発見!スチームパンクミュージアム 4e 






調整役にたたき起こされて、鈍い意識の中でとりあえず着替えを済ませて、荷物を学院に送り返して、最後にカフェインを一気に取得しておく。先ほど寝たので、何とか帰れるでしょう。夢ノ咲最寄までたどり着いてぼくたちは一旦電車を降りる。ふうと息を吐き出したら葵兄弟が声をそろえて今日はお疲れ様でした〜!と挨拶をしてくれるので、ぼくは手をひらひらと振るだけにしておく。しゃべるのもしんどいので、取り繕うだけ取り繕っておこうという魂胆だ。

「お疲れさ〜ん。それにしても、二人はライブ後のあのに、まだまだ元気があり待ってる感じがするわぁあ?央兄ィにもわけたってぇな。」
「……みか?」
「実際、まだまだ元気ですからね〜もう一仕事くらいできそうです!」

ぼくが一年生の時ってこれほど元気だったでしょうか?それを知ってるのも朔間さんぐらいしかいないので、まぁ、覚えられてるわけもないんですけど。それじゃあ俺たちはこの辺で!と葵兄弟は手を振って帰っていった。みかはそれに反応するように手を大きく振っているので、そんな背中を見ながら向こう側にいる兄弟に手を振って見送る。

「小鳥、体調はどうかね?」
「先ほど寝たので家に帰るまでは何とか。」
「ライブ前ぐらいから調子がよくなさそうだが?」
「えぇ、ちょっと込み入った話があるので、日を改めて人形遣いには知らせたいとは思います。」

そして沈黙、彼は彼なりに考えてるでしょうし。ぼくもぼくでそれなりには考えますよ。今の環境が居心地がいいので、家がどうと言われても正直困るんですよね。…少なくとも、自分の兄弟にもう会えなくなるなんて言われてるにも同意なのでそれだけは必死にあらがわねばならないでしょうし。とりあえず、家にも帰りたくないですね。今日は学校にでも泊まってしまって朝にでも家に帰って必要なものをとりに帰ってもいいかもしれないですよね。…いや、学校には凛月さんも居そうですし…見つかると厄介な気もしますねぇ。困った困った。

「おおきに、ゆうたくんたちも気を付けて帰るんやで〜。ほんならお師さん。央兄ィ帰ろか。」
「ぼくは学院に送った楽器を返却したら帰りますから。人形遣い。話があるので後日、時間をください。」

そう伝えれば、少し悩んでから人形遣いは解った。と返事をくれたので、それでは帰りましょうか。とぼくも足して言うとみかは嬉しそうに笑った。嬉しそうですね。と伝えれば、わかる?とウキウキがぼくにまで伝わってくるのだから、嬉しいのは大きいのだろう。

「ライブは大成功やったって依頼主に喜んでもらえたやろ?おれもごっつい楽しかったわぁ。また似たようなライブがあったら、やらせてくださいってお願いしておいたし。そんときはまた一緒にみんなで舞台に立とうなぁ。お師さん、央兄ィ」
「大成功…ではないんですけどね。」
「『大成功』?君の目…いや観客や依頼主の目が節穴なんだろうね。」

小鳥の音楽がよくふらついたりしていただろうに。それに最初と最後はよかったけれど、途中のパフォーマンスは何だッ!危うく僕の芸術を台無しにするところだったよ。猛省したまえ、小鳥も影片も。
がみがみと水を得た魚のように人形遣いが噴火する。もう何と喩えていいか解りませんが、それでも、人形遣いは息をするように雑言の嵐を吹き荒ぶる。みかもおびえるようにとはいかないけれども、それに対しては反省するように謝る。…ぼくは謝りませんからね。

「おれらのどれが欠けても、あの音が出なくなるんやろなと思ったら、な〜んか感動してもて。それで途中、何度かぼんやりしたんやろね。3人の内誰か一人欠けても『Valkyrie』ではないんやもん。」
「他人事みたいに言うね。君の歌や踊りが止まるたびに僕がフォロー入れなけれなならなかったから、大変だったよ。」
「ごめんなさいねぇ。今日はいっぱい動いたから貸してとても目が回ってしまって。」

腕を組み片方の頬に手を当てて、今日一日を振り返る。もらった情報は大きすぎて、ぼくはしばらく考えなければならないでしょうし。困りものですね。なんとかしなければ、ぼくはもうすぐこの世から人の世から離れないといけなくなるようですし。それまでになんとかして手を打って逃げなければならないでしょうね。


「どんなに楽しくても失敗したらあかんもんな。次は気を付ける!」
「本来は次などないよ。『Valkyrie』は常に完璧でなくてはならないのだから、些細な失敗すら許されない。それをまだ理解してないのかね。手のかかる人形たちだね。」
「ぼくも人形に含まれてます?」

今さらなのだよ。人形が一人増えても二人増えても調律することには変わりないのだよ。
そう人形遣いがいうので、ぼくはじとりとした目でそちらを睨む。ぼくも糸付の人形と一緒にしないでほしい。ぼくはどちらかというと自動人形だというのに。嫌だなぁ。

「せやから、これからもずうっと面倒をみてや〜」
「図々しいよ。自分の面倒くらい自分で見たまえ。かわいい人形であれば手をかける意義もあるのだけどね。できそこないに構うほど僕も暇ではないのだよ。」
「絶対に今、自分の口が滑って君たちって言ったでしょう?人形遣い?」

おれはお師さんの大好きな人形とは似ても似つかへんもん。それでも、おれをそばに置いてくれるなら、世界で一番幸せ者やで。な、お師さん。央兄ィ。手ぇ繋いで帰ろう?俺真ん中なぁ!
ぼくの手を掴んで。みかは人形遣いに手を伸ばすが、人形遣いはキャリーバックを引いてるから無理だと答えたが、みかは反論していく。その衣装の中に、みかの衣装も入ってるからみかが自分で引くと言い出したが、そうなったらぼくはみかと手をつながなくていいのだ。…三人は無理ですね。と笑っていると、央兄ィひいて!とお願いされた。…仕方ないですね。いいですよ。と交渉が成功して人形遣いの表情金がピクリと動いた。

「はい、荷物はぼくがもちますよ。ほら、人形遣い寄越しなさい。」
「こら、小鳥。きみはふらふらだろうに。転んでキャリーバックに傷でもつけられたら困る。」
「みかと手をつないでるんで、大丈夫ですよ。安心してください。」
「あそこの信号機を渡った所までだからね。」

といいつつ、あなたは家に帰るまでみかと手をつないでるんでしょうに。そこまで察してぼくはにんまり笑う。条件付きでもうれしかったのか、みかは締まりのない顔だねと言われながらもみかは嬉しそうだ。

「帰ろう、影片。僕たちの家に。」
「帰りましょうか、ぼくは途中までですけど。」

再度手を握り直して、みかはぼくと人形遣いの顔を見比べる。みかはそうとう頬が緩んでいるが、人形遣いも嬉しそうで手を伸ばしている。みかはお嬢さんに報告しようとなぁ。と頬を緩めてるので僕たちは二人で頷いてみかの話に耳を傾けているとほんとうに今日は楽しかったのだろう。最後に、これからも『Valkyrie』続けよなぁ。というみかに罪悪感を感じながら、返事を濁すのだった。



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