6e






合宿が終わって、ライブがあるまでに兄と顔を合わせば、ひたすら練習が!と言われたので、ライブまで家にいる時間を減らしたり、妹の部屋に逃げたりして顔を合わす事を回避して、登良は当日、ライブが始まる直前まで逃げ回っていた。どこかで練習があると聞けばそこに参加をして精度を上げていったり、細かな裏方作業を進んで行っていった。紅朗から転校生と共に手芸を教わったり、作業を行っていたりした。
ライブ当日、依頼先の行為で自治体の行為でライブ会場が寺に変更になった。兄がカラカラ笑ってる様子なので、恐らくこの状況もある程度読んでいたのかもしれないと考える。会場が移動したこともあって、客の誘導案内、タイムスケジュールなどの配布などの雑務をかって出たら兄が現れた。客の前なので登良は表情を崩さない様になんとか表情筋を保たせた。兄を視界に入れない様にしていたら、集中したようで颯馬に肩を叩かれて時間だというのを思い出して、二人で慌てて会場に戻ればそれなりに集合していた。

「遅くなりました。」
「あぁ。大丈夫だ。」
「にゃんにゃん、ぴぃ〜す!!」
「へっ!?」

いきなり言われてに向かって指示通りにするとぱしゃりとシャッター音がしてありがと!!なんて言いつつスバルが抱きついた。…創に後で何と説明しようと困惑する。下級生をからかうなと神崎が窘めた。そういう様子を見て英知が微笑ましいねっていいつつ僕ともとろうか、と登良と二人で映る。三年生とこうして移るだなんて、怖い。今度ネットに上がったら公開処刑されるのではないかと思案してると、スバルが大丈夫だよ。と安心させる。色々考えてしまう癖があるのを創を通して知られているようだ。ふと北斗を視界に入れると、英智に何か話しかけているのが見えた。
「今回の生徒会長は、やけに素っ頓狂だな。何か、これまでに抱いていた印象と全然違うので戸惑う」
北斗の言に記憶を振り返ってみたら茶化しや単に遊んでいるとも言って取れるような振る舞いは多々見受けられた。そんな北斗の返答として、英知は「今回は半ばオフのつもりだからね。『fine』と関係ない単なる助っ人仕事。もちろん舞台は夢ノ咲学院代表のトップアイドルとして完璧にこなすつもりだけど。立場やしがらみを取っ払って単なる個人として、普通の高校生として青春を満喫しているのさ。」そう軽快にいってのけるのだが、普通の高校生はまずアイドル科を受けない。そういう所から指摘をするべきなのだろうかと考えてしまった。が、口に出すとややこしそうなので登良は黙って周りを伺う。
二人足りてない。兄と大将がいない。どうしたんだろうとは一瞬思ったけれども、どうせどこかで本物の神輿を担ぐかある程度体力を消耗してるのではないかと思う。恐らく三毛縞斑という兄はそういう人だと登良は知っている。そこと紅朗が居ないならば、まあ問題はないだろう。そうやってああでもないと思考をひも解いていると視界が不意に高くなった。

「おおおい!登良くん、浮かない顔して大丈夫かあ?」
「……持ち上げなければ、浮かない顔はしませんよ。」
「おっと、これはかわいい弟だからな!抱き上げたくなるのだ!」

悪い悪いと言いながら本心思っていないだろう。そう登良は判断して身をよじって斑から逃げ出して神崎の横に立った。今回の練習で、斑が颯馬に興味があるという態度を示しているので、興味がうつるかもしれないと思ったのだが、斑の視線を登良に向いていたのでがっくりと肩を落とした。

「みんな元気かなあああ、ママだよおおおお!!」
「うるせぇぞ三毛縞。耳元で大声を出すんじゃねぇ。離れて勝手に動いてて悪かったな蓮巳。ちょっと三毛縞と一緒にトラブルを片付けてたんだよ。」

トラブルという単語に反応して眼鏡の奥がいぶかしげに歪む。それを楽しむかのように斑が嬉しそうに報告する。場所が変わった関係での送迎手配やらをしていたらしい。そして紅朗と斑が小声でなにかをやりとりしているが聞き取れない。が、恐らく兄の仕込みか予想の範囲なんだろうな。と登良は思う。恐らくそうだろう。と直感めいた確信でもあった。たぶん。にやりと小さく口角が動いたので、間違いないだろうと思った。

「弟君…ええと登良殿。そのそろそろ離していただいてもいいか?」
「あぁ…すみません。兄から離れたくて」

颯馬の袖を力いっぱいに握りしめていたようで、登良は慌てて握っていた手をはなす。新しい衣装なのに皺にしてしまったら勿体なくて握っていたそこを撫でて確認するが皺はなさそうで。少しほっとした。ぺこりと頭を下げたら気に召さるな。と言われたので。登良は再び頭を下げて謝っていると遠くでスバルが登良を呼んだ。

「にゃんにゃん!!こっちおいでよ!」
「あ。はい」

あっち行ってきます。と一言残してそちらに混ざる。ほら。写真撮ろう!とまだ続いていたようだ。まわりに圧倒されて若干引いた。それでも、向こうの兄に混ざりたくなかったのでちょうどいいと思いながら、登良は北斗とスバルと写真を撮る。あとで創と友也に送っておこう。そう二人に問えば満面の笑みで承諾をもらったので二人の連絡先に送ると同時に連絡が飛んでくる。今日見に来ているから頑張れ。とユニットメンバー全員が今回の会場の看板と一緒に写っていた。

「…………」
「にゃんにゃん?」
「…………」

『Ra*bits』の皆が来てるというのを見て思考が止まった。…先輩ばかりの環境で、みんなが見に来てる。…情報過多で頭がパンクしそうだと思いながらもスバルになんでもないんです。と首を振った。多分これ以上考えたら胃が痛くなる。勘弁してほしいと思いながら電源を落とす。なんでもないという顔でない、だとか北斗が指摘するので諦めて『Ra*bits』が来ていると伝える。二人はそれぞれよかったね。と言うのだが、登良の心境は全くよくない。二年と三年に囲まれてるのだから心穏やかでないのに、いつものメンバーが来てみると言う事…つまり査定のようなものだととらえる。

「にゃんにゃん字面にできない顔するのやめて!!ライブが始まるんだから!」
「……大丈夫です。いけます。がんばります。このために練習したんですから……」

主張しだす胃を慰めて、一旦水分補給してきます。そういって離れようとしたが、ライブが始まるから集まれ。だなんて集合がかかった。配置につけと言われてしまったので、水分補給も諦めて集合に応える。今日は暑くなりそうだな、と思うと同時に敬人が悲鳴に似た怒声を上げていた。怒声にびびりつつ北斗とスバルの後ろに隠れながら様子を伺う。

「この話はお終いにすんぞっ、もう本番なんだから気合を入れろ野郎ども!登良っ、てめえの兄貴をなんとかしろ!ジョークが過ぎる!」
「ひぇえっ!?」
「待て鬼龍っ、まだ話は終わっていない!」

鬼龍に乱暴に掴まれて斑の真ん前に突き付けられる。それと同時に斑は嬉しそうに、登良を抱きしめた。力強すぎて衝撃で一瞬意識が飛んだ。様子の可笑しさからつむぎやスバルがあわてた声色で斑に声をかける。ぐらりと頭が揺れるのをどこか他人事のように感じながらだらりと頭が垂れた。遠くで紅朗や敬人の慌てた声が聞こえた気がした。ぐらぐらの意識をかろうじて取り戻した登良は兄の熱い抱擁にヘッドバット一発で強引に解放させて、また誰かの後に隠れることにした。喚く様に怒号を放つ蓮巳と笑う兄を見て、これは今晩夢に見そうな悪夢の光景だと想うし、恐らく数年語れるレベルだと思った。ので今回のライブについてはさっさと忘れたい一ページと頭の中に刻みこんだ。

「三毛縞行けるか?」
「大丈夫だぞお!敬人さん!」
「お前じゃない!!三毛縞の弟だ!今失神してただろ!意識は大丈夫か?」

蓮巳に指差されて自分の心臓がどきりとした。そして同時にぼんやりとしていた視界がしゃっきりして背筋が伸びた。大丈夫でしゅ!と噛んでしまって自分で真っ赤になったのがわかるほど恥ずかしくなって視線を反らした。その様子なら無事そうだね敬人も素直じゃないねぇと英知が笑った。そんな英智に反論するように敬人が「そろそろ時間だ、全員配置につけ。」と声を上げるので、登良は大きな声ではい。と返事をして自分の持ち場についた。

「登良くん。頑張るんだぞ!なずなさんも光さんも見てるんだろう?」
「…なんで知ってるの?」
「さっき会った!!登良くんの宣伝もしておいたぞお!」

…そうですか。登良は斑の言葉を切って深呼吸して空を見上げた。青々とした晴れ空がそこにあった。今日はたぶんさんざんな一日に鳴りそうな気がして、どうしようもない嫌な予感がして、登良は痛みを主張しようとする胃を撫でてから舞台に臨んだ。



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