嫌だ。見たくない。目を向けたくない。 見ないで。傷だらけで汚い私を。 オトウサンが、高く振りかぶる。痛いのはもう嫌だ。辛いのももう嫌だ。 焼かれた跡がジリジリ痛む。蹴られた過去がズキズキ痛む。切れた傷が開いたようにだらりと血が流れ出る感覚もある。 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。 これ以上見たくもない。と首を振れど、過去は目を向け感覚が繋がる。 「ムツ。」 頬に手が触れた。包むように両頬を撫でられて、目線を上げれば、そこにはニタリと笑うオトウサンがいた。違うと解っていても、過去が記憶を塗り重ねていく。 「…オトウサン…や、めて…」 酷くかすれた音を紡いで、ムツは地面に崩れ落ちた。ふと思い出したのは、自分の目に似たマフラーだった。 ムツを追いかけようか迷っていたが、三時間経っても散歩から帰ってこないのが心配になってキドは町中を歩き出した。夕暮れの人ごみを縫うように探したが見つからず、時希にカノに電話してムツが帰って来てないか連絡をせども、電話口の向こうからNOしか来ない。 酷く青ざめていたようにも見えた。疲れから来ているのなら、能力のコントロールもとれなくなって来ている可能性もあるし、ムツの能力ならば傷から目を向かせないようにしているかもしれない。 「…ムツ…どこに行ったんだ…?」 考えこんでみても、答えは出ない。 目を向けないようにしているのかもしれないからと注意深くみてもその気配すらつかめない。 隠せない動揺を抱えて歩いていたら、帰宅途中のセトと出会った。 「セト。」 声をかければすぐに気が付いて、緑がこっちを見つめた。 「あ、キド今帰りなんっすか?」 「ムツが見つからない」 「ムツが…?」 「見てないか?」 みてないっす。どこ探したんっすか? 問にぽつりぽつりと重ねあげれば、残りはもうすぐさきの公園に行きつく。 「そこを覗いてから、居なかった時を考えよう。」 いままで能力の暴走したときは彼女が真っ先に見つけてくれた。目の能力もあるけれど、やはり探したい。急ぐ足がタッタッと音を鳴らし走る。 公園に入った瞬間に、ひきつけられるようにそこにしか目が向かなくなる。注意深く見なくても、ハッキリ見えた。 前 戻る 次 ×
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