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最近、兄からいろいろな事を教わることがい多い。今後のためなら一人ぐらい覚えておいた方が有利になると言われたのは夏の頃だった。弱小ユニット『Ra*bits』はどうなるかわからないから強みを持っておきたいと言うのが登良#は思う。どう作用がどこに働くかわからないから、周りには言ってはいない。最初の頃に言えば良かったのだが、ずるずると言うタイミングを逃してしまって春まで来てしまった。もうすぐ斑も朔間零も卒業してしまう。師はいなくなり、諸外国の姉妹校問題はすべて登良に振るようにとも言われているのだ。そんな強みとも弱みともなり得るこの勉強は、過去に兄や朔間零が体験した過去事例を教材として、宿題というように企画書やら人の動かし方のレポートなどを作るように言われてきている。最近では採点は厳しく、採点の許容ラインを超えるためにレポートをこなすと日付が軽く超える頃あいになることが増えてきた。暗いところが嫌いな登良の夜はいつも早いのだが、こういう日が増えていく。
そんなこともあってか、わずかな時間でもうとうとすることが増えてきた。はっと意識を取り戻すと、ぐりぐりと目をこする。そうだった移動中だったかと思い出す。もうすぐ降りる駅だぞと言われて、何のだっけ?と思考を巡らせる。に〜ちゃんもだけど、登良も最近寝てること多くないか?と言われて、最近家のやることが多くてと言葉を減らす。兄からは最終の切り札として使うといいと言われていたので、メンバーはもちろんには黙っていることにしている。そうか……と言われて、罪悪感を覚えながらも、窓の外を見る。

「に〜ちゃん、なんかたまに『ぼうっ』として無反応になりますよね。ほんとに兎さんみたい」
「野生動物、とくに草食動物は常に死と隣り合わせだし……無駄に体力を使わないように動かなくてもいいときは動かないんだぜ!」
「おっ、光のくせに頭良さげなことを言ってる」
「友ちゃんが教えてくれたんだぜ〜飼育小屋で兎さんのお世話をしてるときに」

オレは馬鹿だけど、教わったことはなるべく覚えとくようにしてるんだぜ?と胸を張る光を見て、登良はまたうとうとしだす。昨日の課題は時間がかかってほとんど寝てないな、と思い出すと、かっくりと大きく船を漕いで、意識を取り戻した。大丈夫か?といわれて、平気。と答える。着いたら起こすから寝ててもいいぞ。と言われて、カバンから飴を一つ取り出して、口の中になげこむ。ぼうっとしてると、登良ちんは具合が悪いのかとそっとなずなに耳打ちをされる。最近兄が、いろいろ教えてくれるのでそれを聞いてたら……と素直に打ち明けると、斑ちんの教え込み?と疑問をもったふうに言われる。覚えておいて損はないって言ってたから、と言葉少なめに言うと無理すんなよ。と宥められる、でもに〜ちゃんがいなくなったら、友也が大変だから俺が覚えて助けたい。と言うと、いい子だな。と言って頭を撫でられる。眠たかったら起こすからな。と言われて、ん。と返事を一つだけ溢して、スマホのアラームを到着一分前にセットして、うつらうつらしながら、耳だけを働かせる。

「電車ではしゃぐの子どもっぽいし!」
「べつに子どもっぽくていいと思うんだけどな、お前たちは。急いで大人になることないよ、まだまだ『Ra*bits』はそれがおおきな売りだしさ。」

今後はどうやって子どもっぽさと等価値なかわいさを維持しつつ他の要素を手に入れられるかが重要だ。あざとく狙って、かわいこぶってるって思われたら反感を買いそうだしな。ある程度は狙ってやるべきだと思いますけど……に〜ちゃん、結構外面というか周りからの評価を気にしますよね?アイドルには必要な思考だろ〜身内だけで盛り上がっても仕方ないし、これまではおれがそういうことを気にして考えてたけど、今後は卒業して難しくなっちゃうから、お前らが自分で『Ra*bits』をどうしていくか考えるんだぞ?もちろん相談には乗るから。
流れていく雑談を聞きながしていると、ふと頭のなかで一昨日の課題の答を思い出して、はっと目を開く。いそいそと鞄から紙を引っ張り出して紙に書きなぐっていると。ふとなずなの声を拾った。
でっかくなったなぁおまえら。書いてた手をぴたりと止めると、頭のなかの兄が裸足で駆け出していった。あの兄は何を考えて俺に教えているのだろうか。俺に後継者にでもなれと言わんばかりの仕込みではないか、と今更ながら頭を走る。そういえば姉妹校はよそに吸収されたと言っていたのに、なんで?と疑問が湧いた。確か、あのとき選んだのは登良だが、万が一もしも。が来るのだろうか。この持ったスキルはつかないのではないのか。そう思考に至った。持っていても便利かもしれない。でも使う日がないかもしれない。そういうことなのだろう。
そう思考に至ってあのくそ兄貴と呟けば、持っていたシャーペンの芯がぼきりと折れた。なんでだったのだろうか、何で俺はこうして兄の引き継ぎを受けているのかと考えた。ぐるぐる回れど答えなんて浮かび上がらず、持っていた紙を見つめる。俺だからできると渡された紙は兄の手書きの外国語が連なっている。それをじっと見つめながら、ゆるりと首を振る。

「登良ちゃん?難しい顔して何かあったのか?」
「あ、……ううん。なんでもない。」

そう返事して、頭のなかはどうして、こうして考えているのだろうかということだった。後継者。と思いつつ、あの兄のことだから手取り足とり教えてくれるのだろうとは思うし、損はないと思うのだがどうも気分が憂鬱だ。そろそろ真面目にしっかり寝る日を作らねばと考えつつ登良は窓の外をうかがう。確か今晩は心理学とか言っていた気がするが、何をしろって言うんだ。と登良は一人悪態をついた。



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