想いのたけ

一つ流れると、次々と溢れるように涙が零れていく。
ステラは、涙の流れるままに、鳴咽もなく、また繰り返す。


「非道いです。エドワードさま。私を誰とお思いですか」


沈黙する白ひげの前で、ステラは言葉を続けた。


「私は、エドワードさまなしでは生きておれぬほど、お慕いして、いますのに。エドワードさまとの結婚より未来に望む、幸せなど、ありません」
「………」


ただ、白ひげはステラを見つめた。
ステラは、答えてくれない事に悲しみながら、続けた。


「例え、エドワードさまが病床につこうとも、私は貴方の側にいます。まして、貴方亡き後は、どうして一人長らえましょう。恋い焦がれて死に、貴方の元へ帰ります。貴方の心変わりより他に、私がこれを拒む理由などないのに……」


はらはらと涙を零しながら、ステラは、俯いた。か細い肩が、震える。

それを見ながら、白ひげは、嬉しくてならなかった。
ステラが責め立てているのは、白ひげが、身体の不調を隠していた事ではなく、それをもってステラの心をはかるような真似をした事だ。

心身の不調で愛する事をやめる程、軽い想いではないとステラは言う。
この世を添い遂げ、死した後も側に居たいのだと。
これより嬉しい囁き事があるだろうか。いや、ない。


白ひげは、ステラを抱き上げ、膝に乗せた。

「ステラ。目を閉じろ」

言われるままに、ステラは目を閉じた。濡れた睫毛を撫でるように、白ひげはその涙を拭う。
ステラの肩が、小さく震えた。
涙を拭った後に開かれた目は、ただ白ひげを見つめる。


「ステラ。俺が悪かった。おめぇを、見くびってたみてえだな」
「……エドワードさま。私は、もと九蛇の女戦士。とても強いのです。気も、心も」


仄に微笑み、ステラは白ひげに笑いかける。
それは、白ひげの発言を許したことを示す。一度きりと狭い事を言わないのが、優しい。


白ひげは、ベルベットの小箱を手にとり、開けた。


「ステラ」
「……はい」

名を呼ばれ、ステラは左手を差し出す。
この上ない喜びに目を輝かせ、ステラは白ひげに指輪を嵌めて貰う。

中央には上質のダイヤモンドがあり、刻まれた緩やかなラインの上は純銀、下はドロップ・パールの粉を混ぜた銀で出来ている。
細い造りが、か弱くたおやかなステラの指に似合っている。

派手でなくシンプルなのに、地味でない。
ステラ好みの指輪に込められた、沢山の想いが、ステラの胸を熱くした。
胸に満ちる想いは涙として零れ、睫毛を濡らす。


「ステラ。嫌か?」

気に入らないのかと不安になった白ひげに、ステラは、そうではないと首をふる。

「エドワードさま。とても、嬉しくて、なんと言えばよいのかも、わから、なくて。こんなに、幸せで、いつか罰があたらないかと、不安なくらいで、」


言い募るステラを、白ひげは掻き抱く。
やや乱暴に唇を奪い、何度も口付けて言葉も息も奪い取る。
ステラがか弱く胸板を叩くと、唇を離した。
白ひげは、荒い息を整えようとするステラの、髪に、額に、瞼に唇を落とす。

くすぐったそうにステラが身をよじると、放すまいとするかのように腕の力を強め、より密着する。
とくとくと早鐘打つ鼓動が、共有される。


「ステラ。おめぇだけを、愛してる」
「……っ!」
「心変わりなんざしねぇ。俺ぁ、おめぇが居るならそれでいい」
「エドワードさま……!」


熱に蕩けた瞳で、ステラは白ひげを見つめる。ぴったりと寄り添いたい思いで、その巨躯に腕を回した。


「私も、心変わりなど決して致しません。エドワードさまのお側にいられるのなら、私は、なんでもします」
「グララララ……可愛い事を言うじゃねぇか」
「か、可愛い……!」

白ひげに可愛いと言われ、ステラは照れ、またうっとりとする。
美しいはあっても、可愛いなぞと異性に言われたのは初めてなのだ。

「グララララ、可愛い以外に何がある。なぁ、ステラ」


白ひげの一挙一動に顔を赤らめ、恥ずかしがり、甘える姿は、実に可愛いらしい。
心酔しきった姿は、忠犬か愛猫のように白ひげに一途で。
それが、酷く白ひげの独占欲を満たす。


「今晩は寝かせねぇからな…覚悟しろ」
「!!」


わざと耳元で囁けば、見る間にステラは茨菰山のように赤くなった。


(嬉しくて、嬉しくて)(エドワードさま。側に、一緒に、いさせて)(ただ、それだけの望み)
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