は甘やかされ上手

桃太郎は思う。
咲月は天性の甘やかされ上手である。
甘え上手なのではなく、甘やかされ上手なのである。

「あ、そうだ咲月ちゃん。はいこれ。」

「なんですか?白澤様。」

「野茨の花、野草だよ。実は営実と呼ばれ瀉下薬や利尿薬になる。更に営実から抽出した油はおできやニキビなんかにも効くんだ。」

「へええ。可愛らしい花ですね。花はなんの効果があるんですか?」

「花には特に何もないよ。でも普通野茨の花は白色が多くて、こんな綺麗な淡紅色に咲くのはこの辺じゃ珍しいから咲月ちゃんにと思って摘んできちゃった。」

「わあ、嬉しいです。白澤様、好き。」

「僕も好きだよー。」


と、いうことがつい先日あった。
色々気まずくなるんで従業員口説かないで下さい、と桃太郎が白澤に苦情をいれると

「桃タローくん、可愛い女の子に可愛い花を送るのは一種の礼儀みたいなものだよ?」

とのことだった。
そしてその数日後。


「鬼灯様!」

「咲月さん、お久しぶりですね。」

「お久しぶりです。」

「そういえば今日はここへ来る途中で良さそうな甘味を見つけたのでいくつか買って来てみました。」

「鬼灯様、好き。…モフって行きますか?」

という事があった。
鬼灯曰く

「咲月さんって餌付けしがいがありますよねえ。カピバラに永遠に餌をやってたい感覚に似てる気がします。」

とのことだった。
人?に甘い鬼灯の姿を初めて見た白澤があまりの衝撃にえづいてしまって金棒で殴られていた。

そして今…


「ほら、前に咲月ちゃん簪一本も持ってないって言ってたでしょう?だからアタシのお古でよかったらもらってくれないかなって。」

「わあ。ほんとにいいんですか?」

「使ってないものが沢山あるのよ。気に入ったのがあったら持って行って?」

「きらきらしてる。可愛い…。お香さん、好き。」

「ありがとう。ふふふ、アタシもよ。」


店の休憩時間に合わせてわざわざ桃源郷まで足を運んだお香は出店の様に簪を広げて咲月に選ばせていた。
全く、いつの間にこんなに仲良くなったのか。
桃太郎は人知れずため息を溢した。

「もう、みんなしてこいつのこと甘やかさないでくださいよ。」

「あら、ごめんなさい。でも咲月ちゃんって、ついなにかしてあげたくなっちゃうのよね。」

「それわかるなあー。喜び方が可愛いからついついなんでもしてあげたくなっちゃうんだよねー。」

「あんたは女の子のためなら大抵なんでもするだろ。」

桃太郎は先日白澤当てに届いた請求書を思い出して悪態ついた。

「はあ。甘やかしてばっかじゃ咲月のためにもよくないっすよ。誰かこいつに厳しくできる人はいないんすか。」

桃太郎がため息まじりに言うと、白澤とお香が顔を見合わせた。

「桃太郎くん、なんかお母さんみたいねえ。」

お香が口元を押さえてふふふと笑いながら言った。

「俺が母親なら白澤様はさしずめ孫に甘い爺ちゃんっすよ。」



「あ、ところで桃タローくん。ちょっとお使いを頼みたいんだけど。」

ボソッと言った桃太郎を一瞥して白澤はさらっと話を変えた。

「あの地獄の補佐官のとこ行ってさ、大量に金魚草持ってきてほしいんだよね。もう話は通してあるから。大荷物になるから、咲月ちゃんも連れてって。」








鬼灯のところから金魚草をもらってきた桃太郎と咲月は地獄の商店街を並んで歩いていた。
咲月は鬼灯のところへは何度か来たことがあるはずだが、それでも見慣れないようで商店街をきょろきょろと見ている。

「なんかわくわくしますよね、この辺。人がいっぱいいて。」

「あんまうろちょろすんな。逸れるぞ。」

ふらふらと歩く咲月に内心はらはらしてしまう桃太郎はこれではお香や白澤が言うようにまるで母親じゃないか、と気付いてげっそりした。
桃太郎がそんな事を考えていると、不意に咲月がある店の前で立ち止まった。

「桃タローさん、これなんですか?こんなの初めて見ました。綺麗な布ですね。」

咲月が見ているのは、四つ葉のクローバーの刺繍が丁寧に施された白いハンカチだった。
地獄には珍しく、西洋風の手芸屋のようだ。

「これは刺繍だな。針と糸で模様を付けるんだよ。見たことないのか?」

尋ねる桃太郎に咲月は首を左右に振ってないですと答えた。
答える間も色々な刺繍に興味津々だ。特に四つ葉のクローバーの刺繍が気に入ったようできらきらした目で見ている。
そんな咲月の様子を見ていて、桃太郎はそういえば、と思い至った。

「お前、三角巾持ってなかったよな。丁度いいから買ってやるよ。」

桃太郎は咲月が見ていたハンカチと同じ刺繍が施された、大きさがふた回りほど大きい布を手にとってお店の鬼に手渡した。

「え、え、いいですよ。自分で買いますって。」

「いいから、大分遅いけど就職祝いってことで。」

買った紙袋をぽいっと咲月に渡すとしばらく唖然としたような顔をした後俯いてしまった。

「え、どうした?違うのがよかった?」

「いや、違う。…ありがとう。桃タローさん。」

その時、桃太郎は理解した。
白澤も、鬼灯も、お香も、その他咲月を甘やかす数々の人達。
あの人達は、これが見たかったんだなと、桃太郎は理解した。
うさぎを思わせる無表情顔がデフォルトの咲月が見せる少し照れたような、抑えきれないような笑顔。

その後、桃太郎は「なんつーか多分娘というより姪になんか買ってやりたい気持ちに近いと思うんすよね。」と遠い目で語っていたという。



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