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俺は雨の降る中で、鉄虎の声を聴いた。音を頼りに走っていくと、奏太が鉄虎と笑い合っていた。いや、正確にいうと落ち込む鉄虎に奏太が慰めてるようにも見えるが、突っ込んでいくのか考えあぐねる。雨の音で二人の会話が何を言ってるかわからない。でもなんとなくは想像できるが、現実は多少誤差はあると思う。かろうじて聞こえてきたのはうみぶどう。という奏太の声だった。悩んでても仕方ないか、と判断して俺はそっと鉄虎の方に向かう。

「なり〜、どうしましたー?」
「鉄虎が飛び出したのを見たから見に来たんだけど、奏太が居るなら安心した。」
「すいませんっす。俺勝手に飛び出して」

千秋から大体聞いたけど、あいつが悪い。俺がだいぶ叱っといたけど。というと、うーみゅと言葉を濁した。とりあえずユニット衣装のままでいるのは問題があるので、一旦軒下に移動しようと提案する。というか俺が二人をブン掴んで軒下に押し込む。

「てとら『りょうて』をひろげてますね〜、みずあびですか?きもちいいですよね、ぼくも『あめ』がすきです〜」

有もしませんか?と雨の中に奏太が飛び出す。あとで奏太も説教と決めて、俺はそのまましたいようにさせる。噴水よりか冷えにくいといいんだけどなと思いながらも、夏めいてきてるので大丈夫だろうかと、諦める。本人は楽しそうなので俺は、その光景を見ながら、はぁとため息。忍のお願いはしばらくきいてやらないが鉄虎と翠のは盛大に聞いてやろう。と誓う。

「カサもささずに何してるのかと思ったら、雨を浴びてたんスね、ちっちゃい子どもみたいッスね。」

ていうか前から思ってたんスけど、深海先輩は肌が乾燥すると死んじゃうんスか?気が付くと噴水とかで水浴びしてるッスよね〜?『みず』は『いのち』ですから!それよりも、ぼくのことは『ぶるう』とよばないと『たいちょう』におこられますよ?
鉄虎をなだめながら、そッすね、隊長は変なところにこだわるッス、正直ついていけないッスよ、なんだろうあの特撮番組みたいなノリには。俺。ほんとは対象の所属してる『紅月』に入りたかったんスよ。でもあの『ユニット』えらく審査が厳しくって。俺は書類審査に落ちちゃって、『紅月』には入れなったッス。なのでまぁ仕方なく『流星隊』に身を置いてるっスけど。『正義の味方』集団っていうから、もっとこう男らしい……弱気を助け強気をくじく、勇ましい『ユニット』なのかなと思ってたんスよ。
鉄虎の声を聴きながら、一年前を思いはせる。いや、うん、もっと女々しいよね。妙にうんうん頷き、俺もこんなユニットに入るんじゃなかったと思ったこともあったので、同意はするが賛同はしない。

「幻滅ッス、期待して損したッスよ。深海先輩は顔出さないから知らないでしょうけど、今日もずっと特撮番組を見てただけなんスよ。」
「あぁ……あれな。逃げてもおかしくはないわなぁ。」
「外に飛び出しても、雨に濡れて風邪ひくだけでしょうけど。」

じっとしてらんなかったッス。無駄な時間を過ごすだけなんて我慢できないッス。俺どうしたらいいんスかね?今kらでも、他の『ユニット』に入りなおすべきッスかね?もっと俺の理想とする『男の中の男』に近づけるような、有意義な『ユニット』がほかにあるはずッス。『ごっご遊び』ばっかりしてる『流星隊』よりも、俺にふさわしい場所があるはずッスよ。
なんて言いつつ鉄虎が悩むも、奏多はクスクス笑てるし、俺はもう呆れるしかない。二年前の俺はあんなかんじだったのかな、とかなんかしみじみと思う。去年はふてくされてた餓鬼だったよなぁ。としみじみ一人鉄虎に重ねる。それでも鉄虎は奏太にどうして『流星隊』に入ったのかと問いかけている。

「『流星隊』は、強引に勧誘によって隊長に無理やりなk間に引き入れた面子の寄せ集めっすからね。団結しろ、チームワークを発揮しろと言われても無理な相談ッス」

ぷんすか、と言わんばかりの鉄虎に、奏多が呼びかける。俺は視線を向けて
ぼくは、あまり『じぶん』のことには『きょうみ』がないです。ぼくの『まわり』をただよう、『きれい』なもの……『とうとい』ものをながめているだけ。奏太の言葉に、鉄虎がえっと?と首を傾げる。俺は頬杖を突きながら、二人の光景を眺める。ほぼほぼ雨にあたる部分なので俺もそっちに寄りたくはない。

「つなり『てとら』と『たいちょう』は『にたものどうし』だということです。『なかよく』できるはずですよ。きっと、ぷかぷか。」

翠にも似てるし、鉄虎にも似てる。んでもって忍にも似てるよな。と思いつつ、グラウンドの真ん中に帰ろうとする彼方を俺は引き留める。
まだ鉄虎のお話が終わってません。そうですかー?もう他人に興味なさすぎるよ。お前は。なりがいるからですねー。うん、かみ合ってない。

「俺と隊長が似てるというご意見には首を傾げるッスけど」
「うん、俺も似てると思うよ。今の千秋にはね。」
「げっ」

その嫌そうな顔はやめときなさい。あれは深く付き合ってくるともっといいところが見えてくるよ。と背中を叩く。しばらく考えた鉄虎は「いつだって隊長に悪気がないのは知ってるッス。一生懸命、『正義の味方』になるために努力してるのも。俺戻って隊長に逃げだしたことを謝るッスよ。そんで、もうちょい付き合ってみるッス。いくら頭出kんが得ても仕方ないッスよね、全身でぶつかってみるッス。」
そうしたら、梅雨みたいな俺の心も晴れていいお天気になるッスかね?と考える鉄虎に俺は悩み終わったか?と問いかければ、そうっすね、と体当たりするっすとまだ完全には割り切れてなさそうなのだが、一旦帰るかー。ほら、奏太も、鉄虎もAV室に行くぞー。と二人の手を取る。奏太は梅雨の間にたくさん雨を浴びたい。と言うが、いい加減にしないと千秋に怒られっぞ。と言うと、観念したように諦めた。

こっからどうやって雨をよけていくかと考えると、遠くから忍が駆けてきた。

「鉄虎くん〜!一之瀬殿!」
「仙石くん!どうしたんスか、仙石くんも耐えられなくなって逃げ出してきたんスか?」
「失敬な、何事も耐え忍んでこそ忍者でござる〜!」

そんなことより大変でござるよ!隊長殿がぶっ倒れてしまったでござる!忍の言葉に俺ははぁ!?と素っ頓狂な言葉を上げる。倒れた?何が?千秋が?え?あいつ、なに人間だったの!?いろいろ言いたかったが言葉がうまく出ない。

「ほぇ?どういうことッスか?ついに翠くんあたりが我慢できずにブン殴っちゃったんスか〜?」
「鉄虎くんのアホ〜!」
「なわけないだろ。」

俺はだめだこりゃ。と首を横に振る。俺の視界の端っこで忍が鉄虎に手裏剣を突きつけるのを見逃さなかった。手裏剣を突きつけてから、忍が呆れてため息を吐いた。誰のせいで体調が倒れたと思っているでござる、じとりと忍が鉄虎を見た。忍が鉄虎に顔を寄せて、鉄虎くんのせいでござろう、反省するでござる!ぎろりと睨むがそこまで威力はなさそうだ。

「えっ?俺のせいって、どういうことッスか?」
「わからんでござるか?隊長殿は鉄虎くんをさがして雨の中をさまよって風を引いてしまったのでござる。」
「ええっ、あの人も風邪とかひくんスね?」

あいつも人の子だし、そりゃあ風邪ひくだろう。っていうか、機器を直せって俺言ったよな?と眉間にそっと皺が入る。そうやって思い馳せれば『馬鹿は風邪ひかない』という俗説が証明された歴史的瞬間でござる!と胸を叩く忍に俺も頭を抱えた。隊長殿ここんとこ徹夜続きだったみたいで『はな』から体調がすぐれ鳴ったご様子。さらに雨に打たれたのも手伝ってダウンしてしまったのでござる!
あのバカ。と俺は小さく零す。俺の仕事をことごとく増やしやがって。ぶつくさいいたいのを飲み込んで、ため息を吐く。これからのスケジュールどうなってたんだろうか、俺が最近まともに仕事してなかったのでスケジュールは千秋が握ってたはずだと記憶している。これからのスケジュールを思い浮かべながら参考書のスケジュールも考え直さねばらない。うん試験が来週だったら俺『流星隊』すら見捨ててたと思うけど。

「とりあえず、千秋んとこ行くぞ。」
「うふふ、『かぜ』ですか?『かぜ』の『よぼう』には、『おさかな』です〜」
「わかった、うんうん。DHAがいいんだよな。」
「深海殿はなぜにずぶ濡れでござる?いやまぁ。深海殿はいつも『そう』でござるけど、水も滴るいい男でござるなー」

これ以上風邪ひき増やさないためにも帰るぞー。と声をかけてやると、忍が奏太と話をして、「深海殿もついでに同伴してほしいでござる。隊長殿が倒れた今『流星隊』を纏めるのは最年長の深海殿の役目であるからして!」「え〜、そういうのは『すき』じゃないです。でも、まぁ、『たいちょう』のことが『しんぱい』ですね?」ゆるゆると奏太がいきましょーと言うので、俺は奏太の手をつないで、千秋はいまどうしてる?と問いかけると、翠くんと転校生殿が看病しておられるが、わりと目を離せないというか!ぶっちゃけ危篤状態でござるよ!と言い出すので、俺は「ばっ!おい!悠長にしてれねーじゃねえかよ!」と奏太の手を掴んで鉄虎の背中を叩いて、走り出すのだった。




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