「ペスカ、飲んでるか?」 「一瓶開けたわよ。」 「飲めよ。さっさと飲めよ。」 「飲むわよ。プロシュートも飲みなさいよ。ほらほら」 開いた瓶を振ればプロシュートは納得して次を飲ませようとする。グラス並々に入れられて、グイッと飲めば、リゾットから無茶するなよ。と忠告を頂いたので、二つ返事で聞いておく。全く飲まない彼も彼で楽しそうだ。多分。雰囲気で判断を下す。プロシュートの絡み酒をうまいこと煽り飲ませる。酔いのせいでイケてるイタリアーノという幻想は、あ。もともとなかったわ。寝起きでパンツ一枚低血圧だもんなぁ。 ぼんやり思考をたゆたうように溢れさせていたら、また誰かに呼ばれた気がする。 「よーやくペスカもうちのチームの仲間入りみたいな感じがするな!」 「グラッツェホルマジオ。もう一杯飲んじゃうわよっ!」 「ペスカ、いけー!脱げー!」 「うっせー、メロン!」 メローネの頬を相方譲りの鉄拳で抉る。メローネを黙らせ、もとい眠らる。メローネの事だ、起きたらケロッとしているだろう。起きたらガンガン飲ませて潰すわよ。そう考えながらぐいぐい酒を飲んでいく。ずってこうだったらいいのにね。と感傷に浸っていたら、ベロベロに酔ったギアッチョが肩に手を回して絡んできた。 「ペスカーなにしょっぱい顔してんだよー」 「みんなが、幸せになるにはどうしたらいいんだろうなー。って考えてたの。」 「ほんと、テメェは馬鹿がつくほどのお人好しだよな。」 俺達みたいな日陰モノはよー。幸せになる権利は持ってねぇんだよ。ささやかな幸せが当たり前になるなんていうこたぁない、な。あぁない。こういうのを幸せにするのが日陰モノの宿命だってーの。リスクのわりにあわねー仕事してるしよー。 教えとくような口振りは、彼らが幸せでないと吹き込まれてるようにも見える。多分、まだなにか裏はあるだろうと勘ぐってしまう。 「それでもやっぱり、幸せになってほしいかな。」 暗殺者でも、幸せになる権利はあると思うよ。と告げる。 私は。どんな悪党でも殺人鬼でも、吸血鬼でも。あのDIOにさえ幸せだったかと、聞きたくなるときがある。それは毎回仕事を終わらせた後だけれども。彼は幸せになれたのだろうか。幸せを掴んでいたのだろうか。彼のみぞ知る答えを私はあまりに知らない。 「DIO…。」「なんか言ったかペスカ?」 「なんでもなぁい」 つまみに手を伸ばして、ワインを流し込む。酔った頭で考えたって答えなんか出やしない。 「…普通になりたいわね。」 やばい、ちょっと泣きそう。昔のまだ人間だった頃が、鬼になる前のエジプトの旅が心から離れない。ずっと私を縛っている気もするが、私かどれだけ悪に鬼になろうとも、私はこの短い間に家族のようなも感覚を与えてくれる仲間になにかしたくなる。ギアッチョが放った言葉の違和感も、たまに見られてる既視感も判らないけれど、仲間に対して依存のような甘い痺れに酔いしれながらペスカはそっと溜め息をついて近くにいたリゾットの腕に抱きつくように腕を絡めて顔を埋める。シャンプーの匂いが、砂の匂いを彷彿させて心に滲みる。頭に柔らかい暖かさが触れる。きっと生きてたら彼もこうしてくれたのか。彼、花京院も。 「ペスカ。」 「なんでもないわ。昔を普通だったころを思い出しただけよ。気にしないで…もう一瓶飲むわよ!」 目先に熱いモノを感じたが見ない振りを決めて、さっと指で拭って空いたワイングラスを高く掲げる。 前 戻 次 ×
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