桜を見に行きません。





帰宅して玄関を開けるとそこには兄がいた。無意識に登良の表情が歪んで今しがた開けてきたドアをくぐり抜けようとぐるりと体を回せば、こらどこにいくんだあ?なんて声と共に腹に腕を回されて視界が上に上がった。胸のほどで斑の腕に登良を座らせて、上体にひっつくように足を固定される。抱え上げられたと気がついて、登良身を捻らせて逃げるように暴れるが、兄の手は解放をしてくれない。

「解放を求めます。」
「俺も今日帰ってきてな登良くんもまだ桜を見に行ってないだろ?」
「学院に咲いてるので要りません。行きません」
「つれないことを言うなよ。寂しいだろお?」
「かってにさみしがってください。知りません。」

兄の一つ一つの指を逆関節を決めれども、笑って一蹴してから巨漢は歩き出す。レッスン終わりで疲れてるのに抵抗してもびくりともしない。暴れるほどの余裕もないので

「久しぶりのお兄ちゃんだぞお!」
「うるさいご近所迷惑。」

この間は何も言わずに出ていったから、登良くんは不機嫌さんかな?カラカラ笑いつつ登良を抱えたままの斑はポーチを抜けて、町中を歩き出す。高校一年にもなって抱えられて歩くのは不満である。離せと訴えても笑って返された。暴れても暴れても解放される気配もなくがっくりと頭を落とした。

「桜がきれいないつもの公園に行くぞ登良くん。おやあどうしたかな?」
「もうどうでもいいです。」

カバンの中から汗拭き用のタオルを取り出して、自分の頭に巻いて周りの視線をすべて防いだ。諦めて、掘っておけば時期に解放されるだろうと、登良は推測する。懐かしいものを気に入る節があるので、適当にいしておいたら飽きて放ってくれる、長年の勘ともいえるぐらいなのでさっさと諦めて、その兄の腕に身を任せた。

「登良くん、桜だぞ。」
「結局。家の近所の公園じゃないですか。」
「この辺りで一番きれいに咲いてるのを帰りに見つけたからな!」

そうですか。はいはい。そう返事しつつ、登良はタオルを外すこともしなく兄に体を預けて、体力の回復に勤めていく。しばらくしたら飽くのを知ってるので歩くゆっくりの振動に揺られて夢の扉を開いていった。安らかな寝息が聞こえた頃、斑は嬉しそうに笑いながら自分の腕の中で眠る弟を改めて抱え直してしばらく桜の道を歩いた。

「一緒に歩きたかったんだけどなあ。」

ぽつりと呟いてから、また来年でも一緒に見よう。そう眠る弟に語りかけた。




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