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僕は週末ごとに、作品を一つ作っていた。最初の猫に続いて、フクロウ、ユニコーン、パンダ……それらはユニコーン以外は、彼女の手によって、『紙の街』に組み込まれていった。ユニコーンはベッドの枕元に飾られた。
一方、その間に、彼女はモン・サン・ミシェルに続いて、五重塔や、都庁を作っていた。五重塔は結構難しいらしく、最初の土曜日に手をつけてから、その次の土日(この週から日曜と水曜も休むようになった)、さらに次の土曜日も使ってやっと完成させていた。
そして今は、「西洋風のお城もほしい」と言って、ドイツのノイシュヴァンシュタイン城に手をつけている。ここは父親に連れて行ってもらったことがあるという。それが彼女の、唯一の海外旅行だとも言っていた。
彼女のサポートもあってか、僕はすっかり、紙工作の虜になっていた。一つ作ったら終わり、じゃなくて、次は何にしようか、組み立て終わったらもう、考えている。それが楽しいところの一つなのだろう。そしてそれが発展したら、彼女のようになるのだろうか。
その週末の土曜日も、朝ごはんに僕がトーストを焼いて、ブルーベリージャムをつけて、スクランブルエッグを作って二人で食べて、ゆっくりコーヒーを飲んでから、彼女がパソコンを起動した。
「裕樹、動物ばっかりじゃ飽きない?」
優雅な手つきで、ブックマークからいつものページを開く。
「そろそろ、他のものもやってみたいなあって思ってたところだけど」
そのペーパークラフトの配信サイトには、建物や乗り物も充実していた。でもどれもちょっと難しそうで、今まで遠慮していたところはある。
動物は比較的易しい方だという。それに慣れたから、少し挑戦してみたいな、という気持ちはある。
「建物とか、やってみる? 簡単なのもあったはず……僕は簡単なのはやらないからなあ」
建物のページを開くと、いかにも難しそうなものが並ぶ。その中でも、難しいバージョンと簡単なバージョンの二つが用意されているものがあった。
「この『かんたんシリーズ』ってどうなの?」
「大人にとっては、ちょっと簡単すぎるかもね。子供の夏休みの工作にはちょうどいいだろうけど。僕が子供の頃は、このシリーズをほとんどやり尽くしてしまってね……あのパンダが作れるなら、少し骨のあるものにチャレンジしてもいいと思うよ」
「子供の頃から、こんなものをやってたんだ」
僕が初めて作った日、小さい頃から何かを組み立てることが好きだと言っていた。
「そうそう。学校では色々な工作をするけど―木だったり、粘土だったり、針金を使ったり、でも僕には、それらはしっくりこなかったんだ。それよりは、小学生向けの雑誌についている、紙で何かを作るキットを組み立てるのが好きでね。でも、次の号が出るのを待てなくて、お父さんに相談したら、こんなサイトを調べて見つけてくれたんだ。今じゃ、そんな雑誌も売れなくて、どんどんなくなっているけれど……寂しいな」
クソババア、とは上手くいっていなかったが、穏やかな口調や表情でそう言ったのを聞くと、あるいはこれまでも父親との思い出を語ることがあったことを考えると、父親とは仲がよかったのだろうか。
以前、死ぬことについての彼女の話を聞いたとき、家族に対する負の感情が見え隠れしているのに気付いてから、彼女が家族について話す場面で、僕もその方面の思考を働かせるのが癖になっていた。彼女が意識的に話しているか、そうでないかは別にして。
そして僕は、一つ、気付いていることがあった。父親や伯父については話すけれども、母親の話題はまったく出ないことに。
「そうだ、手始めにこんなものはどうかな。君なら一日もかからずにできそうだけど」
僕は意識を、現実の彼女とパソコンのモニターに戻した。画面には、『風車小屋』とあった。ダウンロードページを開くと、枚数も多くない。
「風車って、これ、回るの?」
「回りそうだね」
「面白そう! これでいいよ」
動かせるものもあるんだ。こうやって、ペーパークラフトを考える人もすごいなあって思う。僕にはできないな。


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