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練習したり殺陣したりして時間が流れてあっという間に『学院際』当日。キッチンカーも手はず通りに規定の場所におかれてるのを確認して、機材の搬入をして試運転の準備を始める。格安の殿堂のわたあめメーカーとコンセント。わたあめの元になる飴玉とジュースは業務用スーパーで購入すみ。つくづく俺振り回されてるな、と思うと飽きれと同時にちょっとのウキウキがわいてきた。わたあめ機械のコンセントを入れて、暖まるのを待つ間に、自分の口にもエネルギーになる飴玉を入れてから飲み物を冷やし始める。昼頃に氷屋に頼んでるので追加の氷もやって来るだろう。中でごそごそしてたら、窓を3回ノックされる。ん?と顔を出せば、窓の向こうから千秋がこちらを見ていた。俺は片手を揚げてから販売口になる窓を開けると、他のメンバーもこちらを見ていた。

「有、どうだ。」
「んーまーそろそろ暖まると思うから、練習がてらにいくつかつくるけど。食う?」
「もちろん!俺は赤のをたのむ!」
「なんでもいいから、着替え持ってきて。あとで着替える。」
「わかった、じゃあ先に着替えてから、持ってくる1」

はいはい。と適当に了承の返事をしてると、一年たちも何味のわたあめ食べたいか聞いておく。千秋には適当に出そうと考えながら。とりあえず5人分でなんとか成功させなければいけないのだ。もくもくと下準備にとりかかりだすと時間はあっという間に、開始のベルが鳴るそれでも、お客はやって来るので、何味にしますー?と聞きながら飴とジュースを引っ張り出してくる。言われた味のわたあめを手早く作りながら、先に飲み物を配ってお金を受け取ってわたあめを渡す。ってか、一般入ってるのに、なんで千秋たちが帰ってこないの!?と一人でこっそり悲鳴をあげながら作業を続ける。売って渡して受け取ってをいくつかしていると、慌てて俺の今回の衣装を持った翠と奏太が帰ってきた。

「お待たせしました一之瀬先輩」
「おっし、ちょっと裁いたらお前もなれてくるだろ、お店の子。」

なれたら一旦着替えてくる。奏太、ジュースの段ボール持ってきて。と指示を出しながら、割り箸にわたあめをつけていく。10分ほどして客足が落ち着いてきたので、俺も一旦着替えてくると伝えれば、早く帰ってきてください。とか本気の形相で言われたので、俺もキッチンカーの裏で着替える。白のTシャツに赤黒のボーダーに各メンバーのテーマからー。白は目立ちにくいので、黒ボーダーにちょこんと乗ってる。そんなことが嬉しくて、シャツの腕を捲って、追加戦士の俺はみんなとベースの白とテーマカラーが入れ替わっている。俺自身テーマカラーが白なので、帽子の前側とツバには、メンバーのカラーリングが入ってるので、今回は帽子のツバを後ろ向きにして被る。髪の毛のライトグレーなのでいろだだ被りにちかいんだけど。差し色に黒を入れてるのは転校生の差し金なんだろうか。とりあえず帽子をかぶるために、持ち上げると同じ色の長いウイッグが一つ。千秋のメモと。一緒に入ってた。有へ。ウイッグと帽子をかぶって売店に立つこと、絡まれ役はスカートで。白に差し色の黒のメッシュ。めまいがする。なんのために黒の差し色をやめたと思ってるんだ。むかしにもやったが、あのとき二度とやらないと三毛縞に直談判したはずなんだけどな。……いいけど。とりあえずあいつに、ぜったい茄子食わせてやる。と心に決めて、早く帰んないと翠がぐれちまうしな。と手早く、ウイッグをつけてキッチンカーに戻る。

「お店の子、大丈夫かー?」
「え、あ?その格好」
「千秋が着ろってさ。やだやだ、一年前の姿なんて見たくないのにね。」
「あぁ、そうだ。一之瀬先輩……深海先輩が」
「奏太が?」

いないと言われて、俺は頭を抱えたくなった。とりあえず、一旦10分ほど休憩やるから、その間に千秋に報告をしてくれ。その間俺が一人で捌くからいいよ。こういうのなれてるし。ほら、いってこい、と背中を押して販売用の窓に顔を出す。注文を聞いて飴玉を機械に投げ入れて解ける間に、飲み物を代の上に置く。ちょっと待ってね、と声をかけて、わたあめを作る方に手を動かす。殿堂で買ったわたあめ機優秀。とか呟きながら、わたあめ一つ作り上げて、お金を回収。次に人はー?と話を振ってると、翠が帰ってきた。今携帯に連絡を入れたんですけど、誰も連絡が取れませんでした。と言われるので、奏太をもう諦めようと俺の思考が切り替わる。大丈夫いつも慣れっこだから。と自分に言い聞かせて、人を捌く。翠に飲み物と売り子をお願いして俺はわたあめ機購入していた3台をフルに併用しながら翠のオペレーションをたよりにひたすらわたあめを作るマンになる。心を無にしてたら時間はあっという間に過ぎるのは一年前にとった杵柄。懐かしくはないけれど。心の殺し方もある程度わかってるので、もう、なんでもいいです。心を殺して翠の声を聞きながら、声だけは無理やりテンション高めにはいよー。と声をあげる。そうだ、俺はあの人たちと違って、優しい先輩でいくんだから。あのバカと人間ブルドーザーとは違うんだよ。っていうか、千秋と三毛縞な。三毛縞なら一人で全部片つけるんだろうな。とか思っていると、キッチンカーの入り口が開いた。

「大丈夫か、高峯?ずいぶんしんどそうだ。そこの椅子に座って、休んでろ。」
「ちーあーきーくーん??」

今はガキどもの前だからとりあえず全部あとで覚えてろ。俺のがちぎれとーんで言うと、千秋が一瞬震え上がった。そんな姿を一瞬見て俺は一旦すっきりする。鉄虎が俺の顔を見て首をかしげた。お客さんですか?と言われて俺は鉄虎。とあきれた声を出した。俺の声を聞いてか、鉄虎が驚いて一之瀬先輩!?と声をあげる。どうしたんですか!?そんな女の人みたいな格好をして。

「あぁ、一年前こんな感じだったよ。ま、髪の毛切ってなかったんだけどさ。差し色は黒。今年はブラックがいるから差し色は白にしてんの」

そういいながら、前髪の生え際を出す。灰色の髪によく見ると白のメッシュが入ってるのだ。帽子をとってめくりあげると、よくわかるだろう。もちろん額の傷はうまい具合に隠してだ。そうやってみると、ほんとに女の人みたいっすね。と言われて、まぁ、仕事場でスカート履かされてたからな。とおもいかえす。ってか、なんで千秋が知ってんだよ。家の実家の手伝いをさ!もう、と俺は手近な椅子をひっぱってきてわたあめを捌く。会話をしながらフル稼働3台を2台に減らして、頭を抱える。こんな写真残ったらやだ。とか思っていると床しか見てなかった視界に別のものが入る。

「一之瀬先輩ありがとうございます。俺、一之瀬先輩が居なかったらたぶん本気で死のうとか思っちゃってました。休憩もありがとうございます。」
「後輩助けんのが先輩でしょー問題ないー。気にすんな。いつかの後輩に返してやれ。ろくでもねー先輩になんなよ。お前ら三人なら大丈夫だろうけどさ。」

からから笑って手をヒラヒラさせる。俺も疲れた。もうやだ。とか思ってる部分あったけど。まぁこうして外の世界見てるんだし、三毛縞に引っ張り出されなくても留年したすぐにこっそり学校には顔出してたし。ひったすら隠れたけれどな。あいつ明星を引っ張り出しに来てたから。
もんとあのしばらくだけは心臓に悪かった。いや、今も悪いけどさ。ほら、千秋。働けとケツを蹴って、ジュースと売り子を任せる。

「それより一之瀬先輩、深海先輩の姿が見当たらないッスけど、どこに行ったんスか?」
「着替えから戻ったらいなくなってて、翠に休憩がてら連絡入れて貰ったけど、誰も見てくれないって報告受けてるが?トランシーバーに夢中になってスマホを忘れたとか言わないよな?」
「ここまでがんばったんだなから、もうしんじゃっていいよね」

こら、後ろに音符をつけるんじゃありません。それにほぼほぼ一人じゃねえだろ。翠、口開けろ。おつかれさん。と翠の口の中に今回の材料の飴玉を入れる。よくできました、お店の子。えらいえらい。と頭も撫でておく。絶賛髪の毛長いのと、中性的な顔立ちしてるから女に見えるだろ。とそこまで判断しての行動だ。飴玉もいっこ食べる?と聞こうとしていると奏太が姿を表した。

「ただいま〜。」
「奏太、お前どこ行ってたんだよ。せめて着替えてる最中はいてくれ。」
「『すいぶんほきゅう』してました。なので『げんきいっぱい』ですよ〜。おや?みどりもなりはぐったりしてますね?『みせばん』ふたりにまかせたでいましたから。ほんとうにごめんなさいね。」
「帰ってきたならいい、どーせ」

千秋が言いたいことをぜんぶいうんだし。とか考えてると、店がまわってないので、鉄虎に声をかけて店番任せ作業に戻る。新しい飴玉を機械に放り込んで一台を翠に任せる。こういう風にと説明してると、忍が帰ってきた。千秋に奏太が真面目にヒーローしてたよ!という報告を聞くと羽風に転校生が絡まれていたようだ。一通り話がまとまったのと全員が集合したので、店番組と見回り組を交代するらしいのだが、俺は調理班の引き継ぎであとから参加になるらしい。へいへい。したがいますよー。と返事をしながら鉄虎と忍に機械のツカイカタヲ説明する。『みまわり』はがんばりますね〜。という気の抜けそうな奏太の声を聞きながら翠頑張れあとで行くからそこまでは耐えてくれと俺は願う。

「あ、待て!ヒーローショウまでの手順は頭に入ってるな?全員で打ち合わせをする時間はもうないからわからないことがあったら今のうちに聞いておいてくれ寸劇のメンバーは頑張れよ!有はそのカッコでスカートな!衣装はここにあるぞ!」

最後に特大爆弾を投げ込まれたので、とりあえずケツを蹴る。ぐっと黙るのでどーしたのー?ちあくーん?と瀬名ばりの声色で問いかけてやった。千秋は真っ青な顔してたよね。



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