ルドルフ | ナノ



そうして数時間魔法によるブーストによって船はエブラーナが有する大陸に入り、港町にたどりついた。石畳の船着き場から降りると、町は人でにぎわっていた。

「ここがエブラーナの外交の玄関口にあたる街でな、一番よその国の影響を受けやすくてな。」

足元の石はトロイアにならった作りになっているんだ。指さした地面は丁寧に表面を削られて歩きやすい石畳だ。バロンでよく見る組みかたとも違うらしく、どことなくいつもと違う感じはぬぐえない。

「とりあえず、飯食べてから考えるか。日程も短くなってるから、今晩宿で泊まるか。宿行くぞ。」

さっさと歩きだすので、カインはサメラの後ろを追いかける。にぎわう人込みの中を迷うことなくすり抜けていく。カインは小さなサメラの背を目印に歩いていくと人にぶつかりそうになりながらもなんとか追いつく様に歩く。

「お前歩くの早いぞ」
「そうか?お前が街中を歩くスキルがないだけだろ。田舎者か?」
「たまにの一言がきついぞ」
「お前世界中旅した経験あるくせに、それはいささか世間慣れしてなさ過ぎだろ。」

迷いなく歩いて一軒の店にたどり着いた。そこは、酒場と宿屋を同時にやっているところらしく、酒の匂いが濃いし、喧騒が外からでも聞こえているほどのにぎやかさだ。サメラは気にすることなく中に進んで宿屋の受付のほうに進んで交渉し始めているので、慌ててカインはサメラの背中を追ったが、隣につく頃にはもう話も終わって金額を手渡していた。

「二人部屋だが空いてたぞ。」
「は?」
「…だめか?」
「いやいや、まて、お前は女だぞ?」
「軍属だったら別に男女もないだろ?」

こいつはそういう女だった。部屋割りなどもそこまで気にしない。旅慣れているからこそそのあたりの概念が弱いのだが、軍属になったことで尚更そういう点の概念が弱くなった気がする。平然と男たちに混ざる弊害なんだろうなとカインは感想を持った。

「部屋に荷物を置いたら着替えて街に出るぞ。」
「何を言ってるんだ?」
「お前が色々と見たいというからだろうが、そんな鎧脱いでしまえ。」

祭りに武器なんていらない。酒と陽気と拳さえあればな問題ないさ。そういうサメラに一度ん?となった、今確かに拳と聞いたような気がするのだが。追求する前にサメラは荷物を持って部屋に上がろうとするのでカインはその後を追いかけた。雑な階段を上がってすぐの部屋をもらったらしい、日当たりの良い小さな部屋には大きなベッドが二台置いてあった。

「ちょっと先に水を浴びてくるけどどうする?先に行っててもいいぞ?」
「お前を置いていくか。」
「はいはい、じゃあすぐ帰ってくるからいい子で待ってな。」
「俺の扱いは子どもか。」
「さてな。」

ケラケラ笑ってサメラは部屋をさっさと出ていった。遠ざかる足音を聞きながら、ふと息を吐き出した。いつも常時着用する鎧を脱いで部屋の隅に置いていると水浴びを終えたサメラが戻ってきた。ラフに流れの旅人だと言える服装であれど、どこか魔導士のようにも見える服装は、動きやすさをメインとしているらしい。

「支度は出来たか?」
「出来たぞ。」

じゃあ行くぞなんて言って、サメラは歩き出して、二人は町中に飛び出す。昼過ぎ頃の時間に、賑やかさは増していて、店も開いてることもあってか呼び込むような声があちらこちらで聞こえている。

「そういえば、お前が言ってた祭り、とは?なになんだ?」
「喧嘩祭りだよ。拳だけのやつさ。お前も勿論エントリーするだろ?」
「は?」

当たり前と言うように言い切るが、腕っぷしが強かろうが先の大戦の英雄で有ろうがサメラは女である。驚いて一瞬だけ足を止めてしまったがすぐに隣に並びおいと

「安心しろ、私は片手しか使えないし?」
「そういう問題じゃない。」
「だって、先の大戦前に優勝したが?」
「え?」
「団長に突っ込まれて。参加させられた。」

その年の優勝賞品が二月分の食品だったんだ。目線をそらしながら、その時大所帯だったから正直あれがなかったらある程度しばらく暮らせてなかったかもしれない。なんて言われたらカインは何も言いにくい。

「多分今年もしばらくの食糧だろうな。」
「お前参加するつもりなのか?」
「するだろ?色々見たいって言ったのお前だぞ?」
「ぐっ。」
「参加するだろ?」

ま、お前が出るなら私とお前とで優勝決定戦だろうけどな。そんな予想が当たるのは鐘が二つ鳴った頃合いだった


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