P2
クレアは穏健派に別れを告げるつもりで、会合を開いた。彼らをむざむざ死なせるくらいなら、道を分かつべきだと思ったからだ。
味方がいなくても、クレアには時間がある。人ならぬ永劫の時間が。過激派を放逐し、イタリアを健全な国にするにはそれだけで良い。

そう考えていたのに、ロンシャンはそれを否定した。新たな同盟を作り、共に闘えと言った。そのために、自ら進んで駒になると。
それほどまでの覚悟を奉げられ、それを退けるような真似はできなかった。そんなことをしたら、彼らを侮辱することになる。

「私は受け入れ、盟主となって宣言したわ。そして穏健派は離散した」

資料を作り、それを過激派に掴ませる日を決めた。そして、それぞれの勢力や生活を考えて、各々の身の振りを考えた。
職人達は中立に回り、今後のP2としての活動を秘密裏に支える。資金のある自警団はアメリカへ逃亡し、海外から過激派と敵対する。

資金のない自警団はロンシャン率いるトマゾファミリーと共に過激派へ寝返る。過激派の中で影響力をもち、内側から彼らの行動を制限するために。

「つまり、君達は『穏健派』の形を捨てただけだったということか」
「ええ。とても難しい作戦だった。犠牲も少なくなかったわ」

事が起こった後、クレアはすぐさま初代とその守護者を日本へ送った。そして、港で彼らを見送り、過激派に寝返ったトマゾに拘束された。

過激派は何も知らずトマゾを歓迎し、そして捕まえた穏健派の者達と一緒に、クレアを処刑した。その殆どが計画されたものとも知らぬままに。

「今の私達は、フリーメイソンのイタリア・ロッジ。通称、P2よ」

フリーメイソンは秘密結社の一つだが、マフィアのように思想や商売、信念によって成り立ったものではない。
どちらかといえば富裕層のサークルに近く、まずロッジが形成され、看板を借りる形で結成される。

絶対的な中立性と沈黙を保つならばその名を借りることは容易く、イタリア・ロッジもそうして形成された。
ただ、イタリア・ロッジは犯罪の温床となる恐れがあるとかで、少し前に看板を剥奪された。以降もロッジ自体は存続しているが、名のない団体となっている。

「なかなかいい隠れ蓑じゃな」
「ええ。フリーメイソンは身分を問わないし、秘密主義だもの」

世界的に有名かつ中立的なところの名前を借りれば、警戒されにくい。不自然な会合を開いても、その名前を盾にすれば巨大マフィアの干渉も阻める。

その上、紹介なしに入会できない点と、社会的な肩書は一切問わない点も有用だった。スパイの潜入を防ぎやすく、穏健派の八割を占める一般庶民でも会員になれたからだ。

「此処はP2の連絡場所の一つなの。素敵な喫茶店でしょう」
「確かに、秘密の連絡網にはぴったりじゃな」

古ぼけた外観は若者や観光客にとって魅力的に見えないため、部外者が来ることはない。
九代目がそうだったように、初見の人は自然と隣の洒落たバールに足を向ける。
気心の知れた者だけが集まるため、スパイが来てもすぐにそれと判る。つまり、ごく自然に人払いできる店なのだ。

「しかし、君はいつの時代も地下牢に居たはずじゃが、どうやってここに?」
「あの牢には抜け穴があるし、見張りもいないわ」
「しかしね」
「抜け出せないときは手紙を書いた。それだけよ」

『姫』は超直感を持たないが、代わりに千里眼を持っている。それを使えば、歴代の仕事を具に知り、妨げるくらいわけはない。
手紙を抜け穴に落とせば、彼女の仲間がそれを拾って送り届けてくれる。それはつまり、ボンゴレ内部にもP2の者がいるということだ。

「私達は色々なことをしたわ。貴方達への妨害もその一つよ」
「マフィアに抵抗した要人の保護も、君達が?」
「それは言えないわ。同志に迷惑がかかるもの」

言えないと言いながら、クレアは九代目の問いに肯定を返した。しかし、本当に話せるのはそこまでだ。

それ以上は、同志の命を危険に晒すことになる。クレアは三日月のように目を細め、これ以上の質問をしないよう九代目に制止を掛けた。
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