13


印刷して、すっかり指定席になった、ベッドの枕側に座って、切って、切って、折って、貼り付けて。土台を完成させてから、小屋の部分を作る。
ふと彼女を見ると、目を細めて、細かい部品を切っていた。その眼差しは、真剣だけれども、どこか優しいものをたたえていて。そうだ、例えば、子供を見るような親の眼差し。彼女にとっては、自分で作ったもの一つ一つや、その集合体としての『紙の街』は、彼女にとっての子供のようなものかもしれない。
小屋の部分を完成させて、風車の部分を作ろうと思ったが、空腹を感じた。寝室とリビングの間のドアは開いていた。そこから見えるデジタル時計を見ると、もうすぐ正午。
また彼女の方をうかがうと、部品を貼っているところだった。その部分を洗濯ばさみで挟む。城はその姿の全貌を現しつつあった。
今なら大丈夫だろう、タイミングを見計らって、彼女に声をかけた。
「睦、お昼にしない?」
「もう、十二時?」
「そうだけど」
彼女は一つ二つ、咳をした。最近は咳をすることも増えたような気がする。その度に、「気にするな」という視線を投げかけられるのには、もう慣れた。
「ピザの宅配でも取ろうか。テレビの下の引き出しに、メニューのチラシが入ってるよ」
「いいね、それ」
彼女の食事メニューの希望には、ほぼ応えることにしていた。歩いて行ける範囲にスーパーは三軒あるので、食材が調達できない、という心配もない。それに、彼女のために料理を作る時間も、僕にとっては大事な幸せの瞬間の一部になっていた。
持ち帰りと宅配専門のピザ屋のチラシを出して、二人でソファに並んで、見ているだけで空腹感が増すチラシをよく見て。
「Mサイズを二つ頼もうか」
「食べきれるの? 僕も量は食べないよ」
「無理だな。一枚に二つの味が入っているのにするか」
「それが無難でしょ。味は選んでいいよ、僕は何でも食べるし」
「まずはマルゲリータだね。海鮮が食べたいな」
「海鮮? ツナマヨとの組み合わせがあるけど」
「それでいいや。サイドメニューは?」
「チキンナゲット」
「海鮮がいいって言ったじゃん」
「チキンナゲットは別なの」
「はいはい」
今日も彼女のわがままに応えて。僕もチキンナゲットは好きだけど。
今時は、電話よりもネットで注文するものだろう。そのピザ屋のホームページにアクセスして、注文を入力した。
「三十分ぐらいはかかるかな」
「あれ、そうなの。もっと早く注文すればよかったね」
「いいじゃん、別に。待つ時間も楽しむもんだよ」
彼女が立って、大きく伸びをした。僕がいるのと反対側から、テーブルをぐるっと回って。三十分もあるので、てっきり紙工作の続きをやるものだと思いきや、カレンダーの前に立った。
「裕樹、一週間ぐらい夏休みって取れたりする?」
「お盆の時期に?」
「そうそう。あ、でも田舎に帰るとか、そういうのがあるなら、そっちを優先してもいいよ」
僕は困った。というより、それをどうしようかと考え始めていたところだった。
お正月と、ゴールデンウィークと、お盆の時期には、必ず実家に帰るようにしている。帰る度に「結婚はまだか」と聞かれるので、正直に言うと帰りたくない。それでも帰るのは、僕の家が、地元ではそこそこ古く、名前の知れたところであるから。
それに、「家」意識のまだまだ強い田舎なので、僕が帰らなかったことが、近所の人の間で噂話になるのが恐ろしいのだ。帰らなかったことで、「山松さんところの末っ子は親不孝だ、それにお盆に先祖の墓参りにも行きやしない」などと言われて、家の名誉が傷つけられたと言われたら、たまったものではない。
それだけなら、まだいい。「結婚しないの」攻撃を上手くかわして、先祖の墓参りをすれば、美味しい魚は食べられるし、海の薫りに包まれながらゆっくりすることができる。
問題は、彼女だ。彼女に帰る家が他にないのはよく知っている。かといって、一緒に連れて行く訳にもいかない。


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