玉響、逢魔ヶ時ライブ 4 





自分の声をすべて消して無心に楽器を演奏して重ね録音をして『Valkyrie』で使う楽曲をすべて作り終えてパッケージに詰めて円盤一枚にすべてを納める事に成功する。今までの活動した楽曲がこれ一枚に収まるほどだったとは、そう思うと長かったとも思えますが3年というのはひどく短いのだと改めて思いました。長いと思ったものは振り替えればひどく短いものですね。

「さぁ、最後に嫌われにいきましょうか。」

ぼくは、不織布に包まれた輝くCDと紙ぺら一枚を手に持って手芸部部室に入ると人形遣いに睨まれました。まあ、好感度まだ高い方が驚きですけれど。

「なにの用だね?」
「音源やらあなたに渡すものがあって来ました。」
「やら、とはなにだ?やらとは。」

これをあなたに渡しておきます。切り捨てるならば、これを生徒会に出すといいでしょう。そういってぼくが持っていたものを全て渡すと、内容だけ見てぼくを一瞥しました。そうでしょう、こんな時期に脱退届けを出すような物好きなんていないでしょうね。

「何を考えている小鳥。」
「鳴かなくなったら、動かなくなったらあなたもぼくのことを捨てるのでしょう?ですから、動けなくなる前にあなたの手で引導を渡してください。」
「一体なにの話をしている?わからないのだが」
「今度のライブにぼくが不参加だった場合の話ですよ。」

まだそんな前提で進めようと言っているのか、通るわけがないだろう!彼の短気に火がついたようでまくし立てるようにぼくを罵っていく。こうして聞けるのもあと数回になるのですねと思いながら一言ずつを噛み締めていく。

「そもそも僕たち『Valkyrie』には僕の演出と君の音楽が必要だと何度も言っているだろうに。」
「必要なのは有りがたいと思っては居ますよ。ですけど、ぼくの周りの事情が変わってきたんですよ」
「事情…が?」
「いつまでもたってもぼくは、篭の鳥なんですよ。昔も今も変わらないとても大きな篭のなかで、あなたと言う名前の檻の中に居たんですよ。」

大きな篭を捨ててしまえば、中の檻も鳥も捨ててしまえるのですよ。そんな事は言わないですが、頭のよろしい人形遣いはそこまでたどり着いてしまうでしょうから、ぼくはたくさんの事を言いません。どう出てこられても、ぼくは曲げる理由はなくとも曲げられない家のためという理由があるので、曲がりませんがね。人形遣いがどういう反応に出るか緊張しながら見ていましたがひどく落ち着いているようにも見えましたが、あれは日々樹くん曰く愛の人。身の回りを全て愛でておいておきたいのでしょうけど、それは叶わぬことです。人形遣いは机を大きく叩いてならぼくを睨むように見上げるので、これから先の言葉はすぐに推測できました。
やはり君と僕では音楽性も芸術性も異なるから解りあうことなぞ出来ない。出ていきたまえ。
まるで人を刺し殺してしまいそうな目線を受けながらも、これでようやくぼくは全てを捨てる用意が出来上がるのです。凛月さんとの約束は心残りではありますが、そこはぼくの力ではどうしようもないことですから。仕方有りませんね。ぼくはただ恨まれるような視線を身に受けながら手芸部部室を出ました。足取りはひどく重たいですが、残りの時間は酷く少ないですから、残り時間を考えながらもぽくは自分の安心のため学院内に身を潜める事に決めました。



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