恥じらう恋心

「陸が見えたぞーっ!」


見張りの声に、白ひげ海賊団は沸き立った。
例え海に焦がれて旅立とうとも、陸は懐かしいし、酒も娯楽も沢山ある。
勿論海軍だっているが、強い者にとってはそれも娯楽だ。


「ステラちゃーん、買い物行くわよ!」
「はい。ですが、タバサさま。その手に持っているのは……」

ステラはじりじり逃げるが、その分ナースは近寄る。その手には、マスカラ・口紅・ファンデーション・筆・その他たくさんの化粧品がある。


「コ・ス・メ!ステラちゃん、すっぴんより化粧した方が良いわよ?」
「化粧は……エドワードさまが、しない方が良いと言っておりましたから……」

「でも〜……」
「それに、ベールとタルハーを付けていきますから、化粧をしても大して変わりませんよ」


タルハーとは薄い頭から被る布の事で、アラバスタの女性の多くは被っている。
砂避け以外にも、姿形を知られない為に着用される。


「えぇー、なんでそんなの付けるのよ?」
「念には念と言うでしょう?私の顔は、厄介なレッテルで知れていますから」
「?」


ステラは、にっこりと微笑んで、タバサの化粧品を拒否した。


「そのかわり、視界が悪くなりますから、タバサさま。私の手を、どうか離さないでくださいね」
「も、勿論よステラちゃん!ノコギリでぶった切られたって離さないわ!」


ステラには珍しい、ちょっとだけ甘えるような声音に担がれ、タバサは目的――ステラに化粧をさせる――を忘れた。




白ひげからのお小遣を財布に入れ、タルハーとベールを身につけ、色みや装飾を押さえた服装を纏う。
そうしたステラは、どこぞの深窓と言っても納得されそうな雰囲気だった。九蛇の深窓だったのだから、当たり前かも知れないが。


「行って参ります、エドワードさま」
「あぁ……日没までには帰れ。海軍と怪しい奴には近寄るんじゃねぇぞ」
「はい。わかりました」
「おめぇらも、ステラに野郎を一匹も近寄らせんじゃねぇぞ」


ステラの護衛というか、同伴で、ナース達も島に買い物に出る。


「勿論よ船長!」
「ステラちゃんの半径2M以内に近付いたら、直ぐにSPを呼ぶわ」
「ナンパは殴り飛ばしてあげなくちゃ」


ステラの事となると人が変わるナース達の手には、手榴弾やスタングレネードが準備されていた。

戦闘員でないのに、下手な戦闘員より強いのが、ナースである。

意気揚々と町に繰り出すナースと、手を引かれて慌ててついていくステラ。
白ひげと、一番隊、三番隊、四番隊の隊長は魚人海賊団が来た時の為に、船に残る。


「あーあ、俺もステラちゃんと買い物してぇなー」
「オヤジが怒るぞ、サッチ」
「勝負下着とか選んであげたかったなー」
「おい、オヤジが怒るぞ?」
「やっぱバニーだよなぁ……」


びりびりと放たれる白ひげの覇気に、ジョズもマルコも、真剣にサッチを簀巻きにして海に放り込みたくなった。
夏島でもないのに汗びっしょりなんて冗談じゃあない。




――某衣料品店。


「ステラちゃん!次はコレよっ」
「あの……、シンシアさま。今ので三十着目なのですが……」
「お金なら心配要らないわよ。六百万ベリーくらいあるから!あ、これも購入で」


シンシアが差し出して来たのは、アラバスタ王国の衣装(アラビア系)。
着てみたはいいものの、腕や足がひらひらの襞で隠されていても、臍は丸出し、胸は鎖骨から六センチ下まで見えている。


「あの、シンシアさま。露出が多すぎませんか」
「そんな事無いわよ!だって可愛いじゃない。あ、次はこれっ!可愛いでしょ?」

次に差し出して来たのは、ピンクのワンピース。

「………。シンシアさま。私にも、服を選ばせてくださいな」
「えー」
「シンシアさま」

ステラは、にっこりと微笑む。
ただ微笑んだだけなのに、逆らいがたいオーラが漂う。
今のステラに逆らっちゃいけないと、シンシアの本能が語っていた。

「……は、い」

シンシアは、あっさり屈した。
ステラは服を手に取ったり、体に当てたりしながら、選び始める。

「シンシアさま、タバサさま」
「ん?何々?」

「エドワードさまは、どのような服装がお好きでしょうか……?」
「船長が好きな、服装……?」

シンシアとタバサは、ぽかんとしてステラを見つめる。
ステラの頬が見る見る赤くなって、伏し目がちな瞳は落ち着かなくうろうろしている。

手遊びに服をいじりながら、ステラはうぅ、とかあぁ、とか、言い訳じみた事を言おうとして躊躇う。
恋する乙女の姿である。


「「恋、ね……!」」
「!わ、私は、別にその、エドワードさまに褒めてもらえたら、なんて考えてなどっ……そのっ、ただ、その……!」
「考えてるのね」
「いいえっ、そんなっ……うぅ……」
「恋っていいわねぇ」


ますますステラが赤くなる。恥ずかしさと照れのあまりに、目が潤んでくる。
かわいらしくて、やや幼く見える。

「子犬みたい〜っ」
「可愛いわよステラちゃん!今のステラちゃんなら、船長も瞬時に悩殺できるわ!」
「心配しないで。私達が、船長が好きそうな服装を選んであげる!」
「名付けて、白ひげイチコロ大作戦!」


なんとも縁起のよくない名前の大作戦である。

おーっと声を張り上げて、ナース達は拳も振り上げた。長い間男所帯の中に居て風化していくもの、それは女としての可愛いらしさか可憐さか。



その後ステラは、自分好みの服と、ナース達に進められた服の中からいくつかを選んで、買った。

喫茶店でお昼を食べるステラ達の回りには、SPとしてビスタ以下五番隊数名がこっそりとついている。
既に十人以上を陰に葬っている。


「隊長、船の奴らから連絡です!」
「ん?どうした?」
「魚人海賊団が、モビーに挨拶しに来やした。相手は、随分船が壊れたり、船員も怪我だらけらしいっす」

「ありがとな。だが、俺らだけはモビーに立ち戻るわけにはいかねぇな」
「そっすか。じゃあ、そう伝えときやす」


クルーが戻るのを見送ってから、ビスタがステラ達の方に目線を戻す。
が、ステラ達のテーブルの傍に、男が立っていた。


「隊長、あれ……」
「まずいっ、行くぞ」

剣の柄に手を置きながら、ビスタは走り出した。


(心が逸るのです)(鏡を見てしまう)(陸は、どこか落ち着かないのです)
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