慌てて駆け寄ってみると、虚ろな赤い目をしたムツは何かにつけて怯えるように一点を見つめていた。 譫言のように嫌だ。とごめんなさい。繰り返し、水のみ鳥のように首を振っている。 明らかに様子がおかしい。 「セト」 「わかってるっす」 目をそらさないようにセトがムツの目を合わせ、頬を包み固定する。触れられた事にピクリと反応を示して、ムツは、二言三言呟いて、糸が切れたように気を失った。 「何が見えた。」 「…左足に怪我と、一番最初の過去が、…」 やはりか。と言わんばかりにキドは、あぁ。と返事をして、静かに息をした。無事で良かった。 「…キド、帰ろう。」 「そうだな。馬鹿には連絡いれておく」 セトがムツを背負い。長い影が地面に延びていた。能力使いすぎたんだろうな。とぼんやり考えながら、セトが言う左足の怪我を見つめた。血はからからに乾いていた。割けた跡と洗い流してない所から、なんとなく判断は下したが。 「……掠っていたのか。ムツ」 また隠しやがって。不機嫌そうに漏らすキドは苦虫を潰し、歩幅を並べ歩く。 「キド、落ち着くっすよ。」 「対等だと思ってたんだ。」 俺達は対等だと思ってたんだ。暗い過去はあれど、隠し事なんてないと思ってるんだ。ムツは、俺をすぐに見つけてくれたから、俺もムツを見つけなきゃ駄目で。ムツならカノの能力も無視して本心に近いし、似ていると思ってたが、以外で似てなかったのかもな。 「ムツもキドも似てると思うっすけど」 「わからない、な。酷くわからない。」 ムツが何を思って散歩に出るなんて。様子がおかしかったのに、もっと引き止めれば良かった。そしたらこんな事にならなかったのに。 「たまにムツが居なくなりそうで恐くなる。」 隣から、ため息に似た声が響いて、セトは困ったように笑った声がする。顔をあげたくてもあげれないキドは、目を伏せたままだった。 「…お、やじ、さん…うぅ…」 「こっちもえげつないの抱えて眠ってるみたいっすね。」 「早く帰ろう。きっとすぐに目を覚ますだろう」 足音二つ、ゆっくりアスファルトを蹴り、アジトに向かうのであった。 怯えた赤は、堅く閉じられたままであった。 前 戻る 次 ×
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