玉響、逢魔ヶ時ライブ 2 





昼は誰もいないから作業を進め、夜は誰かが恐ろしくて耐えて時間を潰す。学院ならセキュリティがしっかりしてますし、あれらも我らも招かないと来れない。そういう意味では学院というものは、かなり逃げ場として成立しているのは明白だ。
ただ、学院の夜の王とも言える彼以外は。

「やっほ」
「こんばんは、凛月さん。」
「相変わらずかたぁい。」

ぼくの城とも言えるそこに、ノックして凛月さんは入ってくる。感嘆の声を漏らしてから辺りを見回して、ぼくを様子見る。突き刺さるような視線から逃れるようにぼくは凛月さんに用件を聞く。…どうやら音がしたから冷やかしらしく、ぼくの抱えてる楽器を見て満足そうに頷いている。

「ねぇ、央なにかあった?」
「……いいえ。なにもありませんよ。」
「なに、嘘ついちゃってるのさ。央昔から嘘をつくときは笑顔が深くなるよ?」

やっちゃいましたね。それでも、ぼくはおくびに出さずただただ笑みを深めたら、まぁそうだよね。なんて凛月さんが言う。かまかけたのに央昔から乗ってくれないよね〜。あきれた声色と視線は怪訝そうなので、ばれると面倒になるだろうけど、凛月さんが人形遣いの元に向かうなんてないだろう。そう判断して、どうしてこちらに来たのかと問えば、ぼくの音が聞きたくなったと彼は言う。録音作業があるのでその音でもよいかと確認を取れば、満足そうに頷いてくれたので、彼に録音のためのヘッドホンを渡してスタートだけを教えてもらい、機材に音を取り入れる。…リズムが狂わないのか?だなんて、人間メトロノームと言われたぼくに死角はありませんよ。凛月さんからの合図でぼくは演奏をはじめる。何度も聞いたし奏でた思い入れ深い曲だからこそ、間違えることもなくずれることなく演奏をそつなくこなして終える。録音ボタンを押すまで彼も黙っていたし、ぼくが合図をするまで黙っているつもりでしょう。手早く録音ソフトの音源を止めて、合図を送れば拍手が帰っていた。予想外の反応に驚いていると、当たり前じゃん。正当に評価されるべきだよ。と凛月さんは言う。

「でもね、央困ったら俺たち頼りなよねぇ?」
「大丈夫ですよ。困ってないので。」
「ほんと?じゃあ約束して。俺たちの居ないところにいかないでよ。一生俺たちの側にいてよ」
「えぇ、我が家は朔間の……」

一族に仕えてますよ。そう言葉を続けようとしたら、凛月さんは即刻否定した。俺達一族じゃなくて、俺と兄者の側にいてよ。そう言葉をなおされました。ぼくではどうにも出来ない事象が間に入っている以上その確約は難しく、どうしたの?できないの?と問いかけてくる以上腹を割るべきかどうするべきか迷いが生じます。

「ぼくはそうしていたいつもりです。」
「つもりじゃなくて、結果を見せてよ。『晦』のお兄ちゃん。」

これが持つべきだった力の片鱗なのでしょうか。首を縦には振りたいのも山々ですが、ぼくの手札には横に居るしか持ち合わせておりません。板挟み、といえば聞こえはよろしいでしょうけれども、それはそれは痛々しいもので、沈黙するしかぼくはできません。

「ぼくが、棄てられてどこにいようとも、ぼくの心は朔間さんたちのものですよ。ずっと前から、あなた方が生まれてから。」

そのために、ぼくは生かされた。そのためにぼくは殺された。そして、ぼくは今度こそ棄てられるのだ。役にたたないと判断されて、息を殺して一人旅立つのだ。怖いなんてない、弟たちを思えば。彼らはずっと生きていく。ぼくよりもずっと長生きしてくれれば、一時は替え玉として生きてたあのときよりもずっと長く平和にいきられるでしょう。ぼくは言葉にはしない。それは生まれて教えられてきたことだ。棄てられ死んだ朔間の双子の兄とイコールでぼくを結んではならない。たまたま偶然に似た顔の同じ誕生日の子が生まれた。
それだけです。そうしなさいと教えられて生きてきました。

「ぼくより大事なものは凛月さんの周りにずっとありますよ。」
「嫌だよ、央がいい。」
「凛月さん……」

そう言われても返答に困るぼくは、どうしたらいいのでしょう?。朔間の家は絶対ですし、家の上層部も絶対です。…それにぼくは…どうしたいのでしょう?迫り来る『さようなら』にむけて、順当に受け入れるべきなのでしょうか?

「ぼくには……わかりません。」
「央?」
「……あぁ…いえ、何でもないですよ」

笑いながら誤魔化す。
内情なんて並べて晒せば指をさされるのでしょう。我々は影に生きるもの。生きる理由が必要ならば、死ぬ理由も必要なんです。拾う理由があるならば、すなわちそれは捨てる理由でもあるのです。

「まだ録音しますが、凛月さんはいられますか?」
「子守唄にはちょっとやかましいから、もういいや。」
「そうですか?」

ひらひら利き手を振って彼は部屋を出る。手入り口で足を止めて、彼は最後に振り返り言葉を残してお休み。と消えたけれども、ぼくにはその言葉は聞き取ることはできなかった。



[*前] | Back | [次#]




×