14


ベッドには枕が二つ。聞こえる水の音。男と女。
そんな表現をしたら、色事を連想しそうだけど、僕はあまりそういうものには関心がなかった。彼女に対する愛情はあるけれど、肉欲は特に感じていなかった。彼女から求められれば、考えはするかもしれないけれど。
彼女を待っている間、出してくれたお茶(夜だからカフェインレスだという、よく用意してるな)を飲みながら、本を読む。彼女と会った時に読んでいた小説はもう読み終わった。今は本屋でふと気になったエッセイを読んでいる。
「お待たせ」
水もしたたる、いい女、な訳はなく。髪はしっかりとドライヤーで乾かしてあった。
「何時に寝るの」
丸い木目調の、壁がけのアナログ時計は午後十一時。
「あと三十分ぐらいかな。風呂上がりにすぐに寝てしまったら、寝癖がひどくて」
「あ、それ僕と同じだ」
彼女は五百ミリリットル入りの牛乳パックの中身を、マグカップにあげてレンジでチン。寝間着姿を後ろから見ても、やはり、細すぎる気がする。
「何見てるの」
「別にそういう視点じゃないよ。身体、大丈夫かなと思っただけ」
「で、どう君の目には映ったの」
白いマグカップには、三毛猫の絵が描かれていた。猫が好きだと言っていたっけ。僕の左隣に座ると、黒いソファは満席になる。
「ちょっと痩せすぎじゃないの」
「そう見えるかい」
「明らかに。ダイエット、とかしないよね」
「やだなあ、綺麗になるために痩せようとか思う人間の女の子じゃないのは、君もよく知っているでしょ」
ダイエット、ではないなら、仕事のせい?
「じゃあ、仕事とか。疲れてるようにずっと見えるけど」
「それも、原因の一つではあるよね」
湯気の立っているホットミルクに、彼女は口をつけない。そうか、猫舌だっけ。
テーブルの下には、物を入れることができるスペースがあった。そこには何やら色々と入っているが、彼女はそれを漁り始めた。
「牛乳、気をつけて」
「大丈夫だって。――そう、これこれ」
出てきたのは、大きな白い封筒。封筒の下の方には、「○×病院」と書かれてある。ということは。
封筒から出てきたのは、色々な数字を書いてある書類。検査結果、とある。
「病気?」
「あいにく」
病気で激やせするというのは、別に珍しい話ではない。いやでも、どんな病気なのか。
「職場の健康診断では何も言われなかったんだけど、明らかに体調が悪くてね。食欲ないし、微熱が下がらないし、皮膚に今までなかったようなぶつぶつとかあったりして、明らかにおかしいって思ったから、病院にかけこんだらこれだよ。白血病」
「……え」
あまりにも明るく、しれっと言うもんだから。聞き間違い、してないよね、僕。


[ 14/60 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -