1






学校が終わると同時に今日は帰ることにしようと決めたのは、わずか30秒前の話だ。俺の直感が早く帰れと告げるのだ、終わりの号令を聞くと同時に俺はカバンを背負い、んじゃ!という一言で俺は帰宅ダッシュを決めこむ。今日は『流星隊』の活動日でもないはずだし、部活もない。あの暑苦しい千秋に会う必要が全く持ってない。教室を出て三歩。

「有!探したぞ」
「ぎゃあああああ!!!!千秋今日は俺は帰るぞ!今日は家に帰って勉強するんだからな!」

俺の悲鳴にも似た絶叫とあげると、今日も元気だな!と俺の首根っこ掴みながら言う。まって、瀬名ちゃん的に言うあれだ。『超うざぁい』だ。そんな場合じゃなくってだな。苦しいから離せ千秋!じたばたしても、むなしく、俺の両手は宙を掻いた。俺を捕獲した千秋はそのまま教室に戻る。もうろくな予感がしない。もっと早くに逆方向に逃げればよかったな、とか今更ながらに後悔した。

「つれないことを言うな有。明星!明星スバルはいるか!?」
「うわっ、面倒くさいひとが来ちゃったなぁ……?一之瀬も捕まってるし」
「あんずと明星一緒にいたんだな。うむ青春だ」
「なんでもかんでも、青春に結びつけんな。このやろう。」

千秋が明星の席に座ったので俺はようやく解放されて、立つことに成功する。服についた埃を払っていると、あんずが大丈夫ですかと声をかける。大丈夫デス。と答えながら俺は立ち上がる明星の机のふちを掴んで立ち上がる。

「明星も!有も!お前たちが居てくれてよかった二人ともすぐに居なくなるからな、教室にいなかったらあちこち探し回る所だったぞ。」

そんなことを言われて俺は盛大に頭を抱える。もっと早くに帰ってたらよかった。今日活動日じゃなかったはずだし、とちぇ。と俺は零してガタガタ椅子を引っ張って背もたれを前にして腰を掛ける。明星の机に肘をつきながらぶーたれる。

「俺、ち〜ちゃん先輩と約束してたっけ?」
「してないぞ、明星が有が見つかったからな。これから衣更の教室に行って最後は高峯の教室だな。」
「サリ〜にタカミン?ふたりともバスケ部の部員じゃん。ってことは、バスケをするためにメンバーを集める気?」

うひっ。と声が漏れた。思ったよりも大きな声になって、三人分の目玉が俺を見た。ちなみに俺は千秋に誘われたから入ったが球技はそれなりに嫌い。家がアクションやらなので極力動きたくない。が本心だ。自由参加じゃなかったら、転部してるだろう。俺はどうやったら回避できるかと頭を捻らしてると「俺たちも高校生だ高校生らしく部活に汗を流すのも青春ぽいだろう?短い高校生活をアイドル活動だけで費やしてしまうのはもったいない!」なんてキラキラ耀く千秋の声。そんな声に呆れる。はーまたでた。熱血バカ。おれは呆れる。振り回されて二年目、生きてるお母さん俺は疲れました。っていうかバスケって5人でできんの?

「それに、そろそろバスケ部の強化合宿があるからな。ここらで部員同士のきずなを深め全国制覇を狙いたいところだ!」
「がんばれ!バスケは絆で勝つもんじゃないよ」

勝利は個人の技量だから。しらんわ。呆れつつ、俺は机に崩れる。もうやだ、おうちにいたい。学校で寝泊まりとかマジ勘弁してくれ。ひっそり泣いてると、明星が壮大すぎると遠い目をしたが、明星が思考を切り替えだした。

「あっくんならなんでもできるだろうけど、部員レベルにあった練習方法を考えるべきだよ。」
「おい、明星」
「この間エアウォークの物まねしてたじゃん!タカミンは初心者なんだから、しっかりメニューを考えて練習しないと技術が身につかない」

バスケ部の強化合宿も去年はゴタゴタしてできなかったからね、今年こそはちゃんとしたいな。なんていう明星の声を聴いて俺はぎくりと固まる。千秋に気づかれない様にそっと息を吐き出して、冷静になれと言い聞かせる。そのまま寝たふりして逃げてやろうかと、思ってると千秋がバタバタと音を出して走ってった。

「あっくんあっくん、いこっか!」
「…………ハイ」

……俺の根っこにある逆らえない精神が何故か反応した。ひっそり涙を呑みこんで、顔を上げると不思議そうな顔したあんずとにっこり笑ってる明星に俺はひえっとなってると、入り口からひょっこり顔出した千秋が早くしないとおいていくぞ。と言っている。うわっ、わざわざ戻ってきた……。なんて明星が言うのを拾ったけれど、ほんとに俺はがっくりとうなだれる。俺もバスケしなきゃいけない?しんどいんだけど???やだぁ。と声を出せば、ほらほらあっくんいこっ!なんて肩を叩かれて俺はドナドナ気分で歩き出すと、隣クラスから千秋の声が聞こえた気がした。煩い、と吐き出せば仕方ないよちーちゃん先輩だもん。と明星が呆れてた。おい、やめろ。俺を哀れな目で見るなあんず。だらだら隣のクラスに到着と同時に千秋が俺を突き飛ばす勢いで走ってった。あれはやばいぞ、と思い翠に逃げろと念波を送るよりも早く携帯にかけてやる。犠牲は少ない方がいい。そうやって携帯にかけると、はいもしもし。といつもの翠の声が聞こえた。

「翠?お前今すぐ逃げろ、」
「一之瀬先輩?」
「良いから犠牲は少ない方がいい!千秋がそっちに向かったから早く鞄を持って外に逃げろ。捕まったらぶっ殺せ!」

俺の言うことに主語がなかったのは悪かった。「え?なんで?」と言われた瞬間にスマホ越しに千秋の声を聴いた。あぁ駄目だったと思いながら俺は階下の翠に合掌。あとでジュースおごってやろう。と心に決めてると、一之瀬先輩行きますよ。と衣更に声をかけられる。俺は逃げるぞ、と主張すると、諦めてください。と俺の首根っこを掴んで、俺たちも犠牲ですから。と諦めてた。お前ら諦めるの早いぞ、ここで全員で逃げてもいいんだぞ?…翠に怒られるか。衣更と明星とあんずの背中を見ながら俺はフロアを降りていく。家のスケジュールを思い出しながら、今日帰ったら殺陣の稽古じゃん、と思い出すと無駄にエネルギーつかってらんないや。と考える。途中で飯先に食ってもいいけど、かえってまた飯になるから、うーん。と考える。今日なにの殺陣やんの?切るほう?切られる方?いや、どっちもやりたくねえ。とか頭を抱えてると、翠のクラスに到着した。入り口で肩を落としてると、衣更が肩をたたいた。

「もうやだ。」
「どうしたんだ?有」
「いや、家帰って家の仕事すんのだるいなって。思った。」
「有の家ってスタント事務所じゃなかったっけ?」
「んーまぁ、そうだけどよ。じいちゃんが殺陣とかの専門家だからなぁ。」

手ぇ抜いたら竹刀でぶたれる。と言うと、痛そう。とあんずが言う。まぁ、慣れたらそんなもんだよ。夜中まで練習かなぁと早く終わって寝てたいなぁ。とあくびを殺しながら、今日の睡眠時間を逆算する。5時間寝れたら御の字だろうかね。と思いつつ明日の授業中寝よう。と今から計画する。脳内で組み立ててると、翠が寄ってきた。

「一之瀬先輩、さっきの電話すいませんでした。」
「もっと早く言っておけばよかったよ。」

そしたらお前だけでも逃がせたのにな。いや、それでもあんず先輩から新作マスコットもらったので全然。ちょっとうれしそうなので、俺はもうにげていいかな。と諦める。さっさと千秋をつぶして帰ろう。それが一番手っ取り早いだろう。どうせ教える側になるだろうし、エネルギーは多少節約できるんじゃないかと思う。省エネと心かけていると、ほらほらいくよー!と明星に背中をおされて、俺は強制的に体育館に突っ込まれるのであった。




[*前] | Back | [次#]




×