玉響、逢魔ヶ時ライブ 1 





最近具合が悪い。目が回りますし、うすらと吐き気も伺えたり、恐らくは血も足りてないのがよくわかりますけど、凡その原因として昨日飲んだサプリメントのせいでしょうね。卒業も足音聞こえてくる年明けしばらく。卒業後の進路が決まっている…むしろ、決められてしまった。というほうが正しいかもしれませんが。そんなぼくは、いつ晦の長がやってくるのか分からない現状、どうしても自宅に居たくなく。仕方なしに登校を決めて教室に向かいます。自由登校といえどクラスにはよく見る光景がありました。ぼくを兄とも呼んでいたなずなが一瞬思い出したのか、言葉を選んでぼくを呼んだ。

「央ちん。顔色悪いけど大丈夫か?」
「えぇ、いつものサプリメントの副作用ですから。」

いつものことですから。と呂律が回らなくなってきて視界が闇で染まっていきました。一瞬だけの闇でしたので両の足でなんとか耐えきって持ちこたえました。が、前にいる二人は心配そうにぼくを見ています。常日頃から血色の悪いぼくが、いつも以上にひどい顔色をしているのでしょうね。背筋を遡ってくるような寒さを感じながらも、いつかくる家の迎えというのを恐れました。
恐らくは、中学卒業と共に、ぼくは死ぬような環境に晒される予定でしたが、朔間の家から夢ノ咲へ。そういう指示が飛んできたので、ぼくは今ここにいますが。ついこの間、家からまたその話が出てきたのです。
吸血鬼として役に立たないぼくを、恐らく…いつか朔間の家がぼくを探すと思っていたのでしょう、ですが待てど暮らせどそんな指示は飛んでこない。躍起になった家長が役に立たないのならと家のどこかで閉じ込めてしまおうと考えているのでしょう。恐らくは。ぼくは長ではないので、そこまでわかりませんけれども。大筋そんなところでしょう。まぁ、家の言うことならば致し方ないと思うのですけど。まぁそのタイミングが悪くなければ良いとだけ考えてはいますが、あれはいつ動くか分からないので、ぼくも気が休まりません。
思考の海にとっぷりくれてたのか、おい、とぼくの肩を鬼龍くんが叩きました。叩かれたことで、意識が浮上して、体調がすこぶるよくないと改めさせられました。

「おい、晦。やっぱり保健室行くか?」
「大丈夫と取り繕いましたが、どうもダメそうなので一旦手芸部の部室で体裁を整えて来ます。」
「ついていこうか?」
「そこまではご迷惑かけられませんよ。大丈夫です。」

死人見てぇな顔して、大丈夫なんざ信用ねえよ。ついていくぞ。そう宣言されると断るすべもないので、足元おぼつかないぼくは鬼龍くんと共に手芸部部室のぼくの居場所まで共に歩き出しました。
さすが、人形遣いの馴染みとあってか、彼の隣はひどく息がしやすいと関係無いところに思考を飛ばしながら、声にだす力もなく沈黙をつれて歩いていると、冷たい冬の空気がぼくたちの背中を撫でていきました。

「お前さん、聞いたことなかったけど進路はどうなってるんだ?」
「さぁ、どうなるんでしょうねぇ……。『Valkyrie』にとってぼくは、いてもいなくてもいい観賞用の愛玩ですから。カナリアなんてただの指針ですよ。生死の。」

人形遣いは卒業後に国外ですから、みかが卒業してから動き出すんでしょう。ほぼ間違いなくそこにぼくは並べないのは少し寂しいですけど、それはそれでいいでしょうにぼくはさえずる事しか脳のないやつですからね。

「本気でそれを思ってるのか?」
「思うしかないでしょう。そう言い聞かせなければいけないんです。それが我が家です。そして、ぼくはただ一人闇に沈むのが決まっている。それだけなのですら。」

ぼくの吐き出した言葉尻を掴んで鬼龍くんはぼくを睨む。さぁ、彼は何を思考しどう行動するかはわかりませんが、最低限はぼくもぼく自身の運命に抵抗するわけにはいきません。残念なほどに我が家の序列の最下位のぼくは抵抗する術など持たないのです。拒否など許される訳がないのです。

「残り少しですから、ここまでで大丈夫ですよ。」
「足取りふらふらじゃねぇかよ。」
「それでも大丈夫ですよ。恐らく部屋には人形遣いがいるでしょうし、あとは寝床に入るだけですから。」
 
心配はいりませんと伝えてぼくは一人残りの距離を歩き出す。廊下の隅から、ひっそりと伝えるような声が聞こえてきて辟易する。鈍い足を働かせてなんとか手芸部部室に入り込む。そこには人形遣いもしませんでしたが、ぼくは寝仕度もそこそこに自分の寝床に入り込む。目を閉じても晦の家の声が聞こえてくるようで、すべてを遮断するように目を閉じて外界を立つ。
夜は皆がいるからこそ嫌いだった。力を持たないぼくは昼の方が好きで、その理由も家のしがらみにも囚われないで居られるから。というものだけれど、昼はただただ孤独であった。周りが寝静まった昼下がりに起きているぼくは、なにもない部屋で1日を過ごす。手慰みもないけれど音は近くにあった、初めは親の教えてくれた子守唄。町中の音や、器具の音。一人で真似して遊んでいたのです。けれども、もうすぐやってくるであろう将来は、そんなのも許されないでしょうね。どこか自分が自分で無くなる気がしてどうしようもないのです。

「小鳥。起きたまえ。」
「……なん、ですか?……」

うなされてたから起こしたと人形遣いが言う。茶はいるかと問われて肯定を伝えれば彼はカップやらポットを暖め出す。器の置く音や軽く触れるような音が部屋の中を支配していく。手持ちぶさたになったぼくは時計を見るどうやら少し寝ていたようで、頭の芯がぼんやりしていてまだ寝たりないと体が言っているような気がしてましたが、ふと耳元で何かが囁きを…いいえ、はっきりと数字が聞こえました。
そっと視線を滑らせてカレンダーを確認すると返礼祭直前にある終わり2つ前のライブが聞こえた数と丁度の日数で、もしかしたらと予想が脳裏にこびりつく。ライブの時刻は丁度逢魔が時。昼と夜の入れ替わり、人と魔が会う時間であるということに気付いてしまったぼくはそこで思考を止める。もしかしたら丁度のライブの時間に親族が来てしまったならば…末端が故に来てしまったら。そう考えるとぼくの参加は怪しくなる。練習しても、本番数分前ならば逃げることもできない。ライブに穴を開けてしまうかもしれない。

「人形遣い……次のライブは万が一に備えて、ぼくのいない構成も行ってください。」
「なにを言ってるのだ?」
「最悪の想定です。家の都合について。」

一言一言いつもならば噛み合わせるように擦り合わせるのだが、いかんせん時間は少ない。ライブは目前で、比較的ぼくはリアルタイム演奏がいる分でどこかのパートを抜いたものばかりがたくさんある。それらを統合してぼくの代わりとさせる作業がいる。

「ぼくは『Valkyrie』をアイドルを続けられない理由ができてしまいました。いつか必ずどこかのタイミングで、人形遣いやみかとは同じ道を歩くことができなくなります。」

なんだって?ぎろりと昼と夜が混ざり会うような瞳がぼくを捉える。促すような目線を受けるけども、細かくは言えないので、決まってしまったのです。と口を開けば家か?と勘繰られるので否定も肯定もせず黙る。

「最後と決めたものにも出れない可能性は何だね!」
「ぼくが決めたことでもないので、確証は有りません。」

始まる前に迎えが来てしまったら必然的にそうなるでしょうし、そうなればぼくがいない構成は必然ですから。もうあんな事故にならないようにしなければなりません。

「最後の最後でそんなことを…!」
「そう決められてしまったのですから、仕方ありません。人として世間から死ねるならば、まだいいでしょうかね。」

最低限のレッスンには参加しますが、万が一に備えての音源作成を行うので、あまりこちらには赴けません。体調は崩さないようにしてください。これが今上の挨拶とならぬように気を付けますが、それでは。
それだけ言ってぼくは扉を閉めた。閉めた向こう側で、まだ火のついた声が聞こえてぼくを非難する。なずなもこうだったのでしょうか?そう思いながらため息をついてるとタイミング悪くみかがやってきた。今火がついてるから離れた方がよろしいですよ?とだけ、伝えてぼくは姿を消した。




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