一時中断。エレベーターでそこまで上がり、店の暖簾(のれん)をくぐると、もう席が埋まり始めているようだったが、まだ座れそうだった。奥の方に案内され、私はビール、彼女は一杯目から焼酎のお湯割りを頼んだ。おつまみは彼女に任せた。
「で、続きだけど」
「どうして女がそういうことを気にするか、ってことだね」
「そう。あんまり女性差別なことは言いたくないのだけど、多くの女性ってさ、群れたがるんだよね。あるボスがいて、その周りに似たような属性の人が取り巻いて、その属性から大きく外れる人を排除したがるんだよ。今回で言えば、中心は花崎さんでしょ? あ、分かるよね、花崎さんって」
「ええ、事務課で子供が確か、四人いる方ですよね」
「そう。早くに結婚して、産休も育休も必要最小限にして、短縮勤務ながらもそれだけ子供を産み育ててる。それが幸せなことかどうかは分からないけれども、本人は幸せそうにしているから、この職場では彼女が『理想』とされる。それで彼女も得意に、偉そうになる。そこに『あたしも結婚して出産して、子育てと仕事の両立を頑張ってまーす』と主張したい女性が集まる。そこで一つのグループ、あるいは階層ができる」
「あの、『スクールカースト』っていうのに似たそれですか」
「そうそう。よく知ってたね、そんな言葉」
「いえ、私も高校時代、疎外感を感じていたもので……調べて知ったんですよ」
 私はノリの良い子供ではなかった。どちらかといえばガリ勉で、運動はそこそこ。しかしキャラが悪いと認識されていたせいか、人気者にはなれなかった。まあ、別に気にしてはいなかったが、女性の場合は露骨だとも読んだことがある。
 お待たせしました、とアルコールが運ばれてきた。軽くグラスを合わせて、そののどごしを堪能する。彼女はぐいっとは行かず、控えめに一口だけ飲んで、お通しの枝豆に手をつけた。そういうところも、「女性らしくない」と非難されてしまうのだろうか。別に構わないだろうとは思ったが。
「ああ、そうだったのかい。なら話は早い。そういう『結婚も出産もして、子供が複数人いて幸せです』な層が一番上位にいて、次に『結婚して子供もいるけど、子供の数は一人』という層が続く。子育ての経験値と大変さが違うからね。その下に『結婚しているが子供はいない』層、そして『結婚すらしない』層。そういう序列を作って、序列ごとにまとまって下位を見下して、心の安寧を得ようとするんだよ。自分はそう考えている」
 なるほど、男から見ると、その辺りはよく分からないが、女はそれを肌で感じるのだろう。
「まあ、この要素による順位は安定しているから、余計にタチが悪いよね。子供が増えると上の階層に上がれるけど、万が一子供が亡くなっても、産んだという事実が消えることはないから、上から下に転落することはない」
「あー……確かにそうですよね」
 魚や野菜の天ぷらが運ばれてきた。ここでは塩に付けて食べるのが通らしい。


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