5e





守沢を家に送って、俺はUターンでそのまま学校に戻る。そのまま有志で集まれと周知連絡を出して学校の倉庫からステージを拝借する手続きをさっさと行う。蓮巳に持っていくとあっさり許可が出たので、ステージの基礎と倉庫をひたすら運搬を開始する。物量を考えると、夜通し動いてなんとかなるかな、と算段立てる。明日の天候はあまりよろしくなった気がするのだが。まぁ、基礎さえやってシートをかけておけば何とかなるだろうか。あんまり倉庫ってすきじゃないんだけどな。あーやだやだ。一年前の怖い思い出だけが身を食っていくような気がした。ふっとため息をついて、資材をどれから持っていくかを考えると、「一之瀬先輩」なんて声が聞こえた。ん?と振り返ると一年トリオがそこに立ってた。

「一人で作業を始めるつもりだったでござるか?」
「先輩!手伝うことあるッスか!」
「……まぁ、いつもお世話になってるんで。」

文字通り三者三様の口調で言うのだから、俺は言葉を無くして体が硬くなったのを自覚した。だんまりして俯く俺にどうしたんスか?なんて声がかかって、……あぁそっか、昔と違うんだな。とふっと息を吐いた。暴力なんてないんだよな。と思い出す。

「お前ら三人だけか?」
「深海先輩がもうすぐで来ます。」
「そっか、じゃあこの『流星隊』が受け継いでるステージ運び込むぞ。あー鉄虎、一緒に指揮とって。」

お前ら将来これを継いでいくんだからな。と言う言葉は飲み込んだ。遠くない未来だろう、と俺は考える。忌々しい先輩は居ないのだから、平然として黙って俺はさっさと卒業して見返す様にスタントをすればいいのだ。じゃあなー荷物はなー鉄虎体力自信あるよな?俺が4、後から来るだろう奏太が2、鉄虎が2終わったらいったん荷物番、翠と忍が1往復と場所取りで、目安に荷物持ってくぞ。と指示を出しつつ荷物の分配を始める。ここに数字振ってるだろ、これを大きい順に持ってって、向こうで小さい順で組み立てる。そうしたらスムーズだから、と前もって言っておく。重たいし、ゆっくりもってけよ。と声をかけつつ、テキパキと動き出す。
適当に10等分した荷物を翠と忍に持たせて、俺はさっさと荷物を担ぐ。ひとより倍以上荷物の運搬をするんだから、さっさと動かなければ、組み立ても教え込まないといけないのに、スケジュールは立て込んでくるだろう。
最低限の目標だけ作って、荷物を担ぎ上げる。久々の肩の重みを感じながら倉庫を抜けると、奏太がやってきたので、倉庫の中に荷物有るからよろしく2セット。と伝えれば「わかりましたー」とゆるい返事をもらった。俺は気にすることなくそのまま学校を抜けて、目的地公園につく。少量の荷物だった忍と翠のにもつを一番下に敷いて、さっさと往復を進める、距離はあるが後半に行くにつれて荷物は軽くなるので往復の予定が一回分減るだろう。そのまま公園で、組み立て方を簡単に説明して、最後の往復を決める。戻る前に差し入れの飯を買い込んで運搬を行う。休憩も入れさせないとな、とか思考を組み込みながら。最終の荷物を持って倉庫をいったん閉める。誰も居ない職員室に鍵を返却して、学校を出る。真夜中にこんなことしてたら補導の対象だなあ、とか思いつつ欠伸を漏らして公園に入ると、三人でワイワイと組み立てている。
「飯買ってきたぞー全員キリいいところで休憩しろよー。」と声をかけて荷物を置く。置いてる間に一年たちがやってきて、これで最後ですか?とか言われたので、そーだよ。なんて答える。ベンチに座って食えよ。と促して、奏太ように海産物の入ったおにぎりと水を差し出すと本人は喜んであとで食べますーとの声。話ついでに俺はそのまま作業を順番に振っておく。
一之瀬先輩いただきまーす。とチビたちの声がして、そっちに片手をあげて返事をしておく。その間に土台の基礎となる部分を奏太と二人で組み立てる。昔から作り慣れてるので、基礎はあと30分ほどで出来上がるだろう。できあがったら一年と交替して俺は飯でも食うかと考える。
黙々と俺が作業していると一年生が食べ終わったようなので、基礎部分を最後に五人で作り上げれば、わかんないことがあったら聞いてくれと伝えて飯にとりかかる。ツナのサンドイッチをさっさと胃に収めて作業に戻る。そのまま朝までみんなで作業をする。そんな間にちょいちょいと休息を入れておく。飲みものを買って全員に配って何度目かの休憩に入る。奏太がうつらうつらしてるので、そのまま寝かせる方向にするか。と思考していると、翠に疑問を投げ込まれた。

「一之瀬先輩。ってどうしてここに居続けるんですか?」
「ん?俺?」

まぁお前らにはそういう疑問だよな。今年になってから学校に帰ってきて5人でと始めたところに俺の復帰だもんな。いきなり追加!って言われてもほんのわずかな時間で追加戦士って、どこの特撮にもないもんな。あぁ俺の話な。俺、千秋にいろいろ救われてたんだよな。んで、あいつのなりたいものの一番近道がうちに……あぁ、うちの家、スタントとか殺陣とかやってる家だからさ……あるからレッスンしてもらったり仕事まわしてもらったりとか、今話をしてるんだけどさ。今まで手をひいてくれてたのが千秋だったから、まぁ助けたいって思ってるのかもな。今の千秋には内緒な。お前ら。まぁ、身内は全員助けたいと思ってるから、お前らも言ってくるといいよ。と伝えて俺はちょっと照れくさくなって逃げるように席を立つ。一年生たちの方を振り返るのはできなかったが、なんだかぽつぽつと話をしているようだ。傷だらけだった俺を引っ張って前を歩いてたのは千秋だったんだよな。その先をもっと三毛縞が歩いてたんだけどさ。
ふと時計を見ると朝7時。もうちょっと頑張ったらある程度の終わりが見えるので、最終ゲネもやっておきたいし、基礎でやめておいたほうがいいだろう。空模様を見たら雲もない空模様で、ブルーシート持ってきたけど必要なかったかなぁ。このあたりで切り上げて、一旦練習するかと話を頭を切り替える。最低限のステージできたら一旦仮眠。それから、仮眠後に柔軟と軽くのゲネプロを一度。んで休憩して本番と伝えると作業速度が上がった。睡眠の力まじぱねえ。30分作業が10分で終わった…。仮眠時間追加の旨を伝えると、使う予定のなかったブルーシートを厚目に畳んで敷き布団代わりに毛布にくるまってトリオと奏太が寝ている。周りが仮眠をとってる間に最終確認用の支度とスケジュールを組み直す。ゲネやりたいけど諦めるか。時間を逆算するためにベンチに腰掛け膝上で書き物をする。小さなスピーカーを持って来ているのでわずかに聞こえるレベルでそれを鳴らして、眠くなったら一度踊ろうと決める。全員寝て朝でしたとか笑えないもんな。ちびたちと奏太を仮眠させてる間に、ちらほらと人の気配が増えてきたので、早いが起きろよ。と全員の毛布を剥いでいく。
始まる前に燃料補給しにいくかと思考して空模様を考えて、空を見上げていると「あっ転校生殿〜」と忍の声を聴いた。視線を向けると、大きく手を振って転校生が駆け寄ってきた。

「奇跡的な梅雨晴れで思った以上にお客さんが集まってきたでござる!」

みんなどうせ雨だと思って予定をいれてなかったのでござろい、棚からぼた餅でござる。嬉しそうにしてるな、とか思ってると、忍がそのまま「ぼた餅美味しい。ぼた餅食べたいでござる」とか言い出したので、鉄虎と一緒に忍を叩き起こす。ビンタ!とか言い出したので、せめてゆすってやれ!!と思ったよりも大きな声が出た。声を聞いて目をかっぴらいた忍は大きく首を振り、「暴力反対でござる!一之瀬殿の声で目が覚めたでござる!」と主張する。まぁ、みんな徹夜だもんな。一旦寝るとだるくなるだろうしなぁ。と考える#いやいや寝たら体が冷えて動きが悪くなる。

「ふあぁふ、ちょっとしか仮眠取れなかったしね、深海先輩なんかたったまま寝てるよ?」

あーもう五奇人はなんでろくなやつがいねぇんだと思いながらも、奏太を揺する。ぷかぷか言いながらなので、俺は呆れる。本番は起きろよ、と告げてとりあえず座らせる。転校生が、差し入れです。と手に持っていた袋を顔の高さまで持ち上げた。

「忍と翠とも転校生に礼言って飯食っとけ、食い終わったら1日目のヒーローショーはじめっぞ。転校生俺も一個くれ!鉄虎、打ち合わせだ。」

転校生からおにぎりを3つもらった鉄虎が俺のもとにかけてくる。地面に指でステージの配置を雑に書いて、想定されてた千秋の動線の説明をする。多少身長のからみで見映えが悪くなるので俺がフォローかけるから安心しろと頭に置いてから、前説の説明をする。ほら千秋の写真も置いとくから、祈っとけよ、とか言ったが故に後で、千秋死亡みたいな感じで拝んだりすることもあったが、周りの団結は高まってるらしいし千秋もいないので翠か元気そうでよかった。とりあえず俺は今日の成功のために暗躍するために鉄虎のために前説に繰り出すのための原稿を急いで書き出しはじめるのであった。ちなみに全部ルビつき。ルビ打つのが一苦労だっての。っていうか、明日も作業だよな。とか思いつつ転校生とにぎやかにやってるかしましい一年を視界にいれると、昔と違う『流星隊』が見えて俺はひっそり息を吐く。そんな様子をみてか鉄虎が駆け寄ってきた。

「一之瀬先輩、雨雲なんて吹き飛ばして、梅雨を終わらせる勢いで張り切るッスよ〜。」

そしたら明日からもきっと、ずっと、良い天気ッスよね?といわれたので、冷静に携帯を開いて雨なのを確認してから「まぁ、『隊長』が言うんならそうじゃね?」と返してなんか本人が喜んでるので良いだろう。ちょっと笑顔がみれて俺もやる気を出そうと目の前の仕事にかかるので鉄虎を追い払った。
鉄虎にカンペ仕込みの前説が始まる。もう俺もルビ打つのが面倒になって台本というよりも、箇条書きのスケジュールみたいになった。
俺の名乗りを終えて、他の後ろの気配を感じていると、奏太も終わったので、続く工向上にシフトしようとしたら俺の耳に音が入った。

「そして、俺、参上!」

お前は電車乗りの覆面ライダーか!という突っ込みを飲み込んで、ちらりと後ろを振り替えると、防水加工された赤を纏う千秋がいた。おいこら、お前病人だろ!とか思うよりも早くに隊長代理が隊長につっかかっている。「馬鹿を言え!仲間たちが全力で戦っているのに、俺だけ寝てられるか!ふははは、おまえたちだけに格好はつけさせんぞ!」高笑いするので、ちょっといらっとしてえ落とす構えになろうとしたら奏太に止められた。そうだな、今ショー真っ最中だもんな。終わったらやる。と呟くと忍が物騒でござるな。と感想を漏らした。あの特撮馬鹿は........もういいやしらん。勝手に口上を唱え初めるので、俺は呆れながら小さく首をふった。

「あ〜も〜、このひとは。なんでそう無茶ばっかりするんスか、フラフラしてるッスよ〜」
「千秋、お前ライブ終わったら説教だからな。」

冷ややかな目で俺がみると、千秋はぴしりと姿勢を正した。はい、正解です。もう鉄虎もあきれて笑ってるし、お前将来のことほんと考えてるの!?馬鹿なの?いや、あいつバカだった。鉄虎と千秋が話してるのを諦めて舵切りをそれなりに振るう。笑って鉄虎の背中を叩いてるのはいいが、なんか俺カッコいいこと言ってる!みたいなかんじでこっちをみてくるな。

「ホワイト!」
「うっせぇ、ヒーローショーはじめっぞ。」
「ありがとう、ブラックたちはおまえのおかげで動けている」
「うっせ!早く進めろ!おまえがいないせいで馬力落ちてんだからいい加減に薬飲ますぞこの野郎!ショーまっただ中で眠らせっぞ!!!!」

俺の怒声と一番最後の口上がだだっかぶりで、しまらねえ感じになった。おい、この馬鹿だれか学校にでも連れて帰ってくれ。頼む。




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