演舞 天の川にかける思い 4 





ライブ当日、ぼくはぎりぎりまで寝てましたし、人形遣いはぼくの衣装の調節を行っていました。そういうのもって、かなりの遅刻。歩いていけばいいと思ってはいますが、気が逸ってるのかみかが先頭を走り、ぼくと人形遣いが手をひかれて人混みの中を走り抜けます。

「すんませんすんません、道を空けてください!お師さんも央兄ィも早ぉしてっ、思った以上にまずそうな状況やで〜!?」
「みかがどれだけいそいでも、人の速度は一定ですから気にしなくてもいいんですけど。」
「ひっぱるな、影片。人混みで酔ったのだよ」

ぼくらの帝王はほんとに人が嫌いですねぇ。そうこぼしながら、ぼくはあくびを噛み殺す。人に酔ったといいつつも、安定安心のいつもの帝王節が繰り広げられているので、ぼくは横目でみやりながら、口を開いた。

「まぁ、下準備を始めるとするならば遅いでしょうし、手持ちぶさたで処理を行うとしたらずいぶんとずさんなことで。高貴なるなんていう言葉を議論する必要はありますかね。」
「ずいぶん遅かったね。待ちくたびれたよ。暇潰しに罪もないうさぎ兎さんたちを切り刻んで遊ぼうかと思っていたのだけど。その必要はなくなったみたいだ」
「ミートパイを作って振る舞うと仰ってたその口が語るのはひどく滑稽ですね。」

そうして皇帝は、ぼくたち『Valkyrie』が『fine』の対せん相手として出場することでOKかな?と問いかけるので、ぼくはにっこり笑います。返答は人形遣いがリーダーなんですからしますでしよう。そう思っているとぼくたちと皇帝の間になずなが割って入りましたが、人形遣いは高笑いしてから皇帝に手袋を叩きつけた。

「年に一度の七夕だ、願いを胸に存分に楽しもう。」

うれしくて踊りすぎ、足元を掬われないように気を付けてくださいな。ぼくはそう口を開いてから、歌うために大きく息を吸った。歌うために体は十二分に暖めていると、なずなが実況になったようで、あれやと言葉を選び広めている。その足元でぼくたちは静かに皇帝の喉首をえぐるために牙を光らせた。

「今回だけは特別に宝物庫のなかみを一時的に開陳してやろう。」

まったくもって面倒だけれど、片手間にあそんでやるのだよ。わかっているね小鳥。勿論ですよ。見せびらかすのは、ぼくの得意分野の一つですからね。
見られていくらの篭の鳥。鳴かぬ鳥はタダ飯喰らいなだけですからね、こういうときにこそ、仕事をするんですよ。
ぼくの声をマイクにのせれば、ぼくの奏でた音が流れ出す。学院の音は半分ほどぼくの音でもある。誰に合わせたかというと、みかに似合うように寄せた音であるのし、スタート位置だって、『fine』の邪魔になるように作ってきたのだ。踊りはぼくの専門外であれど、音はぼくの戦場だ。それぐらいの計算は多少かかりますけれども、慣れてるので問題ありません。
ぼくの音楽の端で癇癪を起す子供はいれど、ぼくは気にせず喉を閉めて裏声の最高音、ホイッスルで鳴らす。

「お客様の前で金切り声なんて、耳障りで絶えないだけですよ。」
「頭の血管切れてるんじゃないの?なんで、そんなに不便なほうを選ぶの?」
「不便なほうが愛があふれるからですよ。」

システマティックも素晴らしいとは思いますよ、でも、そこの愛は薄っぺらく感じるのですから、そこもわからないのは、まだまだ幼稚で、拙いですねぇ。
可愛らしい子に顔を寄せてみると、まだおびえた目で見るので、そういうとこですよねぇ。舞台ですから、素はださないほうがいいんですけど、ぼくはにっこり笑って、すっと離れる。あちらは奇人と帝王ですからね、そちらにも戻らないと駄目でしょうね。そろそろ戻りましょうか。みかの肩を叩けば、わかったというようにうなずくので、さっさと移動する。

「ぼくの命は誰にも渡しません。ぼくは、必死に生きて音ともに死ぬのが一番いいんです。」

家がどうだとか、朔間に搾り取られろといわれますけれども、そんなのはこの瞬間は必要ありません。彼らが悲しむかなんてわかりません。ぼくだけが知っている情報なんですから。

「なにか言ったかね?小鳥。」
「なんでもないです。ただいつものさえずりですよ。全部捨ててここで選別を受ければいいのです。無論、選別するのはぼくたちで、運ばれはさせません。」

-彼らが、旧き良き隣人であれば別問題かもしれませんけどね。
そうこぼして、ぼくと人形遣いは演目に集中することにします。背中を合わせ、歌い踊り、奏でる。彼の音はひどく聞きやすく居心地がいいからいるんですよ。

「さぁ天祥院。いや皇帝様、自ら断頭台に上ってくださいまし。」

にっこり笑った。音は、まだ続いているのだ。ぼくらの舞台は、選別は終わらない。演奏が流れている間に、オフマイクで皇帝様は謝罪を口に出しますけれど、それでも勝つのは皇帝だという。減らない口ですねぇ。いっそ下でも縫い閉じてしまいましょうか。ぼくの手芸技術ならば問題なく血染めの皇帝様が出来上がりますね。

「よく調べたね。『fine』の局長などの内実を研究しみずらかを調律して。」
「うぬぼれるな。僕たち『Valkyrie』には優秀な演奏家がいる。」
「あらーぼくの事ですか。照れますねぇ。それに明日は雨かもしれませんね。」

人形遣いが褒めるのですから。くすくす笑ってパフォーマンスに戻る。客席は嬉しそうに歓声を上げているので、ぼくは笑って踊って歌ってついでに奏でておいた。けれどもどこもかしこも楽しそうである。にぎやかなのを体で浴びながらにっこり笑ってると、日々樹くんが嬉しそうにぼくと並んだ。

「小鳥、今だ。」

そんな掛け声にぼくは喉を開き、高らかな歌を歌い始めると曲が変わりだす。…もちろん仕込みですけどね。一瞬人形遣いのほうを見ると、口角が吊り上がっているし、その隣の天祥院は一瞬表情をゆがませた。それをぼくは見逃さずに、アリアを歌うように音を高く変えていく。普通の男性アイドルに出ない音域でクラシックのような楽曲調になり、そして音程が急降下して地を這うように低く歌い上げる。
身を震わせて歌い上げて、いつもの曲調に戻して、みかを呼び寄せる。

「行きますよ。人形遣い。みか。」

ぼくたちのステージはここから真骨頂になるのですよ。復讐はしませんけど、逆転はしてみせますよ。ただ、ただ歌うだけですから。魅せることは得意なんですよね。

「いつまでだって、忘れさせません。脳髄にこびりつくように怨念のように」

ぼくらはずっと地獄の底で歌っていましょう。地獄の底で手招きして、奏でていましょう。




[*前] | Back | [次#]




×