告白と病

しゅるり、と包帯が解かれる。
包帯の下からは、ギプスを外しても概ね大丈夫なまでに回復した手が現れた。

とはいっても、まだ腕の骨の大半はくっついていない。
骨が完全にくっつくには、三ヶ月から半年はかかるのだ。

一週間あまりで手のギプスを外せたのは、折れた骨が少なく、また、小さかったからにほかならない。


「ギプスで固めていると、動かしても痛みがあまりないのですね」
「ちょっ、動かしちゃ駄目!」

直ぐさまドクターストップを掛けられて、ステラは困り顔になる。


「ですが…、いざ戦闘となりますと、動かさない訳にはいかないでしょう」
「ステラちゃん、怪我人が戦っちゃ駄目でしょ?大体、戦闘は昔から男がするの!」

「戦闘は、強い者がするのです。九蛇は女ばかりでしたし、これくらいの怪我なら、戦闘にそう支障もありませんよ。痛いのは、大嫌いですけど……戦わねば意志を貫けないのでしたら、戦います」


苦笑し、ステラは腕のギプスに触れた。
利き腕ではないとはいえ、やはり使える方がいいのだ。
ぐっと腕を握り締めても、ギプスに阻まれて、痛みは感じない。

確かめるように、ステラは屈伸を繰り返した。


「ステラちゃん?どうかした?」
「……いいえ」

にこりと微笑み、礼を言って、ステラは医務室を後にした。




モビー・ディック号の船縁で、ステラは歓声を上げた。

「凄いですわ、ジンベエ!」
「そうかのぅ、これくらい普通なんじゃが……」

ジンベエが背負い投げした水は、ゆっくりと軌道を描き海面に戻る。
ステラに請われて、ジンベエは、魚人空手の技で水を操るものを披露しているのだ。

ステラは、とても楽しそうに目を輝かせながら、ジンベエの技に見入っている。


「魚人には扱えて当たり前じゃから、そう褒められる事かわからん」
「いいえ、本当に、素晴らしいです。私は能力者ですから、海に触れるも叶いません。ジンベエ、海の中はどのような風景なのでしょう」


ステラの後ろにはマルコがいて、護衛をしている。魚人海賊団の船の甲板に、ステラに見惚れた男の姿を認めた為だ。

ステラの、魚人に分け隔てなく微笑む姿や、水を操る技を楽しんでいる姿は、長く虐げられてきた魚人にとって珍しく、また好ましい。
魚人が見惚れるのも、非常によくわかる。

だが、マルコ達クルーは、白ひげの独占欲が爆発したら敵わないと思うので、睨みをきかせているのだ。

美人とは常大変なものである。
思案するマルコの傍らに、タバサが立つ。


「大変ね、お目付けも」
「疲れないから苦にならないよい」
「船長が、ステラちゃんにお話ですって。多分、あの事も話すわよ」
「…………そう、か」
「……泣くかしら。……泣くわよね……」


辛気臭い空気を振り払うように頭を振り、タバサは笑みを作ってステラに近付いた。


「ステラちゃん、船長が呼んでるわ」
「ありがとうございます、タバサさま。直ぐに参ります」

ぱっと花が咲くように微笑み、ジンベエに断りを入れて、ステラはタバサと共に船縁を離れた。
その表情はとても晴れやかで、僅かに赤らむ頬が、呼ばれた事への喜びを全面に浮きだたせる。


白ひげは、自室に居た。
ステラを送ると、タバサは部屋を辞した。
ステラは、テーブルを挟んで白ひげの前のソファーに座り、白ひげの言葉を待つ。



「……ステラ。俺は、おめぇに話しておかなきゃならねぇ事がある。それを聞いて、考えて欲しい」


そう前置きし、白ひげは、ベルベットの小箱をテーブルの真ん中に置いた。
上品でシンプルなデザインの小箱は、しかし可愛いらしい形で、片手の平に乗る程の大きさをしている。

その中身など、言わずともわかる。
ステラは喜びにその小箱を見つめたが、ふと前置きが気になり、僅かに不安を兆しながら、白ひげを見上げた。

「……ステラ。俺は、おめぇより二回り以上は年上だ」
「…はい。存じております」
「おめぇが乗る、少し前だ。検査をして、俺は病気になった事が、わかった」
「……っ……?!」

驚愕に目を見開き、言葉を失ったステラに、白ひげは更に畳み掛ける。

「すぐどうこうなるって病じゃねぇが、確実に蝕まれる。治療で治るかはわからねぇが……」
「そん、な……」

知らされた事の大きさに、ステラは信じられない思いで白ひげを見上げた。
だが、こんな時につまらぬ嘘を言う人ではないのは、知っている。何より、真剣な眼差しに嘘偽りは見えない。


「ステラ。俺は老い、病持ちだ。まだ若いおめぇを結婚で束縛するにしては、随分と酷な男だ」
「エドワード、さま……」
「ステラに、辛い思いをさせるだろう。それに、俺はおめぇを置いて死ぬ」

それは、年齢的にも仕方のない事なのだが、病となれば、確実になる。


「その辛さに耐え切れないと思うなら、この小箱を拒め。俺は、無理強いは」
「エドワードさま」


ステラは、白ひげの言葉を遮った。
その目は俯き加減で、小箱を見つめる。

「エドワードさまは、私が、貴方さまの闘病を見るに耐えられず、先立たれる苦しみを堪え切れないと思うなら、結婚はしないと言いたいのですね」

白ひげが沈黙をもって肯定すると、ステラの頬を、一滴が伝う。


「非道いです、エドワードさま……」



(病だなんて、)(どうして)(ああ、貴方は)
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