発見!スチームパンクミュージアム 3 






何度か僕たちは打ち合わせを行い練習を行って、ライブの当日。家出のある程度の仕事を済ませたぼくは眠たい目をこすりながら、人形遣いの後ろを歩く。道中でカフェインを入れなければたぶん寝落ちるんじゃないのかな、と判断する。凛月さんみたいに棺桶を作ってもいいかもしれないけれど、そうじゃない。多分家でしっかり眠れないのもあるのだろう。残念な昼夜逆転一家だから、しかたないんだけれども。ぼくが昼の生活をして、家では起きてるから余計に胎内のリズムや調子が可笑しいのだろう。欠伸をかみ殺しながら今日のテンポを思い出しながら思考を飛ばしていると、みかが央兄ィ眠たいん?なんて問いかけてきたので、ぼくはそれに素直に頷く。もうすぐバスやからがんばって〜!と呑気な声を出していた。今日使う予定の楽器も持っているのだけれども、これはみかに任せるとどうなるかわからないので自分で持つというのが以前からの取り決めだったりする。今日、寒いからいっぱい温めなきゃいけませんねぇ。だとか、色々と眠らない様に思考を色々と巡らせていると、目的の博物館についた。集合時間よりも早くにきたのは人形遣いが博物館の見学をしたいと言い出したからだ。家にいるのが嫌いなぼくにも好都合だったので尻馬に乗せてもらったのだが、乗って後悔した。これだけ早くなるとはぼくも思ってなかったのだから。ライブの主催への挨拶やらもそこそこにあてがわれた楽屋を確認したが、思った以上に狭いので、人形遣いは外に出るという。ぼくは。別にやりたいこともないけれど、楽屋に居てはねむってしまいそうなので、二人の後ろを歩く。博物館へ入場料を支払い中に入って一旦解散。そこまでぼくは人形遣いに張り付くつもりもない。基本的にぼくと人形遣いの間はそれなりにさっぱりしているので、こういう時は気が楽だ。喫茶スペースでカフェインを摂取するかと悩んでいると、遠くの方で三毛縞くんの声がしたから。ぼくは逃げるように部屋を変えた。にぎやかなのに当てられると、体力がもたない。ただでさえ少ない体力でやりくりしているのに、こんなところで開始前に削られたのではたまったものではない。つくづく、ぼくの性能の悪さを笑うしかない。なりそこないで、まともに動くことすらならないぼくだ。消費することをせずゆっくりと体力を保たなければならない。それが今のぼくの最優先事項である。思考を放り投げていると、ポケットの中の携帯が震えた。だるいと思いつつ着信元を確認すると家だった。親族。晦の人たち。切っちゃうとややこしいのでぼくはあきらめて携帯に出たが、そこで絶望を叩きつけられた。
お前の進路なんてない。人権なんてない。お前は即刻家に閉じ込めるべきだと晦の中心の人は言うんだそうだ。来るべき時が来たと言う事なのかもしれない。なんてぼくは思いました。拾ったという事実を、朔間の家から捨てたぼくを拾った事は役に立たなかったと間接的に晦は言う。ぼくは冷静を取り繕いながら、了承の意を伝えるだけ伝えて電話を切る。晦の告知はいつも突然だ。実行はいつになるかはわからない。明日かもしれないし1時間後、もしかしたらライブ中かもしれない。…ライブ中はさすがに朔間さんもかかわってるかもしれないから無いか思われますけど。深いため息をついて携帯をポケットに詰め込んでいると、葵くんたちがぼくを呼びに来ました。

「晦先輩、斎宮先輩が探してましたよ。」
「…顔色悪くないですけど大丈夫ですか?」
「そうでしょうか?ちょっと家の事でごたごたした連絡が来てたので。大丈夫ですよ。」

ここは寒いですし、早く行きましょうか。二人の背中をそっと押してぼくたちは来た道を戻る。葵くんたちはただただ首を傾げていたりしますが、このやり取りを朔間さんたちにこういう話が行けばいいんですけどね。と内心思うが口は出さない。本家である朔間は晦の今回の事象にはどうかかわってくるんでしょうか。そう思うと、何も言えなくなってぼくは口をつぐむ。きっと朔間さんはぼくを救わない。だって、あの家はぼくを捨てたのだから。力ないぼくを。救ってくれることなんてない。もう未来は真っ暗なのだ。実質の監禁宣言。家の汚点だとこれから言われてぼくは生きていくのでしょう。万が一、朔間さんになにかあった時のために生かされていくのでしょう。

「晦先輩?」
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと電話があったことについて考えてたので。御心配おかけしましたね。」

ニッコリ笑ってそのままごまかして脳裏の中で、そっと万が一に備えてぼくは支度しなければならないと思考しながら控室に向かう。控室にたどり着いたら、真っ先に更衣室に入り込み支度を開始する。『Valkyrie』は人一倍いろいろしたくのかかる装飾の衣装が多いのだ。スチームパンク。立ち襟ジャケットに、珍しくパンツ。膝丈のブーツに今回はラッパの指定だったので、学院からペットを拝借している。金メッキのトランペットに似合うように仕立てられた衣装はマントまでついている仕様だった。再度自分の服装を確認していると、ステージ上では人形遣いと葵くんの寸劇が始まっている。ぼくの出番は一番最後。空想の博物館の展示品として出演する。まぁ、昨年そんな感じでしたから役作り的なのも全くないんですがね。

「ほら、あれが目玉やねん。」
「…ようこそいらっしゃいました。長い間お待ちしておりました。歓迎の意を込めて。」

そうして華やかな音を彼らの声に合わせるように鳴らせば、バックの音が流れ出す。ふと視線を動かせば、ふとした塊が見えた。一瞬きもちがぎくりとした。音になってなければいいと願いながら、人形遣いを見ればしっかり睨まれた。ぼくはあとでこっちのフォローもしなければと脳裏に予定を書き込む。ぼくの進路も決まってしまった以上、どうすることもできない。此方に関しては後廻しにして、今はこの場を何とかしなければ恐らく終演後に人形遣いの罵詈雑言を浴びる羽目になるでしょうね。ですから、ぼくはこれ以上の醜態を出すわけにもいかないので、ひたすら音を声に合わせるように奏でることに努め、間奏部のソロはいつも以上の音のはりを出して、自分のソロはしっかりとこなし、踊ることに努める。時折ちらりと横目でみかたちを見ると和気藹々としている様子が見えて、ぼくはなんとか平然としていられる。最後の楽器演奏のパートを終わらせたぼくは楽器を舞台脇のスタッフに任せて、マイクに持ち替えて前に出れば、人形遣いが耳打ちを一つ。

「なにかあったのかね。」
「なんでもないですよ。ぼくの見間違いでした。」

大丈夫ですよ。と笑ってごまかしてると、かなりいぶかしげな眼をされましたが気にせず歌いながら人形遣いの背中をみかのほうに押して、ぼくは葵くんの方に逃げて三人で踊りながら、観衆を沸かす様に煽りつつ会場を沸かす。観客の中には、三毛縞くんや調整役の姿も認められてマイクを握る力も少します。体調はあんまりだけれども、終わるぐらいまで持つような調整を行えばいいだけですから。えぇ。そのまま数曲披露してライブも佳境になるころ、ぼくの体力が底をつきかけているのが判断できる。眩暈のようなものが時折うかがえる。かろうじて耐えて、踊る。もうすぐ時間も夜に近い。体力を回復が必要だろう。…サプリメント飲みたくないですね。目の前が真っ暗でもかろうじて光は見えるのでそちらに向かって振付を行いつつ、平然を装う。

「小鳥、方向がずれてるぞ。」
「廻るとよく方向がわかりませんね。ごめんなさいね。」
「顔色が悪いぞ。袖にひっこみたまえ」
「嫌ですよ。お断りします。まだ行けますよ。」

ぼくをひっこめさせたかった、さっさとライブを終わらせるような進行をとりなさい。と耳打ちしつつ、次でラストだから頑張りたまえ。と言われて、そこまできたのかとぼくは思う。後一曲ならば、全力でやり遂げて控室でいったん眠ろう。5分眠ればなんとかなるんじゃないかな。と算段する。

「央兄ィ、楽器持ってきたで。」
「ありがとうございます。みか。」

みかから楽器を受け取って、演奏を始める。目を回し始めて方向が怪しいぼくをみかがほら、こっちのほうがええでーとぼくの手をひいて舞台上手側にぼくを立たせる。聞こえてくる音に合わせて、楽器を鳴らしていると、事情を知ったのか葵兄弟まで時折、心配するように此方を見る。大丈夫、耳はちゃんと働いてますし、仕事はちゃんとしますよ。刺さってくる視線をすべて無視して、間奏部のソロを駆け抜けるように吹けば、ラストのサビだ。ぼくは最後に一吹あるので楽器を持ったままマイクを持ちパフォーマンスに参加する。人形遣いがぼくたち四人を操るようにすれば、終わりだ。そして糸の切れた人形から演奏する自動人形に姿を変えて物語は終わるのだ。
終わりだよ!と言わんばかりの葵兄弟に手を引かれてぼくは舞台を降りる。始まる前と逆だな、なんて悠長な思考をしていると、控室に入った瞬間に葵兄弟に椅子に座らされる。

「晦先輩!顔色真っ青ですから休んでください!」
「そんな顔してます?」
「朔間先輩とおんなじことを言いますよね?親族だからですか?」

…兄弟だからですよ。とは言えないので、ぼくはさぁ?と白を切る。けれども、正直先ほどのラストの間奏でほぼほぼ体力を使い切ったので。5分ほど寝かせてください。と葵くんたちに伝え近くの壁に身を任せて、一旦ぼくの意識のスイッチを切る。5分後、様子を見に来た調整役にたたき起こされるのであったけれども、5分体力回復してとりあえず帰宅するだけの体力を手に入れたので、良しとしましょう。



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