02 それは偽者だから
つれてこられたのは、喫茶ポアロ。

この喫茶店は、彼が情報を得るために働いているところ、
たしか彼の偽名は・・・


「ここでは僕のことは安室透で通っていますから。間違えないようにしてくださいね」

「安室、さん?」

「さ、いきましょう。」




カラン―――


まだ開店前の店内に入ると
カウンターでは女の人がマグカップを磨いていた。

確か彼女は榎本梓。
バーボンのバイトの同僚だったな。



「梓さん、おはようございます」

「安室さんおはようございます。あら、そのこがさっき
いっていた親戚の子?」

「はい、まだ引っ越してきたばかりで
この町に慣れるまでの間手伝ってもらおうと。
あ、お給料は要りませんよ!オーナーにも伝えてあります」

「えっと、はじめまして!愁です!今日からよろしくお願いします」

「愁ちゃんっていうのね!私は榎本梓!仲良くしてくださいね!」

「は、はい!」



曇りのない笑顔。
組織にいると、時々こういうかわいらしい
笑顔を見ると癒されるものね・・・



そのときお店のドアが開いた。



「いらっしゃいませ。おや?コナン君に博士に、
少年探偵団のみんな。おはよう。」


「「「安室さんおはようございまーす!!」」」




元気な三人の子供たちと、クールな女の子に
めがねの少年、そしておじいさんが来店した。

ん?あのクールな女の子、どこかで見覚えが・・



「ほら愁、さっそくオーダーをとってきてください」

「わかりました!」



子供たちに近づくと、
彼らは不思議そうな顔でこちらをみた。


「ねーちゃんはじめてみる顔だな!」

「ほんとですねえ!」


「ふふ、今日からここで働いています愁です!よろしくねボウヤたち」





ハムサンドセットのオーダーを受けて安室さんに伝える。
梓さんは休憩中のようだ。


「ハムサンド人数分です。」

「了解、こっちきて手伝って。」


手伝いを頼まれてカウンターに入り、
彼の横に立つ。


「冷蔵庫からハムとレタス出して、」

「はーい」

「それからお湯も沸かしておいてくれますか?」

「はーい」


材料を渡すと、テキパキと調理を始める。
本当に手際がよく、手先が器用なんだなとわかった。

でも・・・


「ねえ先輩。」

「ん?」


私はこっそりと彼らには聞こえない声で話しかける。


「こんなことしといていいんですか?仕事しないと・・・」



すると彼はまだ話している最中の私の唇に
人差し指を添えてフっと笑った。


「これも仕事のうちですよ?」



そういった彼はなんだか少し楽しそうだった。





「お待たせしました」

「わーい!!おいしそう!」

「安室さんのハムサンドおいいしいよね!」



大人数だったため、安室さんと一緒に
彼らに料理を運ぶと、すごい勢いで喜んだ。


確かに・・・

「おいしそう・・・」

「え?」

おもわずそうつぶやいてしまい、
彼らや安室さんの視線を集めてしまった。


「え、いや、ほんと、おいしそうだなーって・・・はは」

「ハハハ、後で愁にも振舞ってあげますよ。」

「わ!やった!ありがとうございます!」


お仕事最初のまかないはハムサンドに決定した。
意外とやさしいところあるじゃないか。



「ねえねえお姉さん、安室さん。」

「ん?なんだい?コナン君。」


コナン君と呼ばれためがねの男の子は
私たちをニヤニヤ見ながらこういった。



「もしかして、愁さんって安室さんの恋人なの?」

「「え?」」

「あー!歩美もそうおもった!」

「僕もです!カウンターでいい感じでしたよね!」

「案外間違いじゃなかったりして?」

「こらこら君たち。でもお似合いじゃのう」



口々に憶測を語り合う彼らに私はあわてて切り返す。


「ちがいますちがいます!安室さんとはそういうんじゃないです!!」

「そんなに否定されると結構ショックですね。」

「う、すいません・・・私!食器洗ってきます!!!」



私はその場から逃げるように厨房へ逃げていった。
久々にからかわれると、なんだか自分が子供じみて感じる。
少しだけ劣等感・・・だ・・・。






それから閉店の時間になった。
初めての喫茶店での仕事、少し疲れた。



「梓さん、今日は僕が閉店作業しますよ。」

「あらそう?」

「愁にも教えたいですし。」

「じゃあお願いしようかな?それじゃまたね!愁チャン!」

「はーい!梓さんお疲れ様でした!」



カラン―−−



梓さんが帰った店内は私と彼だけになった。
もう薄暗い夏の空が窓の外から見える


「疲れました?」

「少しだけ。これも組織に必要な情報とは思えませんけど。」

「それは君の考えだけでは決められないさ」

「それに、バーボンさんが子供たちと仲良く触れ合ってるなんて
組織のメンバーが知ったら、笑われてしまいますよ。」

「おや、もしかして嫉妬ですか?」

「だ!誰が嫉妬なんて!・・・ただ」

「ただ?」

「子供たちと触れ合うことなんて、この仕事をしてからはまったくなかったから
新鮮で・・・」

「・・・たのしかったでしょう?表の仕事も。」

「・・・はい。」



窓から差し込む夕日が彼の顔を照らした。
その表情は本当に人を傷つける仕事をしている
とは思えないくらいすがすがしく
安心するような 笑顔だった。


「愁、顔赤いですよ?」

「は?赤くないです、」

「惚れちゃいましたか?僕に」

「はあ?!惚れませんよ、そんな、」



そんな偽者の笑顔なんかに、







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閉店作業も終わり今日は解散という形になった。


「明日はネットからの情報について教えます。
とりあえず今日は送っていきますよ。拠点はどこですか?」

「ネカフェです」

「は?」

「ネカフェ」

「ホテルは借りていないんですか?」

「ネカフェのほうが安いので。」

「・・・はあ、車に乗ってください。」




車に乗せられ着いた先は、
高級そうなマンションだ。



「ここは?」

「僕が借りている中のひとつです。」

「はあ、」

「ここ、使ってください。僕は別の家を使うので」

「あ、あむろさんは一緒じゃないんですか?」

「え?」


う、わ!私なにいっているんだろう?!
違う!これは!彼の正体を探るためで!!!
違う!!!!探るため!!!!!



「・・・部屋は二つあるので、一つ使ってください。」

「ふぁ、ふぁい」



そしてちゃっかり二人で暮らすことになった。




「少し片付けてくるので、ソファで待っていてください。」

「はい」



オートロックのロビーを抜け
部屋に通されると
そこは以外にも生活観がある部屋で
だけどきれいに整頓されていた。


「お待たせしました。」

「ありがとうございます。」




通された部屋も整頓されていて
普段から気をつかっているのがわかる。

ただでさえ忙しい仕事なのに
ここまでせいとんできるのはすごいなとおもう。



今日は疲れた。



私は早速眠りに着いた。










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「あ、あむろさんは一緒じゃないんですか?」

愁から、そんなことをいわれたとき
不覚にも動揺してしまった。

彼女を気遣っての言葉だったのに
まさかそのように返されるとは思っても見なかった

組織の人間といえども、
仮にも愁は立派な女性だ。
仮にも女性。
そして僕も男だ。
最近は仕事も忙しく、ご無沙汰だった上
平均よりも整った顔立ちにスタイルのいい彼女に
悪い気はしていない。

本当は部屋が二つといってもひとつは物置だ。
彼女をソファに寝かせるわけにもいかず
自分が使っていた寝室を明け渡した。
さすがに一緒には寝られない。


「俺も寝るか、」



ソファにクッションをセットし
電気を消して、自分も眠りに着いた。










mae tugi

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