15

「いや、それ軽く流していい病名じゃないでしょ」
「普通はね。でも、まだ軽く流してしまった方がいい状態でね。経過観察って言われてんの。あとは、皮膚症状をどうにかする薬をもらって、一応仕事に出てる。さすがに軽い仕事に変えてもらったけど」
「そんな白血病ってあるの」
確かに時々聞く病気ではあるけれど、詳しい訳ではない。
「ある」
マグカップを手に取って、息を吹きかけて一口。猫みたいだ、と思ったのは内緒。
「ただねえ、いつ悪くなるか分からないから怖いんだよねえ。悪くなったら、最後かもしれない。望みがない訳じゃないけど」
背筋に寒気が走った気がした。やめて、続きを言わないで、聞きたいけれど。
「……それって、つまり」
「僕はしてるけど、君も覚悟しとけ。いつ消えてしまうか、分からないから。――君を選んだのは、君なら、言ってもいいと思ったからだよ」
どうして、そんな深刻なことを、悲観的ではなく、楽しそうに話せるのか、と。こっちは泣きそうになってんのに。思考回路が、違うのか。
「……分かってて、僕に告白したの」
「そういうこと。嫌だったら別れてもいいよ」
「まさか」
考えるまでもなく、口から出た。出てしまった、とでもいうのか。後から別れる理由を考えようとしたが、頭が思考することを拒否した。
――受け入れろ、受け入れろ。
「いいの?」
「僕が、君を見捨てるとでも」
きっと、こんな相手を選んだのは運命なのだ。だったら、それに付き合うのも、悪くないと思い始めていた。
それに、彼女には身寄りが無いのを知っている。ここで僕が身元を引き受けないと、誰がやりたがるのか。この変人の相手を。
「やさしいね、君は」
「人として当たり前のことをしようとしているだけだよ」
「何真面目ぶってんの」
「元から真面目だよ」
「うん、知ってる」
お茶は残り半分。別に飲み急ぐことは無い。明日は休みなのだから。
「明日は、どうするの」
詳しいことを聞いても良かったが、はぐらかされそうなのでやめた。それに、彼女は深刻な話を長々としたがらないように見えた。ならば、それに従おう。話したかったら、向こうから話してくるはずだから。
「どこにも行かないよ。行けるだけの体力、ないし。その代わり、面白い物を見せてあげようと思う」
「面白い物?」
「今見せたら、眠れなくなるような代物だよ。もし僕がいなくなったら、全部あげるよ」
「何それ」
「明日のお楽しみ」
もしかしたら、それは閉じられている扉の向こうにあるのかもしれない、という予想はついた。一体、あの扉は、何を隠しているのだろうか。


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