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教室で昼ご飯を食べてると、翠と鉄虎が一年前の写真を見て、首を傾げていた。その様子が気になったので、声をかけると写真を差し出された。写真の中に写るのは3年の先輩と紫の戦隊ヒーローの仮面を被った少年のような子のいる姿だった。

「ね、親分。この人知らないっスか?一年前の秋ごろの写真みたいなんッスけど。」
「うちに紫も過去にはいたんですけど守沢先輩と比べて、その身長の人しらないんだよね。」

……。それ、俺です。とは言いにくいので、登良はひっそり言葉を飲み込んだ。翠と鉄虎がふたりで頭を抱えてるのを見ながら、登良は何事もなかったかのように自席に戻った。
深海奏汰が幼いころから、三毛縞の家は代表的な信者の家だ。そのためか、よく参ることがあった。兄と手を引かれて出会った『かみさま』というのは何も知らなかった。だからあれやこれやと話をしたり、兄と離れて物事を教え合ったりしていた記憶は登良にはあった。だけれども、いつしかその『かみさま』と会うのも、いつしかなくなっていた。幼馴染、なんていう定義に当てはまるのかは定かではない。ただ、親に言われて、小さなころに色々話した『かみさま』のお願いを叶えるように動くようになっていた。
兄が高校に入って一年としばらくがすぎた頃、色々と忙しいとは聞いていたが、まさかしばらく家に帰ってこなくなって、連絡を取ったらまさか国外にいるとは登良は予想もしていなかった。最近登良も、よく家の仕事もとい、『かみさま』のお願いを叶えるために色々なところに渡っていたりしていてるので、不安定な妹が安定しているし、兄嫌いの登良にも平穏が来ていた。けれども今年一年は仕事がとても多いと登良は思った。噴水を治す、誰かのテストの点数を上げる。働かなくていい環境をつくる、いじめをなくす。暴力で話をつけることもあれば、はたまた暗躍して物事を動かしたりだとか。酷く陰謀めいているような気もするけれども、と登良は考えたが『かみさま』のお願いだからと思考するのを辞めた。
そうして時間を過ごすうちに、兄からまた連絡がやってきた。もしかすると『かみさま』の助けになるかもしれないから。と言って動画のデータが送られてきた。見ておけということなんだろう。どうして嫌いな兄を見なければいけないのかとぶつくさ文句をたれながら、送られた動画を見る。そこにはアイドルとして歌う兄の姿があった。楽しそうに笑ってキラキラと包まれている。
送られた意味を推察する。ただ見せるだけのはずがない。つまり周り回って覚えろと言う事だろうか。無いとは思うが、踊りも歌も覚えておく必要があるかもしれないからと覚えたのがすぐに必要になるとはだれが考えていただろうか。
秋になり、『かみさま』に対してのお願いの数が減ってきていることに気が付いた。だけれども、登良自身が『かみさま』に接触するような機会もない。さて、どうすればいいのだろうかと考えているときに、携帯が鳴った。

「何。忙しいんだけど。」
「登良くん、お願いがあるんだなあ!俺の制服を着て、学院に入ってくれ。」
「はい?」

耳を疑った。どういうことだ?と言う前に、クローゼットの中に俺の夏服があるからそれを着て学院に行ってくれ。登良くんの『かみさま』を助けてやってくれないか。はい?と先ほどと同じトーンで兄に投げ返した。

「制服って体格が違う。」
「下はベルトをしめるし、裾も折ればばれないだろう?」
「頭は正気ですか?」
「きみの『かみさま』が今息絶えようとしている。だから、『かみさま』の願いをかなえるところにいる登良くんにしか頼めないんだなあ。」
「……『かみさま』が?」

兄が死ぬ死なない。の問題だったら見捨てるだろう登良も、『かみさま』の存命に関わるのならば、それは『三毛縞』の家としても、由々しき事態であるのは理解がすぐにできた。

「わかった。部屋入るよ。」
「俺のクローゼットのわかるところに吊るしてるぞお!校内の地図は……」
「前に、噴水作ったから知ってます。じゃ。」

ぷつりと切って、登良は急いで兄の部屋に飛び込んでクローゼットを開くと、登良に丁度良さそうなサイズの制服もちゃんと置かれていた。兄の手際の良さに舌を巻く。はめられたと思うと同時に、頭痛がする。それでも行くしかないか。と思い制服に袖を通して、一気に駆けだす。



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