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ほらーあっくんも撮って撮って、とカメラを渡された。なにを撮ってもいい、と言われたが何を撮影するべきか、考える。俺と同じ視線にあわしといたらいっか、とハンディカムの液晶画面を俺の目線に合わせる。んーと横にそらすと、あんずが真面目に裁縫を施している。神崎たちを映すと、乙狩と神崎が振りのおさらいをしている。夏目は腕を組みながら静観している。なにすればいいんだよ。と思いつつ、俺は本来だったら家でゴロゴロしてるはずなのになぁ。とぼんやり思う。

「あっ!もう撮らなくていいの!一之瀬くん!」
「あーいや、お前もクラスの一員じゃん。黙って撮られといて」
「でも……」
「じゃあ、俺と一緒に映っとくか。はいピース。」

ハンディカムを反対側に持って、俺はあんずの横に腰を下ろす。こうしてたら俺も撮らなくて済むし、あんずも映る一石二鳥じゃん。って説得する。俺も映りたくないのになんか持たされてるし、と付け足しつつ、手元おろそかにしてたら刺すぞ。と俺から意識を向ける。定点カメラ俺。部屋の一角から全員を撮ってます。のスタイルで俺は部屋の角で全員を映す。いや、うん千秋より扱いやすくていいよ、なんて俺はつぶやく。俺の心は漏れてたようで隣からクスクス笑われた。だらーっとしてたら部屋の中央で模造紙を広げて、寝ころびながら明星が何か書いている。こっちはホッケ〜でねー、ウッキ〜であっくんでーと言いつつ楽しそうになにかしているのが見える。カメラでその光景を収めていると、乙狩が気が付いてこちらに手を招いてくるので、俺はそっちに寄って模造紙を覗き込む。どうした?とか聞いたら、ポスター作製と言われてへー。と返事をする。

「お前も描かないか?」
「絵心そんなないけど、いっそ全員のサインでいいんでね?」

それは必要な情報がなさすぎるんではないのか?…んだろうね。まあ、明星が楽しそうに描いてるからいいじゃん。手続き的なのは全部やっておくから好きなのかいといてー。と俺は近くの机に腰かけて白紙の紙に俺はがりがりと書類を書き始める。ぱっぱか書ききると、完成したらこの書類と一緒に出しに行けよ。と渡すと、案外一之瀬くんも乗り気なんだね。とあんずに言われて、そう見えてるんならそうじゃね。と適当に返事をしておく。

「ねーねーあっくんあっくん描いて描いて!」
「だーもううっとおしい!引っ付くな!明星!」
「あっくんも描こうよ!」
「生徒会用の掲示用書類は書いたから勘弁しろ!」

えー文字じゃなくって!と言ってくる明星をべりっと引きはがす。わかったわかった描けばいいんだろ描けば!!と俺は予備の白紙の紙に、何書けばいいの?と聞かれるので、これ!と明星に言われる。大吉。と言われるので俺は文字通りに、『だいきち』とひらがなで筆文字風に、書いてやる。あーもう!あっくんの馬鹿!とぽかぽか叩かれる。本気じゃないのでそんなに痛くない。そんなもん俺にイラストを求めるんじゃない!俺は『流星隊』でポスター描いて散々笑っただろお前!もウ、と俺からペンを取って夏目がさらさらと書いていくので、それをカメラに収めると、そんなに撮るもんじゃなイと手で覆われた。そりゃそうだな、俺もそうだもんな。

「おぉ、かっこいい〜!ザキさん、俺も描いて描いて!お礼にザキさんとあっくんを描いてあげる〜!」
「ふふ、良いぞ……これでよろしいか明星殿」
「神崎も上手いよなぁ。」
「その分一之瀬殿は身が軽いではないか」

うーん。仕事で五階から紐なしジャンプしたい?と問いかけると、それは……と濁される。うん、知ってる。うちの家がおかしいだけ。それな。アイドルには必要だけどさー、バラエティにはお笑いとしてなっちゃうしなぁ、と思考する。本来はアクションやスタント志望なので全然かまわないんだけど。

「みんな〜、ザキさんに絵を描いてもらっちゃった!」
「おーおーよかったな、よかったな。わかったから、飛びついてくんな。遊木にやっとけ、同じユニットだろ?」
「えぇ!?僕」

ギャンギャン俺たちでやってると、時間は暮れていく。思い出したようにレッスンしたりポスターやらをやっていると、日が沈んできたから終わりにしようと、氷鷹が言う。そのまま明星は鼻歌交じりで振りの練習をしてるので、俺はおい!と肩を叩く。おわっ!?と声を上げて、飛び上がる。もう使用時間が過ぎちゃった?と俺に問いかけてくるので、「いや、そろそろ時間だし解散するぞ。」と言うと、「そうなの?ん〜帰るの面倒だなぁ、ポスターも結構まだ中途半端な状態だし。」と考えてる明星に、大人しく帰ろうと言い聞かせようとしたが、明星がお泊り会やっちゃおうよ!と声を上げた。

「まったく……次の予約は入っていないみたいだが、泊まるための準備をしていない、思いつきで発言するのはお前の悪い癖だぞ」
「布団なら俺が運んできてやろう」

影片が弓道場に泊まったときに布団を運んだことがある。俺は力があるし、人数分の布団を運ぶことなど造作ない。と乙狩が言い出した。うん、ちょっと待て。明星って、千秋に似てるよね、こういうところ。親を見て育つというか、千秋は親じゃないはずなんだけどなぁ。うんうんうなりながら、どうにか断る方向を探す。そんな思考を巡らせている間にも「さすがオッちゃん、頼りになる〜」と乙狩の背中をバシバシ叩く。

「バルくん。レッスンして、汗をかいちゃったシ、家に着替えを取りに戻りたいんだけド」
「あ、俺もー荷物取りに帰りたい―」
「えーあっくん、部室に着替えおいてるじゃん!!」

お前!俺の帰りたい思いを汲んで……くれないわな。とかいいつつお前は自宅に帰るんだろうが。俺はがっくり膝から崩れ落ちた。あんずがあわてて俺の肩を叩いてくれるのが、優しさだった。うん。知ってる。俺、今日は腹括るよ。うん。家帰れないの知ってる。あきらめてる。

「俺の帰れないのはもういいけど、とりあえず、あんずは帰りなよ。女の子だし、ここに残っててもお前はいいっていうかもしれないけどな。」
「あんずだけ返して俺たちだけお楽しみはずるいもん、大丈夫!あんずは俺の隣で寝ればいいよ〜」
「いいよじゃない!明星!」
「ぜんぜん大丈夫じゃないよ明星くん!あんずちゃんは女の子なんだから!同じ部屋で寝泊まりなんて絶対に駄目!」

そんなことして見ろ、年上の俺が怒られるの!いいから!明星か誰かついでに送ってけ!氷鷹泊まりの書類出してあんず抜きで、乙狩俺と一緒に布団運び込むぞ、夏目お前服取りに戻るなら明星と一緒に行けよ!逃げるなんて許さねえ!んで神崎おめえどうする?と俺が号令舵きりを行うのだった。




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