人波に揉まれ続けて、ふと気が付けばアジト近くの公園にたどり着いた。日は世界の隅でオレンジ色になろうとしている。 ベンチに座り足元を見れば、刃物で裂いたような傷が一つ。血は止まり、干からびた血液が肌にまとわりついていた。 大して酷い怪我でなくて良かった、掠っただけで、帰ったら消毒しないとな。とゆっくり息を吐き出した。 キドが心配性なのは、私が黙り続けるからだとも知っているが、必要な事にかんしては報告してるんだけど、たまにこういうところがある。キドも私も似ているからこうなんだろうけど。 私もキドも心配しすぎなんだ。大事な今をなくさないようにするのに必死なんだ。 小さくため息をついて、空を見上げる。 痛くて辛くて長くて怖い夜が、もうすぐ来る。怖い要素だなんて、もう無いのに、私はどうして怯えてるのだろうか。とぼんやり考えていた。 帰りたくないな。キドはまだ怒ってるかな。もしかしたら心配になって泣いてるかもしれない。あの止め方はムツもまだ聞いたことのない怒声だった。カノは、ムツだって子どもじゃないから、帰ってくるよと言ってそうだ。マリーはきっとそんな二人の間であたふたしているのだろうか。 目線を上に上げれば高くに浮かぶ小さな月が、見える。 ふと、昔の記憶がふと蘇った。 ベランダに繋がる大きな窓から、月が笑っていた気がした。 オカアサンは夜が来る前に誰かと会うために家を出て行く。夜が来ればオトウサンなんて呼ばなきゃいけない人に殴られる。痛みにこらえて、ただ夜が終わるのを待っていた。 “あんたなんか産まなきゃよかったのにねー” “…お前がいるからだ。お前がアイツを…” 「…嫌だ…」 “ナンカ言いなさいよ” 「…」 響く声と迫る過去に首を振り、頭を抱えてうずくまる。けれども目は過去を捉えて離さない。 「…ちが…」 “このノロマっ。アイツに似た黒い髪なんて、燃やしてやる…!” 「…いあ…過去が、目を…やぁああっ。誰も」 “あいつに似た黒い髪も…!” 「嫌ァ。」 “殺してやる。” “あはは、アンタも痣増えてきたねー死んじゃえば?” 痛い。辛い。もう動けないかも。 脳裏にかすめる過去の記憶が、酷く痛い。 もう誰も目を向けないで。 辛くて絞り出した悲痛な叫びが夕暮れの公園に響いた。 赤は尚更赤になる。 前 戻る 次 ×
|