ルドルフ | ナノ



上と下を二つに負けて魔物は凍てついた氷を吐き出した。満足そうに飼い主に噛みついて、暫く分かたれた体をまるで犬が玩具にじゃれるが如く遊んだ後、つまらなさそうに一鳴きして獣は消えた。
地面を踏む爪の音が止んだ。

サメラの行動できる範囲に噛み千切られた上半身が無残に転がっていた。サメラはそれをどうすることもなく隣に座り、命令が下るのをただただ待っていた。
心が壊れ、心だけ成長が止まったのだ、死など理解しようがない。出きるはずもないのだ、自然と悟る事も、考える事もしない。飼い主が死んだ。と言う現実を理解出来てないのだ。

ただ横にサメラは腰を下ろして、ぽうっと呆ける。胸の奥まで刺すような冷たさがサメラを襲う。寒さに震えながらサメラは、上下に別れた飼い主を見つめていた。ガタガタの噛み傷から赤が絶え間なく流れ、赤黒く固まる。

ゆびさきからだんだんとかじかむ感覚が伝わる。ひりひり痛むような冷たさにも応えず、サメラは耐えていた。
どれぐらい時間が経ったかなんて成長の止まったサメラは気にせず、動かない飼い主から命令を待っていた。またお前は。と怒鳴りながら打たれるのを、分かっていたが、逃げる先に何もないのを今までに見てきた犠牲が物語るから、サメラは逃げなかった。
暗い瞳は闇を射る。もうすぐ夜になるのだろうか。隙間風が鳴る中で遠くから靴が鳴った。

「誰か生きてるか!?」
「………」

獣が入ってきた入り口とは別の出入り口から男が入ってきた。闇に慣れたせいで男が持つ松明の火が目に染みて目を背けて、鎖が金切り声を上げて、足元に刺さる冷たさを思い出した。

「大丈夫だ。俺は、お前を助けたいんだ」

男は一度飼い主に手を合わせてから、飼い主の衣服についた鍵束を探し、その鍵でサメラを縫う鎖を外して、サメラを抱えあげた。高い視線と、飼い主が起きた時に近くに居なければまた殴られると判断して暴れた。

「お、落ち着け!落ち着けな!な?」

無理やり抑えられサメラは、この時男と目線が合った。きれいな青が目に入ってきたサメラはその青に吸い込まれるような感覚に、感じたことのない感覚に襲われた。

「暴れんなよ。」

頭を二三撫でられて、満足気に男が頷いた。今日の公演で飼い主を煽って帰った男だと知るのは、すぐだ。



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