増殖していく触手から、逃げるように走り、道中一人の少女を拾って、地上に出て魔導船に乗り込み慌てて浮上するように月から離れる。窓の外に見える景色が、幻のように消えていくのがうかがえた。遠くなるにつれ、塵のように消えて、瞬く間に先程たっていた星が、なくなっていた。 戻ろう。というセシルの単語でサメラは今自分がいた場所を認識する。が、いかんせんどうして、こうなった?と問いかけたくなるような、現実ばかりで、呆然としているばかりであった。昔見知った面影のあるもの、がそこそこいるのと同時に、知らない顔も同等数いる。その中でも異質を放っている黒衣の男に目を向ける。 はて、どこかでみたような。と首をかしげて回りを見回していると、エッジがふらりとよってきた。 「カイン、おめえいつまで、ルドルフと手繋いでんだよ。」 「俺は、別に。」 思い出したように掴まれていた手がほどかれ、聞いた名前を思い出して、「お前。竜騎士だったのか。」とこぼれ落ちた。そういえば、素顔もみたことなかったと、一人納得する。 「サメラさん。あの。」 おずおずと、小さな少年がサメラに声をかける。竜騎士を視界からはずして、目線を合わせるとはじめまして。と言われた。 「僕は、セオドア。と言います。父から母から仲間からサメラさんの事はたくさんお伺いしました。」 お会いできて嬉しいです。その目は、酷く昔の仲間と同じ目をして、その瞳に親譲りの意思の強さはよく伺えて、サメラは小さく口角を上げた。 お前の父セシルと兄弟のサメラだ。産まれたときには見には行ってたが。大きくなったな。いい目をしてる、強く善き剣の使い手になれるだろうな。 そっと誉めてやれば、セオドアは嬉しそうにこちらをみている。 「とりあえずセシル。現状把握をさせてくれ。」 「サメラが、バロンに居てくれるならね。」 こうでも約束しないとサメラは逃げるからね。とセシルが言う。使いすらも撒いて逃げてるんだから君の情報は少ないんだよね。と魔王はニッコリ笑う。隣の竜騎士は小さく笑いを溢したのを睨み付けたが、スッと交わされたので行き交いの際にこっそりと足を踏んでやろうと心に決める。 「……二年な。」 「もう一声かな?」 「三年」 その間に、サメラの気が変わればいいんだけどねぇ。とため息混じりに離されて、もしかして謀られたのかと錯覚しつつ、意識のすりあわせを行うのであった。 そのなかでゴルベーザと対面した時の顔が酷かった。と言うのが、全員の共通した認識であったのはここだけの話である。 前 戻 次 ×
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