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何日かたった放課後、噴水前で集合してほしいっす。と鉄虎から連絡があったので、俺はそのままへいへいとへんじして集合場所に到着する。噴水のへりに腰を下ろして待っていると、俺に気づいたのか体操服姿の鉄虎が俺の方向に向けて走ってくる。

「一之瀬先輩。お待たせしましたッス。」
「俺も来たところだし。いいよ。」
「あ、翠く〜ん、こっち、こっちッス。」
「ウッス。」

頭を下げられたので、うっす。と返事しながら俺も片手をあげる。深海先輩に噴水前で練習してもいいって許可をもらったッスからね、今日はとことんやるッスよ〜!元気よく言われ、翠がべつに深海先輩の縄張りってわけじゃないんだから、きにしなくてもいいとおもうけど。と言葉を濁らせていくのを聞きながら、そういえば奏太って三毛縞のことごろつきだとか縄張りだからここを通るなとかいってたなぁ。とかどうでもいいことを思い出しながら、とりあえず口に出さない方がいいのかな。と思いつつ二人のやり取りを見る。

「ま、なんでもいいや。ほらほら、はじめっぞ。」
「そうっすね。翠くん、一之瀬先輩、絡まれる役でしたよね、じゃあ翠くんがヒーロー役で。バッチリっすね、」
「なぁ、俺今思ったんだけどさ。俺ここで全力スタントしたら、鉄虎があとで俺以上のスタントになるよな……」
「言われてみれば。ほんとッスね。俺多分一之瀬先輩みたいなスタントできないッス。」
「いや、できるよ。鉄虎、空手部だったよな。受け身はとれるか?」

思い付いた構図のために必要なことを聞いてみると、少し悩んでから大将に教わりましたけど。といいつつはっきりしない声を聞く。あんまり練習できてないんだな。問いかければ、首は縦に振られた。なら、練習もつけてやるから、とりあえずかんたんなとっから。やるぞ。と俺が舵を切り出していると、転校生がやって来た。そのまま絡まれる役をお願いして演出監督ばーい俺の小芝居が盛大にカチンコした。

「おうおう、ね〜ちゃんちょっとそこまで付き合ってくれよ?」
「え?ちょっとそこまでってどこまでなの?」
「うーん購買部っすかね」
「べつにいいよ?」
「じゃあ一緒にいくッス〜」
「ヒーローの出番がない。」
「めでたしめでたし」

めでたくねえよただのコントだ。とつっこめば、鉄虎もあんずも二人して、手をうった。おいこら、お前らやる気……なかったな。うんと頷けば、翠がこれでいいんじゃないんですかね?とか言ってくる。よかねえよ。とつっこめば、ヒーローの出番がないヒーローショウって何なんスか!鉄虎が吠えたが知らねえよ。やったのそっちだろ。

「あんず、ボケてるのか本気なのか知らねえけど。手を振り払ってくれ。頼むから」
「そうだよねぇ。ごめんね。つい。かわいいから」

練習だからなんでもいいけど。いかんせん、鉄虎は固いなぁ。臨機応変さほしいよな。とか思いながら、一年に混ざってきゃっきゃとあんずがはしゃいでいる。そのまま繰り返して練習しとけと伝えると、鉄虎はめんちを切りつつ、そこまで付き合ってくれよ。とあんずに絡んでいく。が、一向にあんずの腕をつかむ素振りもない。ダメだこりゃ。と思っていると、あんずが鉄虎の腕を掴んだ。うっひゃあっ!?と声をあげて真っ赤になりながら勘弁してほしい!とあんずの手を振りほどいて、俺の後ろに隠れた。

「おいおい。今さら役を変えるとかできねーぞ。あーなった千秋なんざ、テコでもうごかねえっての。」
「じゃあ、一之瀬先輩。一回手本を見せてほしいッス。」
「俺!?」

ぎょっと驚いたが鉄虎のまっすぐな瞳が俺を見た。去年一年色々あったからあんまり覚えてないけど下からこうやってお願いされるのって、ちょっと新鮮かも。とか思いつつ、一瞬思考を捻らせる。ガワかぶったらなんだってできんだけどなー。と思いつつ俺は立ち上がり、あんずに前に立ってもらう俺の後ろは噴水にしてるのは対外的に見た目にも逃げ道を作っておくことが大事だからだ。あんずのな俺じゃねえよ。想像は羽風だろう。っていうか、あいつ以外に口説くようなやつそんなにいないしな。

「な、おにーさんといいとこいかない?」
「ひゃっ!」
「なにー照れてるの?可愛いね、返事は?」
「いっ、嫌です!」

あんずの抵抗のつっぱりが俺の正中線ど真ん中を狙う。そんなところを狙われたら、まともに体制とっていない俺は噴水にまっ逆さま。深海がここにいたら##name_3##もぷかぷかしますかーとのんびりした声を浮かべるのだろう。着水音と同時に転校生の謝罪が耳に入った。夏の手前の時期だから水もそこまで冷たくはない。

「大丈夫?」
「あー平気平気。奏太の水浴びで慣れてっから。翠、悪いんだけど部室の俺のロッカーに体操服とタオル入れてるからとってきてくんない?この状態で体育館入ったら蓮巳に始末書書かされるからさー。ゆっくりでいいよ。」
「わかりました!」

返事をして翠が走っていった。俺は緑を送り出してからあんずの顔にどうしようと浮かんでいるので、なだめる。大丈夫だって、気にすんな。となだめて噴水から出る。ま、羽風を参考にした俺が悪かったんだって、と言うとあぁだからかとあんずに納得された。おい、あいついつもなにしてんだ?濡れた前髪をかきあげたくないんだけどなぁ。と思いつつ前髪から何から何まですべて後ろに持っていく。額にうっすら傷が残ってるのだけれど、まぁ、傷痕は薄し、メッシュの白があるからバレにくいからいっかと判断していると、鬼龍がやってきた。

「よぉ、鉄。転校生の嬢ちゃんも。なんだ、有びしょ濡れじゃねぇか」
「あー噴水にうっかり落ちた。」
「お前、その傷……」
「小さな時のスタントの傷だから違う。鬼龍も千秋も関係ない傷だよ。」

もしかして、といいかけたのを無理やり止める。ガキどもに聞かせるつもりもない話だ。おまけで出来た副産物の傷だが、それでいい。生え際だし、ちょこっと5針ほど切った傷なんて、よくあるよ親父とかよくついてるし。そっと止めてやると、鬼龍はそうか、と言葉を濁した。うんと俺は頷いて、ブレザーの水を絞ることにする。

「大将〜ちょうどいいところに、俺!大将に聞きたいことがあるんスよ〜!」
「おお、いきなりだな。まぁいいや。鉄には恩があるしなんでも聞いてくれよ。」

えぇ恩って何スか!?と驚いてる。ブレザーの脱水も終わらせてネクタイをほどいてカッターシャツの脱水にとりかかる。中にTシャツを着てるが、さすがにここで脱ぐのは不味いだろう。下もびしょびしょだけど、あとで翠が着替えを持ってきてくれたらさっさと着替えることにしよう。うん、それが大事。もしかして、鬼龍が怖くて帰ってこないとか、……ありそう。あいつ、小心者だしなあl。まぁ、風邪引くかもしれないけど真冬じゃないし、大丈夫だろう。



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