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ライブの結果としては、すごかったとだけ記載しておこう。因縁らしい『Valkyrie』とのライブ対決にて、奇人の片鱗を目の当りにした。…訂正する、体験した。兄よりも違うベクトルで違った変人だった。ライブが終わって、控室として借りている空き教室に入ると、へろへろのなずながねぎらってはいるけれども、舌がもつれているようにも聞こえた。登良も疲れからか意識が時折もうろうとしているので、我に返っては首を振って意識を取り戻している。

「登良ちゃんもパンを食べるんだぜ!パンパンパーン!」
「光。痛い。」
「ライブは終わったのに、今から元気を出してど〜する。登良も嫌なら言えよ。」

わかったよ。と返事をするが、実際にどうなのかと友也はいぶかしむ。光は光でパンを配るためにあれやこれやと言っているのを聞き流す。登良はよたよたと適当な椅子に腰を掛けて、体中の力を投げた。動きたくない。疲れた。にぎやかな声を聴きながら目線を下に落とす。うつらうつらしていると、肩をたたかれた。

「登良、生きてるか?」
「いま、ねてた、大丈夫。」
「今まで帰ってきたのまで覚えてるか?」

友也の問いにも鈍く答えながら、眠たげな眼をこすって意識をかろうじて取り戻す。疲れたなら一回寝てもいいからな。というけれども、汗をいっぱいかいた後だから風邪をひくかもしれないから、揺れる頭を何とかするように首を振った。

「ほら〜登良ちん、ホットレモン持ってきたぞ。飲め飲め。」
「ありがとう。に〜ちゃん。」
「ほら、蒸しタオルもあるぞ。」
「俺より、創に。」
「人数分持ってきてるから、登良ちん。」

甘い匂いが鼻についていい匂いだと思いつつ、手のひらに広がる熱を堪能する。ゆらゆら揺らして水面を見ていると、お腹がしくしくするという。その原因について考える。…もしかして、俺たち下手だったのかな。なんて少し的外れなことを考えているとだんだん気がめいってきた。もっと頑張るためには。なんて思考を外していると、聴覚が音を一つとらえた。

「あの…『Valkyrie』のこと、聞いちゃっても大丈夫ですか?むかし、に〜ちゃんが所属していた『ユニット』なんですよね?」
「に〜ちゃんも抱き上げられたの…?」
「え?登良ちん、あいつに抱っこされたのか?」

文句言ってくる!と立ち上がろうとするので、されたけど気にしてないのでいいです。ときっぱり言い捨てて、なずなを座らせる。どうせ減らないという登良に対して、そういうところはさっぱりしすぎているぞ。と誰かが言うけれども、減らないしあきらめたらいいと登良は思っているのはおそらく登良の兄が原因なのだろうと友也は判断する。

「オレも気になってた!あいつらなにだったんだっ、ものすごく気持ち悪かったぜ!うまく言えないけど、ぞわぞわした!」
「人間離れしてましたよね。なんだか、無機質っていうか、違和感がありました。とっても冷たくて、でもライブは凄まじかったです。」

創や満の言葉を聞きながら、登良は思考を巡らせる。あれはどこか幻想的でもある演出の魅せ方とも言えるそれは、思い出しても鳥肌が立つ。以前、奇人と呼ばれる人と同じステージに立ったことがあったけれども、あれもあれでどこか異質で、ただ今回のものとまた別の次元だとも登良は感じた。畏怖とも畏敬とも、どちらともとれる根源は恐れだろう。あれの後ろに何を感じたのは何なのか、登良はわからずに首を捻る。

「ちゃんと勝負ができただけ、いつかの『S2』よりはいい結果だったんでしょうけど。ぼく、しばらく悪夢に見ちゃいそうです。」
「でも、たぶんあれって『Valkyrie』の全盛期に比べたら全然真価を発揮してなかった状態だぞ。」
「戦乙女、か。」

戦死者を選ぶもの。死を選別する神。創造主とも彼が自負するステージにも納得はする。あれで、本調子でない、というならば。フルパワーでどうなるのかと思考を巡らせていると、起きているか。なんて声かけられた。

「今からに〜ちゃんが説明するぞ。」
「言いにくいなら、俺は聞きませんが。」
「三人に話するんだ、一人増えても問題ないから。」

それでも、おまえたちにも知ってほしい。その目は穏やかであるけれども、芯を持った赤だった。ある程度の言いにくいことは隠すし、記憶違いがあるかもしれない。もしかすると愚痴のようだとなずなはいうけれど、最悪を考えるのが得意な登良に死角はない。一つ一つじっくりと細分の矛盾を潰せばわかってくることも増えるのだろう。




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