玉響、逢魔ヶ時ライブ 5 





人を避け、家を避け、横になろうが家の存在が頭の端を通り抜けてくので、安息なんてどこにもありません。僅かな気配で目を覚ましうつらうつらと眠りの扉を開く。熟睡なんて、ありません。しいて言うと授業中のクラスがぼくの安眠時間なので、席に座り眠る中で、残り日数の声を聞く。
残りの四日。その声が聞こえて顔を上げると、同時に世界が回る。ぐにゃり歪むのを辛うじて踏みとどまりますが、同じクラスメイトの日々樹くんに見られて声をかけられましたが、あんまりうまく聞き取れずぼくは逃げるようにクラスを出ます。揺れる視界と吐き気を催すような具合の悪さの中で、僅かな段差に足をとられて盛大に転倒しました。ちょっと恥ずかしいですね。立ち上がろうとした時ぼくの目の前に手がさしのべられました。顔を上げれば、ぼくが一番会いたくなかった相手。親愛なる我らが魔王様。愛すべきぼくの片翼、朔間零がそこにいた。

「そんなところでなにをしておるんじゃ?」
「具合がよろしくないだけですよ。あなたはぼくなんかで、手を煩わせる訳にはいきませんよ。」
「同じ一族じゃよ。肩身を寄せあって生きていかねばならない我らじゃから、手をさしのべるのは当然のこと。」

いいえ。だいじょうぶです。
そう伝えるだけ伝えて、ぼくは今来た道を戻ろうとしましたが、朔間さんに腕を捕まれて止められました。

「大丈夫というのも下手になっておるのう。」
「問題ありませんよ。朔間さんの手を煩わせるわけにはいきませんんからね。」
「暗に、問題はあるけれども我輩は関係無いとでも言いたいようじゃのう」
「えぇ、そうです。」

この次期当主ですから、易々と情報にたどり着いてしまうかもしれませんが、ぼくが消えてからなら問題はありません。残り4日。朔間さんからも家からも逃げてしまえば問題はないのです。

「朔間さん、手を出さないでくださいね。」
「内容によるが?」

ぼくは言うつもりもないので、にっこり笑って捕まれてた腕をはずす。あんまり血を取れてない、まぁ正確には取れない体質ですけど。そのせいもあって強く握られていた腕をはずすのにも精一杯ですよ。えぇ。難儀な体質ですよね。ほんと。なんとか朔間さんの腕から抜けて、距離を取る。

「晦くんや。我らは同じ翼を持つ一族じゃから、困ったらなんでも言うが良い。」
「私が望むのは朔間さんがしっかりと主としていただけたらいいと思っておりますよ。」

にっこり笑って、それでは失礼しますね。と朔間さんからの追撃を逃げるように去る。後ろから目線はついてきてるので、ちょっと居たたまれませんがあなたを巻き込む訳にはいきませんからねぇ。ぼくは使い捨てになされるようなほどの末端を、中心が拾い上げる訳にはいきませんからね。

「ぼくはこの世から消えるので。いいんですよ。」

これで一族が収まるならいいんですよ。心残りはいろいろ有りますけども。もっとアイドルの朔間さんを凛月さんを見てたいとか、演奏したいとか。それよりもなによりも、もっとぼくの兄弟とふれあいたかった。でも、それも叶わない願いですから。叶わないなら、それなりのことを願うのはぼくのエゴなんですかね。拙くか細い線を繋いでおきたいのです。
とりあえず眠らなければ、ぼくもそろそろ限界のようです。仮眠室まで這う這うの体で入り込み、ぼくは隅っこで泥のように眠ります。そのときに弟たちと家族らしいことをする夢を見て、ぼくはこんな夢を見るほどに家族というものに憧れていたのかと知るのでした。まぁ、大きくなってからある程度我が家はネグレクトなんだな。と理解して諦めた以上。そういうのに無意識の憧れを持ってることにも驚きましたけどね。欲が乏しい方だと思ってましたが、意外とぼくは強突張りのようですね。体調のよろしくないので、ぼくの意識はあっという間にまっ逆さま。



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