20200401 誕生日





三月三十一日。本日をもって、学院をやめる。そう高校生活最終日。千秋も奏汰もスタントの指名仕事が入ったとのことだし、ちびっ子も学院内のイベントで今日は夕方まで体があかないと言っていたので、俺は暇を持て余していた。大学入学手続きも出来てるし、ちびっこへの引き続きは些か不安であるが、まぁあのちびっこトリオなら引き続き会うわけだし、なんとかなる……だろう。俺も俺で一種の実働部隊ではあるけど、比較的学業を優先するので、トンチキ案件じゃない限り巻き込まれるつもりはない。但し、予定なだけなのと、俺の予想はほぼほぼ巻き込まれるなわけなんだが。まぁそこれはべつにどうでもいい。今は、身辺整理と称してバスケ部部室を掃除してたら明星がやってきたので、そのまま駄弁りながらも手は進めた。

「あっくん、いっちゃうの?」
「んー。部室のロッカー片付けたら最後。」
「いなくなるのってやっぱり寂しいな。誰を引きずり回せばいいんだか」
「とりあえず引きずり回すことを前提にするのやめろ。自分のユニットメンバー衣更以外にしてやれ。」
「えー?あっくんち〜ちゃん先輩に引きずられるの趣味でしょ?」

違うわい。好き好んで引きずられてる奴を見たいわ。あぁでもないこうでもないと二人でやってたら。掃除もいつの間にか終わった。教室のロッカーも終業式で荷物を引き上げてるので、俺のいた痕跡なんて流星隊の写真しかなくなるわけだ。

「ま、終わるわけじゃないし。いいんじゃね?」

ロッカーを閉めて、鍵を返却したら終わりだ。流星隊のがきんちょたちだって学院での挨拶も終わらせてるし、返したらさっさと帰ろうかな。なんて思いながらカバンを持ち上げる。家に帰ってだらだらしてたい。明日には入学式だし、風呂入って寝たいんだよ。

「ほら、閉めんぞ。」
「あっくんダメだよ!まだ帰っちゃダメ!」
「は?なんで?」

自分のやるべきことは全部やったのに、どうして帰っちゃダメなんだよ。そういうと、明星は一瞬詰まって、最終的にどうしてもダメったらダメ!だとか言う。意味が分からないし理由がないなら俺は帰るし、帰らないならカギは預けるぞ。そう念を押すと、だから!と人の話をどうしても聞いてくれる気配がない。明星は、俺の進行方向――部室出入り口に立って通せんぼまでする念の入れようだ。

「いや、だから何?どうして帰ったらダメなんだよ。」
「それは…言えない。でも、ダメったらダメー!あっくん帰らないで」
「お前に俺が止められたことあったか?」

小さな窓からたぶん無理をすれば出れる自信はある。が、部室の清掃で程よい疲労感を手にしているので、ある程度省エネでいたいという気持ちもある。さて、どうするかと思考をするわけでもなく、俺は全部が面倒になったのであきらめて、明星に乗ることにした。

「ま、いいけど。内容が内容だったら、次から事あるごとに千秋をぶつけてやる。」
「えぇ〜。それは嫌だなぁ。」
「じゃあ。どいて。」
「それもいや。」

なんだよ、この駄々っ子。理由を言わない分奏汰よりたちが悪いぞ。明星を見下ろしながらヤジを飛ばしてると、明星のスマホが鳴り出す。お!できたみたいだよ!と言いながら明星は俺の手をつかんで走り出す。うん、ちょっと待て意味が分からん。俺の突っ込みをすべてほったらかしにして走り出す。なるほどわからん。落ち着けステイ。とまれ、歩く隕石群(といっても明星一人)。なんだよこの新生動く点P´は。いや、もうこの考える癖やめたい。俺の事情も何も悟る気配もない明星は、しまいにどこかの部屋を大きく開けて、俺をそこに押し込んだ。

「はーい!あっくんをどーん!!」

思いっきり背中を押されて、部屋の中に入ると同時に炸裂音が鳴った。驚きのあまりに身をすくませて情けない声が上がってしまった。なんだなんだ?俺の処理能力を上回っててどうしようもないんだけど、ちょうど目に入ったのは色とりどりのテープで余計に意味が分からなくなっていた。

「は?意味わかんないんだけど!?なにこれ?」
「有!!誕生日おめでとう!」
「うん?」

俺の耳に届いてきたのは、千秋の声だった。あれ?お前仕事っていってなかったか?俺の情報処理能力がフリーズしてるので、だれか説明してプリーズ。ポカーンとしてる間に、奏汰が飛びついてきて、バランスを崩しかけた。なんとか踏み切って、かろうじての視界を手に入れてから、どういうわけかと問いかけると奏汰に「わすれぼさんですね。」なんて呆れながら言われて指をさした。色とりどりのテープの隙間から横断幕が見えた。

「……誕生日?」
「有の誕生日。明日だろう?去年は部屋から出てきてくれなかったから、今年学生の間にやってしまおうとあんずがな。」
「いや、引きこもりについては何も言わないけどさ。仕事は?」
「いやぁ。先輩に見つかると、この会が露見しそうだったんで嘘つきました。」
「うん、清々しいほどまっすぐ言うなぁ。」

直接表現過ぎて俺は、お前たちが不安になるけど。この上級生含めて。溜息交じりに吐き出すと、翠がケーキをもって来て吹き消してもらっていいっスか?仙谷くんが代表でプレゼントを持ってるんですけど、緊張して吐きそうなんです。そういわれたら貰うしかない。頭に乗っていたテープを抱き着いてきた奏汰に押し付けて、一気にろうそくの火を消す。両手に千秋と奏汰に挟まれて、遠くの三毛縞が今すぐ俺を抱きかかえて高く投げたそうな顔をしている。
ここで逃げ出したら、ちびっ子たちがかわいそうになるから逃げれないし、このままいくと三毛縞高い高いの刑に処される。今日一日いい日で終わるな。って思ってた俺の気持ちを返してほしい。そんなやぼったいことは口にできないが、とりあえずもみくちゃにされることが確定になってるので、とりあえず俺はもうあきらめて心の準備をした方が早そうだと思った。

「とりあえず、ありがとう。」
「うんうん、祝ってもらうのが嬉しいんだな!有!」
「わかったから一回黙ろう。動く点P。一回しゃべるとややこしくなる。」
「有さん!誕生日のお祝い用だぞお!」
「おい、三毛縞そんな人が集まってるときに!!」

千秋と奏汰によって動きが封じられている以上俺たち流星隊年長組は頭からケーキクリームの被害を受けることになった。制服はクリームまみれだし、もとをただせば三毛縞のせいなので、俺は三毛縞から制服を奪うという最終日を決行することになった。あいつももう今日で制服いらないし、いいじゃろ。




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