ルドルフ | ナノ



受付前広場が祭りの祭典会場としてこしらえられていた。地面にはいくつかの正方形のステージ代わりの紐が置かれてたが、敗退者が増えるにつれて、そのステージも広くなって広めの正方形が一つ地面に置かれていた。
その正方形の中に人影が二つ。

「やっぱりお前が残ったか。カイン」
「そうだろうな、サメラ。」

ステージの外では司会進行役の男がサメラの経歴やカインの戦いぶりをほめあげて場の空気を盛り上げている。過去優勝者であるサメラには様々なハンデをつけられながらも臆さずひるまずかかってきたものを全員場外へとたたき出して試合を成立させているらしい。一方カインは順当に殴り合って勝ったらしく正々堂々とした戦いぶりが評価されていると言っている。

「俺は一人の武人としてお前に勝負を申し込む」
「そう、まぁ何でも好きにすればいいよ。こちらは正当な手段で戦うからな。」
「お前の戦うは規模が違うんだ」
「そうか?やばいものと戦うことも減ってるからエブラーナにつくまでに、いい腕慣らしだ。」
「俺は月の魔物と同列か」
「さぁな。進行、そろそろ始めよう」

サメラが進行役に声を投げると、我を取り戻したように返事をして話を進めて、開始の号令をかけると言い出して、カインが身構えたのでサメラは姿勢を低くする。開始の号令と共にカインが飛び出してくるので、体を捻ってかわして膝を入れる。カインはそこで一旦止まったので完全に膝を入れそびれたことに小さく舌打ちを一つ。その音を聞いてかカインは口角を上げた。

「珍しいな。」
「うるさいな。」
「攻めてこないのか?」
「ルール上こちらからは手を出せないんだ」
「じゃあこちらから行くぞ」

右の大振りの一撃。開いていた脇を見てサメラはそこを狙って拳を入れた瞬間カインの肘が飛んできたので急いで身を捻り少し掠ったけれども、左腕が少ししびれて顔を歪めた。魔法も武器も攻めることも禁止されているので、出来ることは限られているからこそ、力で押し込みをかけて場外にもっていくのだが、相手は戦い慣れている相手なので手も読まれているのか接触を極力減らしているのがうかがえた。高度な読み合いをしているのを司会が実況しているのがうるさいけれども、視線を外せばカインは攻めてくるのがわかるのでにらみつけることもできず歯を食いしばる。

「お前は。めんどくさいな。」

魔法を使えたらなんて思うけれども、今回のルールについては拳のみの限定なので使えないからこそ、リーチ差と体格差で圧倒的不利なのだが。何か一気に逆転できる手がないかと考えて、二三案を浮かんでカインを一瞬停めれるような案を思いつくがルールに抵触するからと踏みとどまる。
人の二歩ほどの空いた距離でカインは再び仕掛けてくるので丁寧に捌くなんてことはせず足で蹴り飛ばして、遠くにやったが場外ギリギリ手前に着地してそこから一気に加速してサメラにまっすぐ駆け出した。

「行くぞ。」
「来い。」

飛んでくる拳を返してさばいてひるがえすようにやり返す。対等の力量かとも思えたのだが、仕掛けることを禁じられているハンデがあってこそ対等なのがおかしいのである。対等で均一とも思え、観客たちが固唾を飲んで見守っていたが、風が吹いてサメラの服が一度ひらりとめくれ上がった瞬間カインの動きが止まったのを見逃さず握りこぶしを放つ。
下から撃ち放つ鋭いアッパーカットは吸い込まれるようにカインの顎に入った。ぐらり揺れて、ひっくり返るように地面に崩れ落ちた。それと時同じにして静寂が訪れた。先ほどまで煩かったのが静かになった。一呼吸するほどもないほどの短い間だっだが、それをも掻き消すような轟くような雄叫びがあちらそちらで吠えた。地割れでも起こしそうな歓声の中でサメラは数歩先のカインの頭もとに立つ。

「くそ、お前本気でやりすぎだ」
「なら、カインお前が弱くなったんだよ。鍛練を怠ってただろう?」

そういわれてぐきりと身を固くした。確かに心当たりはある。日夜書類に囲まれていた記憶は強い。サメラから目線を反らしていると、 一つため息を吐いたサメラはカインの手を差し出した。カインはその手とサメラを見てからその手を掴んだ。

「よし、じゃあ続きやろうか。」
「は?」
「みんなに話が有る。」

私は旅人だ。正直言って優勝賞品を持って動けないのでな、何人でもかかってきていい。鐘一つ鳴るまでに全員で私に一発入れれる者がいたらそいつに優勝賞品をくれてやる。当て切らなかったら私では食料を傷ませるだけなので、みんなで食おうじゃないか。せっかくの豊饒の祭りだ、これぐらいやらないでどうする。
にやりと笑って、周りを見る。煽るように言ったこともあってか、反応するように一気に歓声が再び沸く。

「おいサメラ、正気か?」
「勿論、お前も大量の食糧を持ってエブラーナに行きたくはないだろう?」

ならここで全員に配っておいた方があと腐れなく次も参加するのが気楽ってもんだ。流れの者に持っていかれるのは悲しい話だしな。そう言い切ってカインから離れる。お前も参加しろと一言残して視線をカインからそらして歓声が沸いている聴衆を煽るように言い切った。

「さ、いつでもかかってこい。全力で迎え撃たせてもらおうではないか!!」

サメラの視界で人が飛ぶ。それでも平然としてサメラは笑ってすべてをなぎ倒すための、計算をはじき出すために頭を回す。また無駄に伝説を一つ作り上げたのであった。



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