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俺が流星隊に入ったのは、ふとしたきっかけだった。別にどこかに入ろうっていう明確な理由もなかった。声をかけてくれたから。それだけで、人のできた隊長は比較的存在感を消していた俺にも漏れず声をかけてくれた。それだけだったけれど何もない俺には十二分の理由だった。副隊長の三毛縞も知り合ったのはここだった。隊長から三毛縞だよ。って合わされて、三毛縞が2年だと初めて知ったのもここだった。とんでもないやつだって、俺をいじめるやつがいっていた。そんなやつに見つかるなよ。といじめてた先輩が言う。俺は、これ以上酷くなければ何でもいいと思って言うので、いうはずがない。そうやって過ごしていたら、ぱったりいじめがなくなった。気持ちが悪い、なにだったんだろうか。向こうの気まぐれか。みつかったのか。よくはわからない。悶々とした日々を過ごしてたら、守沢が俺の元にやってきて、最近なにかあったか?と血相変えて俺に問いかけた。いじめがぱったりなくなったとか、思い当たることを口に出すと、はっとして守沢は一言二言残してまたどこかに走って行った。

「なんだったんだ?」
「あぁ。有さん!元気だったか?怪我もすくなそうだなあ!」
「…三毛縞。」
「最近なにもなくて怖いぐらいだ」

その分家のことに集中できるんだろ?そう言われると訂正することはない。流星隊の面々には、俺の家がアクションやスタントの人ばかりだというのは周知の事実なので黙ることもない。俺は今日も家に帰ったら練習だよ。疲れたから流星隊も休みたいと言うと、頑張れ!将来がどうこうと三毛縞が煩く笑う。

「まぁそれだけ、静かに物事を見れるんだ、これからも千秋さんをよろしく頼んだぞお!」
「……なんでだよ。お前もまだ夢ノ咲にいるんだろ?」
「俺は海外の活動でいろいろあるからなあ。万が一、迷ったりしていたら助けてやってくれ。」

言われなくても借りはあるから返すためにいつかは一度働くさ。そう言うと、三毛縞は首を傾げていた。なんだよ。こわいなぁ。

「でも、有さんがそういうなら俺は安心したぞ。」
「なんでそう、三毛縞が言うんだよ。」

おまえなんて、まともに俺と話したことなんて二言三言じゃないか。そう吐き捨てるように言うと、俺は有さんがこっそり練習してるのも知ってるし、真面目にやってる珍しい子だからな!…どこで見てんだよ。どっちかっていうと、俺は親が仕事してる横でこっそり練習してたりするんだけど。俺、やっぱりお前が怖いよ。俺は三毛縞を見ると、三毛縞は俺の心を察したかのように俺もただの人間だぞ!なんて笑ってるから余計に怖い。普通はそういうこと言わないんだよ。俺の表情を見てか、俺も珍しい子だと笑ってた。いまいちいみがよくわかんないっての。三毛縞の異常さが怖くなって俺は、さっさとその場を離れたくて、適当なことを言って逃げた。俺は基本逃げるんだ。戦わず、逃げて耐えて嵐が過ぎるのを待ってるんだ。弱いんだよ。俺は。逃げたがりの戦士なんだよ。弱虫、意気地なし。人と会うのは怖いとか思ってないけど、誰かが俺を変えてくれることを願ってたんだ。
腐敗した夢ノ咲に、名前だけにすがってるのも。救ってほしいと願っている俺も。逃げて歩いていると、人が行き倒れていた。

「おい……?」

声をかけても返事は鈍い。廊下の真ん中だと色々問題があるので、引きずるようにして近くの階段に座らせることに成功する。体を揺すると熱いので、熱中症かと思って俺は鞄の中に入っていた水を引っ張り出した。封を切ってない方をそれに渡すと、朦朧とした意識で俺の手から水を飲んでいた。多少水を飲ませてから、俺が飲みかけの水を彼にぶっかけた。水に反応してか閉じられていた瞳が開けられて、瞳が黄緑にもとれそうな緑だと気が付いた。

「あなたが。みずをくれたのですか?」
「しゃべんな。行き倒れ。」
「でも、あなたはぼくのねがいをかなえてくれたのだから。」
「もっとみずのんでろ。熱中症だろ。」

そう望むのですか?と問われて、俺はそうだよ。こんなところで行き倒れてると色々問題だから。と言えば、わかりました。なんて比較的元気そうな返事。まぁ、返答できれば問題ないだろうとはおもうし、大丈夫だろう。とりあえず、彼に一本水をあげているのでそれ飲んで落ち着いたら動いていいから。そう言い残して俺はその場を後にした。
後にしることなんだけど、この倒れてたのが深海奏汰。だということを俺は知らなかった。

そうして季節が流れて秋。俺と守沢の間柄も三毛縞との間柄とも変わらない。会えば様子程度話す。それだけで、何も変わらない日々だった。しいて言うとあの頃よりも傷が減ったぐらいで、俺の目の上の傷は消えてはない。ただ。夏よりも、俺は周りの環境に辟易して学校に行くことを減らした。会えば殴られるだとかもあるので距離を置きたかった。殴られ慣れてるので問題はないが痛いから嫌だ。そうして、行く日を二日に一回。三日に一回。週に半分、週に一回とゆっくり減らしだした。人の付き合いも流星隊との交流も減って、家で殺陣やスタントの練習ばかりしていた。
どこからか情報を聞きつけた三毛縞や守沢も家に顔を出す様になって、守沢に至っては親の仕事場にも顔出してアクションを教えてもらったりしてるらしい。なんで来てるのかはわかんないけど。二人が家に顔を出すので、俺は祖父の家で殺陣やらを主に取り組んでいると、携帯が鳴った。断りを入れて、携帯電話に出ると三毛縞斑。とだけ書かれてた。…っていうか俺お前と交換したっけ?

「もしもし…三毛縞?」
「その声は有さんだなあ!今時間が大丈夫かなあ?」
「まぁ、何もしてないから大丈夫だけど」
「今千秋さんが困っている。」
「はい?」

…千秋って誰だ?…あぁ、守沢か。思い出して納得する。通話口の声に耳を澄ませていると、三毛縞は一つ一つ説明をした。『五奇人』の一人こと深海が、守沢と一緒に生徒会と戦おうとしている。本来は、深海奏汰を逃がそうとしていたが、守沢と一緒に生徒会と戦おうと決めたらしいのだが。ちょっと間の話がよく解らない。まったく話の筋が理解できなくて、首を捻っていると、単刀直入に言おう。

「助けてやってくれないか。これは命令だ。」
「はぁ?」
「そっちで、今【S2】の【海神戦】が行われようとする。」

そこで生徒会が深海奏汰を討伐しようとしているとのことだ。今現地に向かっているが時間が間に合うかどうかわからない。最低限一人が立っていたら、ライブの投票ですら多少間に合うとの計算が三毛縞の算段らしい。だから、『講堂』に行ってくれ。と三毛縞に言われた。

「それ、守沢の願い?」
「そうとも言える。千秋さんは全部やってみてからでもいいと言っていた。やりたいと願ったのだから。」
「じゃあ、借りの返す時が来たから命令じゃなくていい。場所は講堂だな?」
「あぁ。」

電話の向こうで三毛縞がニヤッと笑った気がしたが、俺は気にする暇はない。祖父に事情を話す前に家を飛び出した。最低限俺の役割は決まった、彼らの時間稼ぎだけが今回の俺の仕事だ。これさえ終われば、俺は残りの季節を家で引きこもって一年たつのを待つ。これで借りは返せるのだ。家を飛び出してダッシュで走れば、時間はライブのギリギリだろう。ある程度ユニット楽曲はある程度教えられているので、それだけを使えばある程度時間を稼げるだろう。
急いで玄関に走って靴をひっかけるだけひっかけて学院に走り出す。こういうとき学院近いのって便利だけどさ!違うの!電車やバスよりももっと早いやつあるじゃん。冷静に思い返して、俺は家の自転車にまたがる。ぎゅっとペダルを踏み込んで勢いよく自転車のスピードがあがる。いつも徒歩でゆっくり通学してたり、家から一番近いバスや電車を使ったりするのだが、自転車でこれだけとは……。もしかしたら、今度…はないからもう覚えなくていっか。思考を全部捨てて、歴代最速の勢いで到着すると一目散にいつもの部屋、AV室に駆け抜ける。人気のない夜に近い時間帯なのでつっぱしっても怒られないだろう。最悪、俺は窓を通り抜けたりして時間短縮を図って到着する。部屋に入って、真っ先に収納ドアの後ろに隠れた衣装を引っ張り出す。ラックの一番端に出ていたのが黒だったので。俺はさっとそれを着て、すぐさま後で来るだろう二人分の衣装を引っ張り出しておく。講堂にダッシュする。深海、ってあんまりよく顔も知らないんだけど、まあ色合いを見るとブルーじゃないのかと思うけれども、本人の希望もあるので、赤、青、翠、黄色、と並べておいて俺は窓から飛び降りて講堂に走る。



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