?」

いやだから、はいてたパンツがぶかぶかで落ちちゃったの。

「あ、こーへーがひろってくれた」
「そうか!!!よかったな!!!」
「うん」

お気に入りだった青いパンツを複雑な顔で拾った公平は。ねえ、パンツポケットに大事そうにしまうのやめてね?あとでちゃんと返してね?

バン!と大きな音を立てて開かれた開発部の扉に、一斉に開発部の人の視線が集まる。なんだなんだと、ざわつく室内で私は慶さんにこれ!どうなってんだ!と両手にぶら下がった状態で開発部の人達に突き出された。
ねぇパンツはいてないしインナーもずり落ちそうだから慶さんあんまり揺らさないで?
あ、柚宇ちゃん追いついた。ぜえぜえしてるけどだいじょうぶ?大丈夫じゃない、そっかぁ。

「換装しようとしたら幼児化したと」
「うん」
「特にいつもと変わったことはしてない?」
「してないよー」
「ちょっとトリガー見せてもらっても?」
「こうへいがもってるの」

そして公平はポケットから私の……それトリガーじゃなくてパンツ。仕舞い直さないで返してください。だめ?えー。

「あ、そういえば」
「うん?」
「きのう、トリガーめんてなんすしてもらったの」
「……なるほど、調べます」

そしてトリガーが分解されて少ししたら、顔真っ青にした開発部のお兄さんが戻ってきた。

「メンテナンスの際に、トリガー内部でバグが発生していたようです」
「は?」
「突然の幼児化はそのせいだと思います」
「……で?」
「トリガーオフするとどんな問題が生身に影響があるかもわからない状態です」
「…………」
「ですので……その、えっと」

説明に、慶さんと公平の顔がどんどんこわーくなっていく。そのせいでどんどんお兄さんがしどろもどろになってしまった。どーどー、落ち着いて?慶さん、公平。

「必ず!数日中にトリガーを修正します!ですから!お待ち下さい!」

結局慶さんと公平が締め上げた(物理)ので、震え上がったお兄さんは土下座しそうな勢いでそう宣言した。ようやく慶さんも公平もその言葉に納得したのか、お兄さんを開放して私の方へ振り向いた。

「……大丈夫か、さあら」
「だいじょぶ」
「体どっかいてーとか変とかねーの?」
「ないみたい」

はぁ、と目の前でしゃがみこんで、私と同じ目線になってくれた二人は多いなため息をもらした。すっごく心配かけたみたい。ぽんぽんと頭を撫でてあげると、二人は顔をあげて、ふにゃりと顔を崩した。なかないでーだいじょうぶだよー。



そして始まった幼女生活!

まず大変なのが、慣れてないのか頭が重いのか、すぐこける。べしゃっと。結局見かねた慶さんがまたまた抱え上げてくれた。バランスがね取るのがむずかしいの。

「けーさんおもくない?へーき?」
「いつもより軽い」
「そっかぁ」

そうでした。私大きい時も結構な頻度で慶さんにおんぶしてもらったりしてたんだった。
じゃぁ遠慮なく。
がしりと首に捕まると、背中をぽんぽんと慶さんが撫でてくれる。うん。幸せですね。

そして作戦室に戻ってきた私達は、まずは……

「とりあえず服どうにかしねーとやばいっすね」
「そうだねーノーパン幼女だもんね今のさあら」
「不名誉なあだ名。断固抗議する!」

とはいえ事実なので、なんともいえない。ソファーに座る公平の足元で、公平に両腕を伸ばしてみる。すると、私のしたかったことを理解してくれたらしい公平に持ち上げられて、私はそのまま公平のおひざの上に着地!
ぺたんと座り込んで全体重を公平に預けてしまえば、慣れた匂いで暖かくて。ついついうとうとしてしまう。

「おい、まだ寝んな」
「うう。ねむいんだもん」
「もうちょっと頑張れって」
「むりだよぉ……」

だって上のまぶたと下のまぶたが、もう言うことを聞かないのです。仲良しだから離れたくないってまぶたさん達……すやぁ。




結局、そのまま寝てしまったさあらの頬をつついてみるけど、起きる気配なし。ぷにぷに。さわり心地良すぎね?
そのままつついたりかるーくつまんでみたり。これ癖になりそう。やべぇ。

「で、楽しそうなとこ悪いけど出水」
「あ、はいすいません」
「どうする?これ」

あーそうだよなぁ。とりあえずまずは……服か。

「じゃぁ私が買ってこようかー?誰かのお下がりでもいいけど、パンツはちょっとあれだしねー」
「助かる、国近。ああ、じゃぁ俺が車出すわ」
「そうだねーそれが一番早いかも」

ということで。柚宇さんは太刀川さんと作戦室を出ていった。洋服代は太刀川さん持ちらしくて、さあらが起きたら一緒に謝んねぇとな。はぁと一応問題が一個片付いたと安心の息を吐き出した。

……なぁ。さあら。大丈夫だよな?ちゃんと元に戻れんだよな?

よくない考えが、一人になった途端むくむくと頭の中に湧き上がる。それを振り払うように、頭を振った。絶対に元に戻るし、一週間もすれば全部全部笑い話になる。今の俺にはそう信じるしかなかった。




ふあ、と意識を浮上させる。どうやらばっちり寝倒したみたい。お腹の上には公平の腕がしっかりまわされていて。いつもならひょいっと退けられるのに今はそうも行かない。なんとか体を動かして公平の顔を見上げると、難しい顔をして公平もどうやら私と一緒に眠っていたようだった。
眉間にすごーい皺がよってる。……ごめんね、不安だよね。ひざの上でよいしょと立ち上がる。そして近付いた顔に手を伸ばした。眉間の皺を消すつもりナデナデ。大丈夫だよ。ちゃんと戻れるよ。絶対。

「なにしてんの」
「こーへーをなでなでしてたの」
「……それは今のお前がされるべきじゃねーの」
「そっかぁ。じゃぁこーへーなでなでして?」
「はいはい」

起きた公平は、さっきまでの不安そうな表情をむりやりかき消してしょうがねぇなぁといつもの調子で頭をなでてくれた。おっとー力が強いですね?力に押されてぺたんとひざの上に後戻り。
私の目の前には公平の胸とお腹!すりすりとそこにすりよれば、頭の上でくつくつと公平が笑ってくれた。こそぐったいんだって。

「今太刀川さん達が服買いに行ってくれてんぞ」
「ほんとー?もうしわけないなぁ」
「まぁしょうがねーだろ。甘えとけ」
「ん!」

そうやってそのまま公平の胸に包まれていたら、突然私は公平に体を持ち上げられて。さっきみたいにソファーの上で立たされた。

「ねぇこーへー」
「なんすかね」
「なんでぺろんてしてるの」
「や、どーなってんのかと思って」

はいばんざーいと公平に言われて、従う私もどうかと思うけど!ずるずるだったインナーはあっという間に公平にとられちゃった。ノーパン幼女から全裸幼女に進化してしまった!由々しき事態です。

「かえしてー!」
「ぺちゃぱい。俺のおっぱいがねーんだけど」
「しょうがないでしょぉ、ようじょなんだから。あとこーへーのおっぱいってなに」
「俺のだろ。お前の全部は俺のモン」

もう!そういうところが陽介たちにお前なぁって言われる所以だよ!

「じゃぁこーへーは全部わたしのもの?」
「いや、それはねーわ」
「むぅ!」

ぷうとほっぺたを膨らませたら、やめてーつつかないで!ぷすーと空気が抜けてしまった。もしかして私、遊ばれてる?

「嘘だって、お前のでいいよ。全部」
「やったー」

きゃぁと喜んだら、ぎゅうっと抱きしめられた。痛くないくらいの強さで、ね?
そして公平は耳元で、本当に小さな小さな声で囁いた。

「だから、早く元にもどれよ……俺の全部やるからさ」

心臓がきゅうと音を立てた。




そしてその後何が起きたか。
帰ってきた太刀川さん達が見たものは!

「ちょっと!いずみんなにしてるの!」
「お前それはだめだろ!」

全裸幼女を抱きしめる17歳男子高校生。うん、これは、事案ですね。ぎゃぁと叫んだ慶さんに公平はべりっと引き剥がされ、柚宇ちゃんに保護された私。その後公平は慶さんに割りと本気のげんこつを食らっていたことを報告します。

「あ、かわいー!よく似合ってるよさあら!」
「ほんとー?」
「おーこれはかわいいな。文句なくかわいい」

二人が選んでくれた服を、柚宇ちゃんに手伝ってもらいながら着る。何しろ手が短くてね?大変なの。
背中に天使の羽がついた白いパーカーは、幼女にしか着れないシロモノ。中身が17歳だってのは今だけは忘れてくださいな。
げんこつを食らってくったりしてる公平の前に近付いて、顔を覗き込むと、公平もすげぇかわいいって褒めてくれた。

「この状態だと家に一人にするわけにもいかねーし。かといって出水んちに連れてくわけにも行かねぇしな。俺んちで泊まるか?」
「そうだねー。私も泊まるよー」
「俺も」

結局、皆で太刀川さんちにお泊りということで!とうやには公平から連絡してもらいました。だって、スマホ操作しにくいんだもん……お手数おかけします。




というわけで!やっと!やっと!開発部から連絡があって、私は元の姿に。長かった……24時間だけなんだけど。実際は。

でも本当に大変だったの。

トイレは一人でいけないし(公平に手伝ってもらったの)
手を洗おうとしても届かないし(公平が抱えてくれたの)
お風呂だって一人じゃおぼれちゃう(公平と一緒に入ったの)

ほんとは柚宇ちゃんが手伝ってくれるはずだったんだけど、断固として公平が譲らなかったので。お互い今更裸見て恥ずかしがる関係でもないんで俺が!ってー。
まぁその通りだから抵抗しません。わたし。

直ったトリガーを手にして、トリガーオフとやや緊張しながら目をつぶって声にする。
そうしたら、いつもと同じ感覚で、換装がすっと解けて。逆にちょっと拍子抜け。

目線が高いよー!やったー!
静かに見守ってくれていた三人もホッとした様子だった。

そして、カツカツと足音がしてぎゅうと抱きしめられた。

「よかった……」

はああと息を吐き出しながらのその声に、涙腺もだめになりそうだったけど。なんとかこらえて、私は公平の背中に腕を回した。

「ごめんね公平」
「謝んな」
「じゃぁありがとー公平」
「おー……」

顎をすくわれて見上げたらすぐ近くに公平の顔。確かめるようにそっと降りてきたキスに、私は無抵抗で従った。
周りに、人がいっぱいいるのもわかってたけど、今日くらいは、まぁ許してもらおう。

ようじょになっちゃった!


/ 表紙 /




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