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「おい、大丈夫かよ!」
「これが大丈夫に見えるのかよ、お前ら」
全身痛いだろう、顔をしかめながら、しかしそれでも笑っている。この人は本当に楽観主義者だ。あまり深刻な顔をしない。
自分で布で縛るなどして、止血しているところもあるが、まだすべての傷口の手当てはできていないようだ。
「どうやったらそうなるの」
ローリーは焦ったように聞く。この人のことだから大丈夫だろうに。俺は彼女から頼まれるであろう、ある魔法の準備をする。
「変な鳥がいたんだよ、でっかいのが。そいつの攻撃力がすごいし、表面が硬そうでナイフじゃ全く歯が立たないからやられまくった。だから焼き払った、ってところ。そうだサム、いつもの」
予想通り。この人は割と派手にやるから、五人の中でこの魔法を一番かける機会が多い。
「言われなくても。――ハイド・ハード」
傷を一時的に隠しておく魔法だ。傷口はふさがり、既に流れて身体や衣服を汚した血液も消えていく。
「え、治ったの!?」
後ろからジャックの声。そうか、見たことないもんな。
「魔法で隠しただけだよ。解けば元に戻る」
「へえ、魔法……魔法って本当にあるんだ」
「あ」
さらっと、魔法であることを言ってしまった。基本的に、俺達は自分達が魔法使いであることを外部に示さない。いやでも、明らかに異様な現象を既に目撃されているのだ、ここは仕方ない。
ジャックは興味津々という感じだ。いぶかしげではない。変に攻撃されることもなさそうだ。
「うん、まあ、そういうことなんだよ」
「今回、ここに来たのも、魔法を使って、ここに迷い込んでしまった人を助けるためで……」
リッキー、ローリー、フォローサンクス。
「そうなんだ。じゃあ、さっきの炎も魔法なの?」
うん、それは聞いてくるよね。でも、あいにくその辺は俺達は知らない。俺達も見たことがない類いの魔法なのだ。
「えーと」
リッキーがユーミンを見た。俺とジャックも、彼女を見る。
「説明してくれ、ってところかな」
「そういうこと」
「じゃあ、歩きながら話そう。ここは気味が悪い。ところで、知らない人が約一名いるんだけど」
彼女がその人を見た。
「あ、ごめん。俺はジャックっていうんだ。魔法は使えないんだけど、たまたまこの三人といて、とりあえず一緒に行動しているんだ。敵じゃないよ」
「ならいいけど」
◆
俺達は原っぱに出た。これで残るはリーダーのゲールだけだが、どこにいるか分からないので、それを探しつつ歩く。
地図には城が描かれている。リーダーだから、そこに飛ばされたかもしれない、という予測を立てて、その方向へと進む。
ユーミンを先頭に、その横にリッキー、後ろに俺とローリーとジャックが並ぶ。
「さっき使った魔法は、昔よく使われていた『属性魔法』ってやつなんだ」
「初めて聞いた」
ローリーのみならず、彼女以外は皆口々に知らないと言う。
「19〜20世紀にかけて、刃物や銃器などの武器と組み合わせた魔法が発達したから、『属性魔法』は衰退してしまったんだけど、最近、それを復活させようという話をたまたま耳にしたんだ。僕は興味があったから、それに協力している。さっきのは、それをちょっと実戦で試そうと思ってやったんだ」
「なるほどね。面白そうだね、ちょっと詳しく説明してよ」
リッキーが詳細を促す。俺も後学のために真剣に聞いておこう。
「うん。属性、とある通り、その人が生まれたときから持っている素質を、7つの属性に分類して、その人に合った属性の魔法をうまく使おう、というものなんだ。7つの分類というのは、炎、水、光、闇、森、土、時―『時間』の『時』ね。この7つ。僕は見ての通り、炎属性だね。基本的に一人一属性だけど、時属性はその例外で、とても特別な存在なんだ。ちょっとやばいやつ」
「やばいって、どんな風に」
今度は俺が。やばいと言われても、それは多種多様なものだ。
「一つには、時属性は世界に常に一人しか存在しない。この属性を持つ一人が死んだら、すぐに別の時属性の人が生まれてくる、というサイクルがあるらしい」
「代々続いてる、ってこと?」
「そうそう。えーと、君誰だっけ」
「ジャックだってば」
彼女はちょっと人の顔と名前が覚えにくいところがあるようだ。別に珍しい場面でもない。
「ああ、そうだったね。それで、もう一つ、こっちがやばいばあ、って思ってるところなんだけど、時属性はある時点からずっと受け継がれてきていて、何らかの魔力によって、その人々の名前がある本に記されているほどなんだ。でも、その本にはこうも書いてある。僕もそれを見せてもらったのだけれど」
のんびりと歩いていた彼女が立ち止まり、大きな目を細め気味にして、俺達全員を見た。
「『13人目の時属性保持者がこの世を去る時、魔法界は消滅する』」
そして、また進行方向に身体を向けて、歩き出す。置いていかれないように、ついていく。わざわざ立ち止まって言ったのは、それだけ、その言葉は重要なのか。そのような感じもする、魔法を扱う者として、嫌な感じがする言葉だ。
「この『魔法界は消滅する』の文言の解釈が問題になる。魔法使いは皆死んじゃうのか、死にはしないけど、魔法は使えなくなるのか。そこを解く手がかりがまだ見つかっていない。ただ、どちらにしても、僕達にとっては死活問題になるのは確かだ。しかも、その本には12人目の名前と、その生年月日、さらに死亡年月日まで記載されていた」
「え、それって、12人目はもういなくて、13人目がもうこの世界にいる、ということ?」
ローリー、今日は頭が回るね。学校ではお馬鹿さんキャラを極めているのに。
「と、思いたいし、そうだと思う。ただここに、また謎がある。13人目の名前と生年月日がそこに記されていない。本に何らかのバグが起きている可能性もある。だから、今人力で、その13人目を探そうとしているところなんだ。僕もそれに協力しているのだけれど」
「その言い方だと、見つかっていないんだね?」
リッキーが眼鏡を左手でくいっと上げた。
「いないんだ。対象者を見たり、何らかの魔法で調べて属性を調べる方法が今のところなくて、実際にその魔法を使ってみないと分からないのが現状なんだ。その方法の開発が、喫緊の課題になっているのだけれど……」
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