3e





走っている間に守沢から電話がかかっていたが、通話している暇はない。ので、すまん、あとでな!と返事をして通話を切った。守沢がなにか悲しんでるかもしれないけれど、まぁ後で会うしいっか。そのまま舞台袖に入れば、蓮巳がこちらを見た。なんでお前がと言わんばかりだけれど、時間は間に合ったようだ。

「一之瀬?」
「今から代理だよ。深海と守沢が来るまでのつなぎだよ。時間が足りるかなんてわかんないから、極力な。」
「なっ!?今からか?」

そうだよ。間に合うように場を沸かせるだけだ。と伝えれば、引き留められたけれども俺は気にしない。残念だな蓮巳!俺はあれだ。ちびっこショーで喧騒になれてるし、いじめられっこ経験から罵声にもなれてんだよ!ずんずんと舞台そでに向かって言ったら後ろから頑張れよ。と鬼龍が声をかけたので、俺は片手をあげて返事した。何も考えなくていい。俺の知っている流星隊なんて、知らないに近いので独断での編成だ。許されるだろう。
俺だってまともにライブ構成なんて知らないんだ。つまり、周りだってそこまで知らない構成なんだ。言い換えればそういうのが当たり前です。ってかおしてたら、そういうものだと勘違いしてくれるということだ。……多分ね。
そう思いながらも、舞台に立つ。誰も居ない。俺しかいない。ガンと音が鳴ると同時に、俺は踏み出す。客席をあおりながら曲をこなしていく。それと同時に蓮巳たちが舞台に出だした。ドリフェスの『流星隊』の持ち時間がほぼほぼなくなってきているときに、守沢が深海を連れてやってきた。舞台袖では賑やかに彼らは喋っているが、俺はそちらにいくこともできない。舞台を開けるなんてまぁやるなって言うやつだよね。普通。俺が場を持たせていると、ステージ上に深海と守沢がやってきた。

「有くん!お前ってやつは!」
「うっせぇ。俺は、お前への借りを返済しに来たんだよ。」
「そうだな!『流星隊』はヒーローでありアイドル!弱きを助け強きを挫き、助けを求めるものの所へまっすぐに駆けつける!何があっても、絶対に守る!信じてくれとは言わない、俺たちは信仰対象になる『神さま』じゃないからな!」

わはは!と笑う守沢に俺は呆れながらも、俺は守沢と一緒に来た深海に目をやる。ちょっと前に水をやった奴だと今気が付いた。守沢が来たのなら俺の仕事はお役御免だ。じゃあと舞台そでに下がろうとしたら、有くんも歌えと言われた。

「しかたねえな、全力で飛んで跳ねてやってやるから。お前ら歌え!」
「もちろん!!」うにっと
「盛り上がっているところ恐縮だが、貴様の出番などない。ドリフェス制度の規定上、実績の低い『ユニット』から先に演目を行うことになっている。貴様ら『流星隊』はあまり活動をしていないため、俺たち『紅月』より実績が低い。要するに、貴様らの出番はもう終わっているのだ。さっさとどけ。一之瀬。」

もうすでに、貴様らは負けている。得票数はほぼゼロだ。だから諦めろ、引っ込め。と蓮巳が言う。

「でも、バックで踊ることは許されてるんだろ?そこだけでも見て、加点してくれる人がいるかもしれないじゃん。遅れてでも舞台に穴をあけないことで、多少のメンツを保ってるんだからさ、いいだろ?」

そうやって問いかければ、悔しそうな顔して許可が出たと同時に会場の喧騒が聞こえなくなって、歌う声が一つ聞こえた。音の方に向くと、気持が洗われるってこういうことを言うのではないかというぐらいのをすべて体現しているのが見えて、俺は言葉を失った。言葉に代えがたい、言葉にすることも烏滸がましいようなこの空気を割って入るものなんていないだろう。
しばらくその光景を唖然と眺めていると、彼がきょとんとして周りを見て、歌っちゃ駄目な感じだったのか?初めてライブで出るので、ルールが解らないので教えてくれ。と問いかける。俺は後で守沢と二人で立ってたらいいんじゃね?と提案して許可を取ろうとしたところだったので、まぁ問題はないのだけれども。

「突っ立ってるのも暇だろうしな。伴奏として歌ってくれ。せっかく舞台に上がったんだし、アイドルなんだもんな。」と鬼龍が笑って深海と守沢を舞台に残そうとする。その流れで、お前はどうする一之瀬なんて鬼龍が言う。俺は降りるぞ。そう伝える前に、守沢が俺の手を掴んで、お前は俺を助けてくれたんだ!とキラキラした目で俺を見てくる。

「さっき急いでるっていった電話も!俺のためだろう?」
「……違う。俺は、お前に助けてもらったから恩を返してるだけだから。」

終わったら話があるから、今とりあえず今を楽しんでいたら?そう言って俺は改めて舞台そでに降りるために動く。三毛縞の命令だったのも、今この時点で終わりだ。今の隊長にでも除籍届出も出してさっさとひきこもろう。あと二歩で舞台から消える所で、俺の手は守沢に掴まれて、ほらお前もアイドルなんだから、お前は俺のヒーローだからと言って俺は舞台中央に残された。

「あ、このあいだはおみずをありがとうございました。」
「ぶじならいい。」
「あなたもいっしょにうたいましょう。」
「いや、俺は。」
「ほら、てめぇもアイドルだろ。」

鬼龍に遠まわしに逃がさねえぞ。と言われてる気分で、俺はしぶしぶ舞台の後ろに並ぶと、笑えと守沢に肩を組まれた。守沢の反対側に深海が居る。
俺たちはここから生き始める。とかなんだ言うけれど、俺の2年は今日終わるんだよ。嫌いないじめっこから逃げるために一年。残り半年ほどを勉強に費やして、学歴にケチがつかない様に夢ノ咲を中退。それから大学ストレート。大卒資格さえもってたら、高卒なんて気にされないしな。

「今回だけなんて言わず、今後もずっと一緒に歌おう…深海くん、一之瀬くん。ううん『流星ブルー』に『流星ブラック』…お前の髪の毛から『流星ホワイト』もいいな!正義の焔を無限に燃やして、俺たちのアンサンブルを響かせよう!」

俺は二人の声を聞きながら、それでもやっぱり留年しようと決意する。いじめっ子が居ないほうが安心するんだから。無いとは思うけれど、向こうが留年して同い年になるとつらいし、誰が止めようとも俺はそうするし、そうした。

全てが終わって、みんなが帰るか。と言う時に俺は守沢を呼び出して、噛みきれ一枚押し付ける。蓮巳にルーズリーフを一枚もらって、筆記具も借りて急いで書いたものだ。悪かったな。俺は家からがっつり走ってきたの。なんも持ってなかったの。ここの話はどうでもいい。話を戻して。帰り道、人が一人ひとり別れていくので、守沢くんが一人になったタイミングで声かける、人気のない道で俺と守沢は向かい合う。

「なんだ、一之瀬くん。告白か?」
「…それみたいなもんだよ。これ、除籍届はお前の好きにして、今日聞いたんだけど。お前隊長だろ?傷の借りは今回で返したし。俺は次の四月から学生生活をやり直す。念には念を入れて、嫌いなやつと遭遇しない道を選ぶ。生徒会に出すなりして。」
「え?一之瀬くん?」
「じゃあな。元気で。」

これを機に縁が切れると思ってたんだけど、まぁ翌年に守沢と三毛縞に引っ張り出されるとは思ってなかったよね。だって、【DDD】が終わってすぐぐらいにさ、俺んちにみんな集まってくるんだもんな。千秋さんがまだ書類を持ってるから!帰ってこい。帰ってこないと、三毛縞と通話した内容をすべて露呈させるぞ!って脅されたら流星隊戻るしかないよね。もう、それからあれよ。守沢千秋という点で引っ張りまわされてるよね。




[*前] | Back | [次#]




×