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だからなんでこう、うちの学校ってこうもイベントとだだかぶりしてるんだか。俺は受け取った企画書を持って震えた。高卒資格は【七夕祭】翌日、大学入試は【ショコラフェス】前日ときた。…いや、前々からひったすら勉強してるから…振りはおざなりにできないし、かといって大学受験は終わらせたい。人に喋ってない。ということでかなりのダメージを喰らっているし、千秋にも奏汰にも迷惑をかけ…たつもりはない、むしろかけられてて困ってるのが俺なんだけど。前日になんとか無理言って練習を一日休ませてもらおう。それ以外は妥協しないで…スケジューリング何とかなる…はず。さがみんにも何とか…慈悲を、って思ったがあれは駄目な大人代表だったことを忘れてた。

「あぁあああ…」
「どうしたの?あっくん?」
「俺、自分の運の悪さを呪ってる。」
「いつもの事じゃん。ち〜ちゃん先輩にうざ絡みされてさ。」
「…同じバスケ部のよしみでさ、この現状をなんとかしてくれよぉ。明星ぃ」

もう勉強漬けも嫌だけれども、卒業というか合格が決まってからせめて『流星隊』には伝えたいなぁ。って思ってるから口が裂けても…いや裂けたら言うかも。ぐぬぅ…とうなっていると、携帯が震えた。着信音はダースベーダ―。一発でわかるし、どうでもいいけど三毛縞はゴッドファーザーのテーマ。奏汰はお魚天国。一年たちは普通の。俺の無害か有害かでいうと今上げた最初の3名は完全に有害。奏汰はまだましだが、お前らだよ。千秋と三毛縞。
俺が悪態ついていると、電話よりも先に千秋が姿を出した。待って、今お前電話鳴らしてたよな?なんで俺を探しに来た。慌てて電話を切ったが時すでに遅し、千秋に見つかって、いつも通りにAV室に連れ込まれる羽目となった。おい、今日何もない日だろ!?そんな声にも、今日はな!重大な話だ!って言うんだけど、お前毎回それだよな?パターン変えろ!!と叫んだが、千秋に関してはどこ吹く風。ドナドナよろしく、俺はAV室に叩き込まれた。…この時期の、これだ。嫌な予感しかないし、俺が叩き込まれると一年生たちがスペースを開けた。俺の投げられる場所もいつもってこった。痛む尻を撫でつつ千秋をしかりつける。

「痛いって!千秋テメェ!ナスばっかり持って来てやろうか!!」
「それは、すまん!!悪かった!!…で、だ。お前たち、チョコは好きか?」
「は?何スか、唐突に。…ちょこは、まぁ普通に好きッスけど、でも、チョコよりカルビ丼のほうが好きッスね〜。」

好き好きに会話していくので聞き流しつつ、手近な席に座る。今日は家でしか勉強できなさそうだなぁ。と考えること飛躍させると有はなにのチョコが好きですか?と奏太が問いかけてくる。ので、甘いもんなぁ、とぼやく。夜中の勉強の時に、参考書やりながら甘いもん摂取してたりしたなぁ。と思い出す。

「甘いもんなぁ。まぁ好きかなぁ。一般的には。」
「じゃあぼくとちょこをこうかんしましょう〜」
「解ったからまともなチョコならな…お前のまともならな…」
「あ、あのう?話が思いっきり横道にそれているでござるよ?魚が好きや、甘いものが好きではなく、チョコが好きかどうかという話でござろう?」

両手放しで忍を褒めちぎって、己のどのチョコが好きだと宣言するが、残念なことにお前の話は聞いてないんだよなぁ。だから、そのまま話をまた逸らさないでくれ。頼むから。ついでにうちの子誰もそんなシール集めてないから、諦めろ。お前はいつだってそうだ。呆れて俺は椅子をぐるりと半周させて千秋に背中を向けた。あほらし、話にならないなら俺帰っていい?呆れて言いかけたら翠にあれ押さえてくださいよ。と言われた。…っていうか千秋アレ扱いされてんのウける。

「てっきり、近日に開催される【ショコラフェス】関連の話だと思ってたんですけど?」
「たぶん、そういう話に持っていきたかったんだろうけど。話もってくの下手すぎ。」
「うむ、チョコの話のとっかかりとして、その話をしようと思っていた。」

ちゃんとイベントのことを覚えていて偉いな高峯!有!こっちにこい、俺が誉めてやろう!と声高に言いだしたので、俺は素早く千秋から逃げる。翠もきっぱり断ってるので、恐らく行き場のなさそうなわきわきした手が気持ち悪い。

「それより、やっぱり『流星隊』も【ショコラフェス】に参加するんですか?」
「もちろんだ!【ショコラフェス】はアイドルが、日頃お世話になっているお客さんをもてなすイベントだからな!」

意気揚々と元気になる千秋と、反対にしょんぼりしていく俺。しょげだした俺を見かねてか鉄虎がどうしたと声をかけてくるので、最後の試験が【ショコラフェス】の前日だと告げれば、鉄虎はご愁傷様ッスなんていいつつ俺に手を合わせた。奏太も訳を解ってなのか解らずなのか、手を合わせてどざえもんです〜って聞いて全く俺は安心できない。もうやだ。【流星隊】やだ。

「隊長【ショコラフェス】ではアイドルが手作りのチョコをお客さんにプレゼントするって聞いたんスけど、俺たちもチョコをつくるんスか?」
「そのつもりでいるぞ。チョコは業者に依頼するという方法もあるが、既製品より真心がこもったチョコをもらった方がお客さんは嬉しいだろう。もちろん、チョコづくりに追われて肝心のライブがおそまつな出来になっては本末転倒なので、ライブに全身全霊を注ぐのも間違いない、俺としては手作りチョコでお客さんをもてなしたいと思っているだけで、みんなの意見を聞いて最終的にどするか決めようと思う。」

だから意見を聞かせてくれ。チョコづくりをすべきだと思うやつは挙手してくれ。と千秋が促すと、まー翠以外が手を挙げた。おいこら、お前ら現実を見ろ。多数決で全員の頭をはたきたくなった衝動に駆られる。高峯、有反対する理由を聞かせてくれないか?と投げられて俺より先に動き出したのは翠だった。

「チョコを作るのって大変そうだし、そもそもみんな、お菓子を作った事あるの?」
「この中で、自炊経験あるやつ。名乗ってもらっていい?鉄虎以外」
「えー!なんで俺は除外なんスか?」
「焼けば焦がす奴に調理を語る資格はねえ。俺は最低限自分の分ぐらいなら作れるけど、正直今お前らの面倒見てる余裕もない、レシピは書くけど実行するのにも、翠に負担がかかる。だから、俺は業者委託を推す。」

でも、為せば成る。為さねばならぬ何事もっていうじゃないッスか!挑戦してみれば案外、つくれちゃうんじゃないッスかね〜?。とか呑気に言うから俺はかみつくように言葉を放つ。うっさい、チョコを直火で焼こうとしてるだろ、特に鉄虎。忍は作りかた端っこまで読みそうだからいいんだけど、特にお前だ千秋と鉄虎。どうせ、前半しか読まねえだろ?3年付き合ったらそりゃあある程度性格も読めてくるわ。うちから食中毒者なんて出したくねえよ!

「有が頑張ってくれるだろ?」
「【ショコラフェス】前日が試験日なんだけど?お前何言ってんの?手伝える訳ねえだろ?」
「ところで、俺たちにも言えない様な試験って、なにやってんスか?」

…高卒認定と大学入試。だとか今ここで言える分けねえだろ。心の底で絶叫に近い悲鳴を上げながら、俺の人生に必要なもんだからいいの。ほっとけ。とそれはそれだとよそに避ける。最悪俺の分は受験が終わった瞬間に作ればいいが、それでも大量に居るだろうよ。レッスンと、追い込みとチョコ作りなんて同時にこなせるタスクじゃねえ。どうするよ。

「俺の人生に必要なやつだから、いいの。それは別。勉強は家帰って数時間とか通学時間で肩つけてやるが、チョコまでは俺は背負いきれん。あんずでも、だれでも講師になるような人を捕まえることを勧めるし、決まったならば最低限は従うけどな!。」
「ふむ…いろいろと話はそれかけてるから、戻すぞ、高峯の反対理由は作るのがただ面倒だと言うだけで、有の理由も時間がない。なら、『流星隊』は多数決でチョコ作りだ!」

本気で舵切りやがったこいつ。お菓子をほとんど作ったことない面子でチョコレートっていうのがもうかなり心配。特に奏汰。次点千秋…って3年が心配の種って相当だぞ?わかってんのか?おい…もう俺の話を聞いてくれない。もう!!好きにしろ!!この野郎。ついでに、海の家でキッチン仕事したけど、あれレベルで考えてたら痛い目みるぞ!って釘指したら涙目で助けてくれって言われた。…しゃあなしな。レッスン時間俺だけちょっと短い目にしてもらうのを交換条件に取引が成立した。超スパルタ鬼軍曹の出来上がりだ。翠が一之瀬先輩なら何とかなると思ったんですけど。っていう目で見られた気がしたが、諦めろ。コレが点『守沢千秋』だよ。お前もほぼ一年喰らってるんだから学習して…。



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