2e





AV室に忍び込むと分かりやすいところに衣装が置かれていた。これを着るといいんだぞお。とメモまで丁寧においている。メモを握りつぶしてゴミ箱に投げ捨てて、言われた服を持ち上げる。大きい目の服と、傍らに縁日で売られているようなお面が一枚。そちらには付箋で”登良くんの顔を知られないようにするため着用してほしい”と言われていた。今後の進路がどうであれ、つけておいたほうがのいいだろう。登良は、ここでお面をつけなかったからどうなるかはわからない。不明な人間だからこうするしかない。と、諦めて仮面をつける。ここまで用意がされていたら、もう面倒な事を回避する方向にしていったほうだろうと思考する。ライブに出る。演目の時間を間に合わせる、神様が来たら逃げる。それだけに集中した方がいいだろう。

「何度か見せられた動画が役に立つなんて…。」

やだやだ。と首を振って衣装の着替えを終える。今悩んでも仕方ないので、さっさとライブ会場に向かった方がいいだろう。思ったよりも体にフィットするサイズの衣装で、舞台袖に入れば、おい。と誰かに声をかけられて登良はびくりと飛び上がった。

「お前はどこの生徒だ?」
「えっと、俺は流星…隊です。」
「はやく舞台にあがれ。時間は始まっている。」
「あ、はい!」

赤の他人だからとつまみ出されることもないようで、安心した。そろりそろりと舞台袖から顔を出すと、それを察知した観客の声援が一気に増えた。
『かみさま』」が来るまで持たす、それだけで『かみさま』のお願いは叶うんだもの。そう言い聞かせて、背中を伸ばす。兄が高校に遊学してすぐに教えてくれたこと、がこんなにも役に立っているなんて思いたくもないが、やkにたっているので、人生が何が必要なのかはよくわからない。
音源がかかれば一発で動きは時mるのだ。練習もなにもない一発本番だ。
特殊効果がどんとけたたましく鳴った。音の大きさに震えて、一種にして振りも、音もすべてきこえなくなって、どうしようと思考を振るう。しっかり耳を澄ませば、音が聞こえてくる。その音にあわせて、声を載せると観客の声が反応して、大きな声になって帰ってくる。

「お待たせしましたっ!続きも行きます!」

そうして二曲ほど一人で奮闘していると、舞台袖から所属を聞いてきた人が顔を出した。はやく終われと言わんばかりに口が動いてはいるがよく見えないふりする。相手が出てくるまではパフォーマンスの時間だと登良は思ったからだ。袖は見えれど、見えない振りをしていためか、しびれを切らしたのか、彼らは出てきた。

「どけ、貴様の時間は終わりだ。」
「でも、まだ人が。」
「ライブの規定だ、つべこべいうな。」

そういいながら、その人の隣にたっていた赤い髪の男は登良を見て、のそのそと舞台の端に移動させようとした時。雪崩れるように、深海と知らない人が入ってきた。これが、兄の言っていた人だというのが一見にしてよくわかるのは、それぞれ赤と青の同じ形の衣装を来ているからだ。赤を着た人が、所属を聞いた男にあれやこれやと話をしている。どうしようと視線をさ迷わせると、登良のとなりに深海がやってきた。

「みけじまのすけっとですね。いまのあいだににげなさい。」
「そうさせていただきます」
「きみはどこに行こうとしているのだ!」
「えっ!?」

今逃げようとしてました。とは言いにくい。深海が「ちあき、だめですよ。」と促しているが、お前もヒーローだから!と登良を舞台に残そうとする。嬉しくはないがここで抵抗しても、いいことはないだろうだけれども、主張はちゃんとしておくに越したことはない。
えっと、俺は三毛縞さんに。そこで言葉は切られて、登良と目線に合わせてから抱き締められた。
小さな俺たちのヒーローよ!俺は流星レッドだ!俺たちの場所をまもってくれてありがとう!君の名前は何だ?そんな強い言葉によって、登良は動きを止める。この場で、適したものなんて、改編でしかない。

「流星2号。」
「そうか、2号!ライダー派だったか。それでも、ありがとう!俺たちと一緒に後ろで踊ろう。」

きらきらとした目が登良を見る。どこか子どもみたいな目をしているけれど、夢がいっぱいつまっている瞳だと悟る。ちらりと聞いた話だと、結構苦労していたときいたことがあったと記憶している。それでも、諦めずにずっといたのだろうか。そう思うと、登良は強く出ることもできずに、終わるまでですよ。と念を押して、超突貫工事の三人ユニットができあがった。
赤ジャケットを中心に登良に会わせて屈むのだから、人がいいというべきなのか、悩みが生じたが、そんな悩みも一瞬にして吹き飛ばされた。どこかに飛ぶ前に、目の前の歌も躍りもついていくのに必死になったからだ。2つ年上というだけで、これだけも違うのかとおもいしらされる。
見ているだけである程度スキルをつけることはできるけれども、これは違う。肌で感じる空気に、違うものがまざっている気がする。
兄が楽しんでいる理由がわかった気がする。小器用にこなす兄だからっこそ、世界中をt美回っているのかとも思えた。兄が好きだからじゃない、どちらかというと嫌いだ。度っ小に行っても、兄の名前が耳に入っているところばかりで、日とあ無意識に兄と比べているのだ。そういうのが嫌でたまらなかった。だから違う道を探しても、兄はその足で踏み込んで慣らしていくのだ。だから兄というものは嫌いだった。普通ではない特異性を孕んでいる兄がずっと嫌いだった。

「どうした、2号。声が浮いてないぞ?俺たちは今アイドルだ。笑え。」
「アイドル。ですか。」
「あぁ、そうだぞ。ここに立ってるんだ。それ以外の理由はない。」

全く疑う要素も愛その限度に驚きを隠せない。けれども、こうして歌うのが楽しいと思うと同時に難しいと思ってしまう。けれど、こお目の前に広がるサイリウムの光が切れいいで、目から焼きついて離れなさそうだ。なんて思ってしまう。終わらないでと思っても、終わりが来てしまった。
はけるぞ、ブルー。2号。と言われて、登良は我に帰った、このまま袖に帰れば、生徒でないとばれてしまう。ここまでやっておいて、そこの目的を思い出して、そのまま人混みに混ざるようにして姿を消した。後ろで赤いジャケットの人も登良を、呼ぶけど返事をするつもりはない。

「でも、後々探しても流星2号に似た生徒すらいなかったんスよね。」
「へぇ。そうなんだね。」

適当なことで流しながら登良は二人の会話に耳を澄ませる。
後にも先にも、流星2号なんて、話題は三毛縞の家ぐらいでしか言わないようになったのだったが、まさかここでみることになるとは。記憶を掘り返して、そのままなかったかのようにして誰なんだろうね。と曖昧に笑っておいた。



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