サメラとプロムがミシディアを出てしばらく、北に北にと歩みを進めていた。その土地の魔物を狩るついでにプロムのラーニングも行い、様々な地を移ろうて来た。たまたまその土地に来たのも特殊な魔物が出ると聞いて、そこにした。それだけであった。その近くだと言われるような場所に小さな町があるとも聞いたので、サメラとプロムは、その町で宿の手配も終えて暫くの旅の要物を買いたそうと、ぶらぶら歩いてると町に商団が入ってきたと聞いた。流れのキャラバンなら何かいい情報があるかもしれないと歩みを向けた。 そこにたどり着くと様々な商品が並べられていて、吟味しているとふと名前を呼ばれて顔を上げる。そこには店番と言わんばかりに広げられた商品を挟んで向こう側にカインが立っていた。 「お前も旅に出てたのか?」 「あぁ。」 「一人か?」 「ミシディアの子と居る。青魔導師のな。……お前は?」 俺は一人、しばらく放浪してからどこかに決めようと思っている。どこか良いところはないか?そうだな……。サメラはどこがいいだろうかと思案を始める。近場でしばらく腰をすえても、と脳裏に様々な情景を浮かべて、そうだと一つ思い出す。 「今晩にでも行ってみるか?夜なら空いてるだろう?」 「今晩?」 「それなりに歩くが行けば解る。」 プロムはまた別日に連れていく。ここでしか見れない幻想的な場所だ。行くか?とサメラはカインに問いかける。青い瞳がまっすぐカインに向けられた。カインはゆっくりわかったと伝えるとサメラは、じゃあこのぐらいの頃にでも、ここで、軽く寝ておいた方が楽になるぞ。と必要な事を伝えて、サメラは買い物をするために広げられた品々を吟味しはじめた。食料を少し買い足して、等価の銀貨で支払いを済ませて、ではな。と言葉を残してサメラは立ち去った。その背中は依然として変わらぬまま遠くへ歩いていた。そんな背中を見つめていると、キャラバンの人に散々からかわれるのであった。 時間が過ぎて夜になり、サメラが指定した時刻になった。カインはキャラバンのテントを抜け出して集合場所に着くとサメラはそこで小さく座って待っていた。うつらうつらとするチョコボの翼の根元に腰かけて手には小さな火灯り代わりに炎の魔法を掌で弄んでいる。そちらに寄っていくとサメラは足音に気付いてか顔を上げてカインをみた。何を言うわけでもなく待っていて、あと数歩というところでやっとサメラはチョコボから降りて、行くか?と声を上げた。先の大戦よりも硬くない声色だった。 すまないが起きてくれ。とチョコボを揺すると、うつらうつらしていた瞳がハッと開いた。太陽を彷彿させるような毛色のチョコボが円らな瞳を細めてサメラの手に嘴を寄せる。サメラはそれにしたがって二三度鼻面を撫でてから、頼むぞと小さく声をかけるとチョコボは、小さく鳴いて、立ち上がる。しっかり立ったのを確認してからサメラの身の丈以上のチョコボを、御してサメラは颯爽と飛び乗る。ばたつくチョコボを宥めてからサメラはカインへと手を伸ばした。 細く白い手には沢山の努力ともいえる傷があった。そんな腕をカインは見て一旦止まる。それでもサメラは気にすることなく「お前も乗れ。」と鈴のような声で言う。 そのまま視線を上にあげると、沈黙した海がそこにあった。真っ直ぐにカインを捉えていた。カインは一瞬躊躇ってからサメラの手をつかんでチョコボに乗りあげた。バランスを崩しかけるのでサメラがカインを引っ張り上げてサメラの後ろに座らせる。しっかりつかまってろ。というサメラの声を聞き取ってすぐに体制をとるとチョコボを軽く蹴って走るように促す。 小さくチョコボが鳴いて、土を蹴りだした。だんだんと速度を上げて行くのにあわせて上下の揺れが増していくがトップスピードぐらいになると、揺れが一気に穏やかになった。 「今からどこに行くんだ?」 「この時期限定の風物詩だ。」 朝には町につくがほぼほぼ夜通しで走るからな。とサメラが言う。風の音でかろうじて聞き取れたカインは、怪訝そうに眉を潜めるが、サメラの目は前にしかついてないのでカインの気持ちなんぞ知り得ることはないだろう。 「ここから北に上がるとな、1日沈まない太陽があるんだ。お前たちは飛空艇で飛ぶから、そういうことも知らないだろ?」 「太陽が沈まない?」 なんだったかな……あんまり興味がないからそんなに覚えてないが、南にひたすら下ると違う季節に夜ばかりの場所ができるらしいが。まだそっちには行ったことがない。あんな僻地はいくもんじゃないが。 「太陽が沈まない……」 「その近くまでは行けるがあのあたりは陸地がない。船で行くものだ。」 真っ暗であの海は渡るものじゃないから、あまり好かれてないがな。この時期なら今から行く先には船は多い。見るのは楽しいぞ。船は。最近船についてはいろいろあったがな。飛空艇はうち落とされたし、帆船はリヴァイアサンに沈められたし。 「おい。」 「まぁ、船でなくチョコボたから、そうそう沈まないさ。」 淡々と言う姿にシュールさを覚えるが、本人に至ってはそんなつもりもないのだろう。過去の笑い話として扱ってくれたらいい。と言わんばかりに、この近くであったことを淡々と話してくれる。キャラバンにいたころの婆様がこのあたり出身で教えてもらった。とか、このあたりにいた頃は…だとか。手慰みというぐらいの感じではなしをしているのだろうかとカインは首をかしげながらサメラを見る。密接。以外に例えようの無い近さなのでサメラのつむじしか見えない。何を考えてるのだろうかとぼんやりサメラの話に耳を傾ける。エブラーナはいつがきれいだとか話をしている最中にサメラの口が止まる。私ばかり話をしているな…なぁ、お前はどこを見てきたんだ?とサメラはカインに問いかけた。 「あぁ、話したくないなら私の背を二度叩け。ノーなら沈黙。黙れは一度。」 「お前の話を聞いて、みてみたくなった」 そんな話をしたか?と言わんばかりに首が少し傾いた。傾けながらも視線は前を見ているので、チョコボを操舵するスキルは高いらしい。チョコボの足音だけが響く。沈黙だが、重くはない。砂を蹴り上げる音に時折木やらを踏む甲高い音を聴覚がとらえる。さまざまな音が聞こえる心地いい沈黙が降る中で、口を開いたのはサメラだった。まぁ、お前が決めたことだろう?なら進むだけだ。そういった。 恐らく彼女の表情は少しだけ嬉しそうだとカインはそう思えた。珍しく声色が高いからだ。ただそれだけでカインはそう思えたのだ。付き合いは比較的短いのだが、どうしてそうおもえたのかはカインにもよくは解らない。まっすぐとしたそのどこかに無意識的に柔らかさを感じ得たのだ。 「世界は不思議に満ち溢れている。お前がここで見たものがどう思うかは知らないが、糧になるといいな。」 お前もなかなかの手練れだ。まともに闇に食われて戦うのも一苦労だ。とサメラは言う。お前は食われてたくせに何を言っているのだと言い返せば、私はそれに対して手を打っていたからな。死んでしまうように、石化するように手は打っていたが?お前たちに刃を向けなくていいように、な。とサメラはそう言い切る。それに言い返せなくて 「もうすぐでたどり着くが、一旦目をつぶっていた方があの世界はきれいだぞ?」 「わかった。お前が言うなら。」 カインはそのまま目を閉じた。体幹と振り落とされない自信があったので、鞍のふちを掴むのだったが、落ちるぞ。とサメラの声が聞こえた。そのままカインの手をむりやり掴んでサメラの腹の前で掴むようにした。必然的にカインとサメラの距離が全くない。一瞬驚いて目を開いた。小さな背中が間近に見えた。長い髪はチョコボに乗るために高いところで結ばれていて、襟元の隙間から白い首が見えた。白い首にかかるほどの大きな傷がいくつか走っている。長いほど昔に受けた傷なのだろう、うっすら肉が盛り上がって縫合した後が残っている。 「お前はいくつからそうやって戦ってきたんだ。」 「すまない、見えたか。気を悪くしたか。目をつぶれと言ったのに。」 回した腕から深く息をついたのがわかった。お前がいきなり動かすからだろう。と言えば、そうだな。悪かった、淡々と返事が返ってきた。戦いを覚えたのは、今からおよそ15年ほど前だ。あのキャラバンで教えてもらった。移動の際に戦力が欲しいと言われたから覚えた。まぁこんな話はつまらないだろう。寝たら起こしてやるから、そのまま目を閉じているといい。お前たちは朝が来たら旅をまたするんだろう?今の間にも寝ておくことを進めるぞ? 「寝るには時間がないのだろう?」 「まぁな。そのまま話でもするか、何も見えないのだから退屈しのぎになるだろう。」 じゃあ、こんな話はどうだ。とサメラは口を開いた。 ミシディアの双子の話だった。そのまま、色々な話をしてしばらく、サメラがついたぞ。と言って、チョコボの足音が止まった。目を開いてもいいぞ。と言うとサメラの後ろから、感嘆の声を聴いた。 カインの見た世界には薄ら白い世界が広がっていた。朝焼けのようで違う白さは鮮やかさを奪ったような色をした世界だった。 「この時期のしばらくは、こういうのがずっと続くんだ。反対に南に下っていくと、ずっと夜が続く場所があるらしいぞ。」 「すごいな。」 このあたりはあんまり人もいないから、このあたりに身を隠すならお勧めはするが、魔物を狩るという意味ではもう少し骨が欲しいかもな。そんなことをいいつつ、サメラはチョコボから降りた。いったんチョコボを休ませるからさっさと降りろとカインの足を叩いて降りろと促す。悪い。と言って彼は下りた。身が軽いからか着地の音もない。 「飯でも作ってるから勝手に散歩でもしてろ。」 「わかった、しばらく周りを見てくる。」 はいはい。出来たらわかりやすい合図を起こすからそれで帰ってこい。と返事をしつつサメラは炎を起こした。カインは視界の端でそんなのを見ながら、ふっと息を吐き出して適当に歩き出した。サメラはそんな背中を見送って、チョコボに飯を与えてから、料理の支度でもと荷物を取り出した。旅慣れた鍋はこの間の大戦でも使ったものだ。「また、あいつに飯をふるまうなんてな。世界は不思議で面白いな。」ぽつりとつぶやいて、サメラはくるりと鍋を回す。氷魔法で鍋にかけらを突っ込んで炎で溶かして鍋に水を入れる。炎の勢いを増させるために風を起こして、鍋の周りにとどめさせる。 「あいつも、もうちょっと柔らかくなればいいんだけどな。」そしたら、きっとローザたちと和解できるはずなんだが。まぁ、こじらせた奴は厄介だものな。まぁ。厄介な方が人生は楽しいというらしいけどな。 誰に聞かせるわけでもなく吐き出した言葉はチョコボの寝息で消えた。サメラは呆れたように一度だけ笑って、料理をするために手を動かし始めた。サメラの表情は穏やかに笑っていた。手早く料理を済ませて帰ってくる頃にはいい手頃になっているだろう。わかりやすいように点に大きな流星のような炎でも打ち上げてやろうかと思いながら、春のような突風の風を生んでそこに言葉を埋めてサメラはカインに向けて言葉を乗せて送り出した。 前 戻 次 ×
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