ジョ長 | ナノ


踏み込むかと決めた瞬間背中に衝撃が走る。バランスが崩れ、石畳に手をついて、勢いを殺し一回転の刹那、足音が一つ増えた。

「仲間がいるの。ね。」
「世界は閉じた、後は君を髪と同じ深い夜にとじこめるだけだよ。ね。」

くそくらえ、こっちは十年ぐらい前から夜の生き物だってーの。舌打ち一つして、足音の主を視界に入れる。狼みたいな毛皮、おそらくスタンド能力の男が、爪を振り上げた。バックステップで下がり、すんでのところで交わし、ふと気がつくブチャラティ達が遅い。なにがあったのかと悩む前にミスタのスタンドが帰ってきた。

「ペスカー。オレタチ、トジコメラレタゾ。」
「…そういうこと。」

男のキーワードと、ミスタのスタンドの言う発言を集めれば答えは出た。閉じこめられた。まるで、鏡の世界みたいに、似て違う世界に。安直な名前は、やはり良くないな。と、思ったが、もう知らない無視だ無視。

「忘れんなよ、女。」
「とりあえず、あんたはこの世界から出れるよう探しなさいよ。引っ付いててもなにもできないわよ。」

スタンドを掴んで遠くにぶん投げた。しばらく帰ってこないだろうと判断して、頭を切り替える。バレなきゃ問題ない。一番最初の男が、能力が発動し毛皮の男が同時に声を上げた。

「さぁ、採集の時間だ」
「さぁ、狩猟の時間だぁっ」

最初に出会った男の手には手のひらサイズの待ち針が凭れていた。能力は恐らく縫い止めて狩る。いい根性してるじゃない。

「鬼を、狩れると思っているのなら、間違いね。」

世界が切り取られてるならば、つまりそういうこと。ミスタのスタンドにさえバレなきゃ、なにやっても構わない無法地帯だ。

「ヴェルデ。さ、本当のハンティングの時間だよ。」

飛び出した兎こそ、恐ろしく姿を変える。兎の形をしていたスタンドはくるりとまわり姿を変えて、そこに漂う。

「わかりやすい、スタンド能力ね」

でも、時間まで縫い付けるのは素敵な能力よね。便利だけど、相手も動けるのは良くないわねぇ。と零せば、相手は一人じゃないんだぜー。と着衣型のスタンド使いが飛び込んできた。

「ワンパターン狼ねー。興味ないわよ。」

振られる爪をひょいひょい交わして、カウンターで蹴りを入れる。まだ私スタンドすら使ってないわよ。こいつら雑魚じゃない雑魚。煽りに煽り、単調な攻撃になり、マチ針側の男が動いた。背後から狙う作成みたいだったが、無駄無駄。
スラリと身を翻せば僅かに反れて獣の男に刺さる。刺さった瞬間に地面に崩れ落ちて、よたりと立ち上がる。

「おい、」
「スマン!」
「あら、仲間割れ?」

ニヤリと笑って、兎は姿を変える。知り合いのスタンドなんて使ってやんないし、汚したくないわ。そっと皇帝を呼び出して、ぶっ放せば獣の男の鼻頭を掠め、男が小さく悲鳴をあげる。

「ビビってんの。ハンティングの時間でしょう?ペースト、ヴァニラ・アイス、クリーム」

小さな黒い球体が手の中に収まる。黒球をすぐに、マチ針の男に投げつければ、暗黒空間に右膝がもっていかれ、男は崩れた。「逃がさないわよ。あと一人。」アジトでも見せないぐらいの、爽やかに笑ったつもり。だったけれど、毛皮の男は私に背を向けて逃げ出した。どうやら、怖かったらしくバケモン。なんて言われたが、傷つくぐらいの柔なメンタルは残念ながら持ち合わせていない。

「逃がさない。って言ったわよね。」

帰ってきた暗黒を食われないように気をつけながら飛ばせば、きれいな放物線を描き、獣の男の手を切り離せば、バランスを崩した男は、腰を抜かしてずるずる後ずさる。

「うわぁあ。」
「ききたい事があるわ。」

あなたとあの男は生まれながらのスタンド使いか否か。ずいっと顔を近づければ、ひぃいっという悲鳴が聞こえたが、無視だ。クリームはずっと男の周りを回っている。悲鳴しか上げない男に尚一層クリームを寄せたが、意味なく悲鳴だけを残し意識が沈んだ。

「もう…サッサとブチャラティ達に引き渡さなきゃ。」

一発でひかかって、一発でしとめたわ。って言って愛すべき暗殺者のもとに帰ろうではないか。色付けてくれると良いんだけどなぁ。なんて思いながら、マチ針の男がそこに居なかった。赤い色をのこし、移動した形跡がある。機動力を大幅に失ったのに、そこまで出来るとは。うんうん。なんて感服していたが、逃がすなんて選択肢はない。血の臭いがある。追えないなんて、ない。

言葉と同時に駆け出して地を踏み、駆けたが、もこにもの言わぬ躯だけが、そこにいた。スタンドの名前とスタンド使いの名前さえ知り得てたら使える力も有っただろうに、なんて考えるのが億劫になった。考え出したらキリがなく距離が離れたが為か、世界が戻り遠くに人の気配を感じた。



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