13


彼女の家なんて知らない。でも、着替えなんて当然持っていなかったので、それを取ってきてから、一緒に。
「手、繋がない?」
「……ほら」
大人になってから、こんなに本気で恋をするとは思っていなかった。「大人の恋は辛い」とどこかで聞いたことがあるけれど、気づくと彼女のことを考えていて、確かに、辛い。病気にでもなってしまったみたいに。
だったら、ここ数日の体調不良も恋のせいなのか? それは断じて。いや、やっぱりそうかもしれない。
道のりは、思ったほど長くはなかった。そこそこきれいなつくりのマンション。部屋は、キッチン付きのリビングと、部屋が二つ。一人暮らしには少し大きいと感じた。
「お邪魔します」
「どうぞ。荷物はソファの上に置いていいよ」
リビングの引き戸を開けると、ベッドが見えた。……これ、シングルじゃ、ないよね。
「寝るのは、どうするの」
「え? 一つのベッドに入るのが相場じゃないの?」
聞いた僕が馬鹿だった。
「……何でそういうことをさらっと言えるの」
「そうだね……君に対しては、感情を出し惜しみしたくないんだ」
布団をあけて、彼女はそこに鞄を放り投げた。一つ、咳をする。白い機械のスイッチを入れた。
「それは」
「空気清浄機。ほこりがだめでね。あ、お風呂どうする?」
「先に入っていいよ」
「そう言うと思った。君が客だから、君から入りなよ。僕は色々とやることがある」
心を読まれている感じがするのは、少し悔しい。でも、それを不愉快とは思わなかった。
彼女がお湯を入れに行く。僕はスーツの上を脱いだ。
「ハンガー貸して」
「そこの取って。タンスの取っ手に掛けちゃってよ」
脱衣所にあったそれを何本か拝借。
リビングと寝室は、整理されていた。ものが少ない。テレビ、テーブル、時計、タンス、引き出し、ソファ……生活感はあるものの、必要最低限のものしかない。
もう一つの部屋は、廊下と寝室、二カ所から出入りできるようになっているが、どちらの引き戸も閉まっていた。中がどうなっているか気になったが、ここは一応女の子の一人暮らしの部屋、許可も取らずに安易に覗くのはためらわれたのでやめた。
「裕樹、ちょっと来て」
「はあい」
シャワーの使い方と、使ったタオルの置き場所を教えてもらった。

彼女は明日は休みらしい。ということは、二人揃って休みということになる。
湯船には炭酸の入浴剤が入っていた。脱衣所には、「疲れに効く」と謳った入浴剤が並べられていた。
――やっぱり彼女、疲れているよね。
今日は「疲れた」とは言っていなかった。でも、その顔や動作は、やっぱり、気になる。自分のことは、一旦棚に上げて。
シャンプーやボディソープは、少し高めのものを使っていた。「勝手に使っていい」と言われたので、遠慮なく使ったが、お風呂を出た後で、「彼女と同じものを使っている」と気付いてしまった。彼女と、香りがお揃い。
――何、なにそれ。
湯船にも入っていないのに、のぼせそうな心地を覚えた。


[ 13/60 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -