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本堂に入ると、紅郎と斑に挟まれて登良は歩く。その姿は背格好だけで見ると宇宙人連行の図にも見えるだろう。同じ血を分けてもこれだけ身長差があれど、いつか兄ほどの身長になるのではないのかと思ってしまう。

「おう、帰ったぞ。つうか来たぞ。遅くなって悪かったな。」
「ははは、たっだいまあっ、ママがいなくて寂しかったかなあ?」

斑は笑って言っているのと比例して登良の眉間に皺がくっきり刻まれていく。対照的な兄弟でそんな姿が可笑しくて紅朗はこっそり笑った。二人の半歩ほど後ろになったのでそんな様子を三毛縞兄弟は知ることもない。

「納得がいかん!」

突然張り上げた北斗の声に登良は飛び上がるほど驚いてから紅朗の後ろに隠れた。大きな音が得意でないというのだが、本当にアイドルがつとまるのか。と毎回不思議に思う。舞台に立つ姿は何度か見たことがある。紅朗の後ろで震える塊に落ち着けと声をかけるとそうですよね。と力猿投にへらりと笑った。前に立ってた斑は何だと一瞬驚いてから音の、北斗の方へと向かう。

「やはり配役に異議がある。断固として抗議するぞ!」
「そうだそうだ!俺たちもお揃いの羽織を着たい!」
「えぇい、文句ばかり言うな貴様ら!何度も説明したとおり、今回の【維新ライブ】では幕末全体を表現する!」

なのに全員新選組では変だろう!敬人の怒鳴りで大体の事情を察する。大方、全員で新選組の衣装を纏いたいとスバルと北斗が言ったのだろう。紅朗を挟んでけんけんする敬人と睨み合うような構図の『Trickstar』の二人を交互に見る。他の三年生たちは自由に思考を巡らせたりなだめたりしている。視線を忙しなく動かして周りを見てると、紅朗が「どうする?入るか?」と登良に問いかけた。

「俺は助っ人なので…。やれって言われたら何でもやります。」
「なんでもたぁ。大きく出たな」
「…言い過ぎました。」
「訂正すんな。俺たちもお前にできるぐらいの物しか渡すつもりはねえよ。」

安心しろ、と紅朗の声をかき消すように敬人の怒鳴り声が響いて、また登良は委縮する。ライブの時の大きな音は有る程度事前に流れるとわかっているから多少平気なのだが、比較的近くで叫ばれると小心者の登良にはただただ怖いのだ。

「おいおい一体何の騒ぎだよ。こりゃあ?」
「ようやく来たか!遅いぞ貴様!どこで油を売っていた?」

どすどすと音を手てて、敬人は紅朗の近くに立つ。紅朗は呆れるように三毛縞につき合わされちまったんだよ。じろりと紅朗は斑を見た。ひょうひょうしていてつかみどころのないそれに、呆れて視線をもとに戻す。英智が何かを言っていたがそれをスバルが茶化した。隅の方で座っていた転校生がそっと登良の場所までやってきた。

「レッスンを終えた後、みんなで規格の詳細を詰めてたら揉めちゃってて…」
「配役の、ですか?」

幕末と言うならば、思い浮かぶ単語は『新選組』『討幕派』『尊皇派』エトセトラ。色々思考に出していると、つむぎが資料になるかと持ってきたDVDを見てたら、はまってしまったらしい。そして、今に至るというわけで。

「にゃんにゃんも新撰組!やるよね!!」
「…えっと…俺は…兄とお揃いじゃなければなんでもいいです。」
「登良くん、それは俺が傷つくぞ。」

傷つけばいいんですけど。そんなタマじゃないのも知ってるので、登良は紅朗から離れてスバルの方による。スバルはスバルでにゃんにゃんゲットー!と喜んでいる。

「明星が新選組ならおれも当然同じ役だ『ユニット』ごとに固定したほうがいい、既存のファンが混乱せずに済む。」

…そういうば、これ、『紅月』は依頼があって、場所がない。兄は、場所は有っても人がいない。と言ってたのではなかったのだろうか。始まった経緯を思い出してみるならば、『Tricstar』を新選組に据えるよりも、『紅月』を据えた方が話が進むのではないのだろうか。そうやって思考を混ぜてから発言しようと思っていたら、つむぎと英智は『Trickstar』の代理だからと人数が科さま視されていたし、貴方も兄と一緒じゃなければ。ということで勝手に『Trickstar』側に据えられた。

「こんなのは議論ではない!わがままばかり言うな貴様らっ、これは俺が頼まれた案件なのだから当然、俺たちが中心!つまり新選組になる!」
「…………えっと……ならば、提案があるんですけど…」

視線を喰らって、一瞬息を飲んだ。いくつもの視線が刺さるなんて、ライブで慣れてはいたのだが思った以上に視線を集めて息をのむ。

「…あの、提案なんですけど。派閥を三つに分けて…えぇっと…書くもの…お借りできますか?」

そう投げて、紙はここにある。と青葉から筆記用具と紙を受け取って大雑把に下に余裕を持たせて線を三つ引く。一つに新撰組、真ん中に討幕、そして黒船。そして空いたところをぐるっと丸を書いて、市民と書いた。

「新選組は『紅月』、討幕に『Trickstar』、黒船に兄。これで問題ありませんか?」
「下の市民は何だ?」
「俺です。」

…四つ巴か。そう北斗がぽつりと溢すので、登良は先ほどまとめた思考について展開させる。衣装にも差ができて、わかりやすく、見やすいんではないのでしょうか?それに、革命を起こしたのは『Trickstar』なんですから、たぶんそっちのほうが今の…春の【DDD】の時の状況に似ている気がしますけれども。氷鷹先輩。俺は、状況は春と似てると思います。革命を成功させたのですから、そっちに寄せた…役柄を合わせたほうがいいかもしれませんよ?
恐らく絆されやすいのは北斗だと登良は直感的に判断した。のでそう畳み掛ける。北斗は役割に合わせたほうがいい。と呟きながら考えて、スバルは北斗に考えを改めるように促しだした。そんな様子を見て敬人が登良の手から紙を受けとり眺めた。じっと見てから、三毛縞。お前は討幕に入れ。こっちのほうが見栄えが出る。さらっと逃げれるように、市民へ位置づきたかったのだが、そうは問屋は降ろしてくれなかった。そう書き換えられて登良の手に乗った。

「三毛縞。良い援護だ。その調子だ。」
「旦那、新選組を調べてるうちに好きになっちまったのか?どうしても新選組がやりたいみてぇだな。じゃあ頭を下げて今回は譲ってくれって頼めよ。」

にやりと紅朗が笑うと、英智が追撃と言わんばかりに嬉しそうに土下座を強要した。…そんなつもりではなかったのだが、上級生の同下座なんてみたくないので、悪乗りで茶化してるようで敬人がまた英知を静かにさせようとして声を荒らげた。登良がその声に驚いて二歩ほど下がったけれども、敬人はただ眼鏡を上げて、土下座などせずとも貴様らを説得できる理屈を百も二百も並べてくれるわ。そう啖呵を切った。
その光景を見て斑は笑い、スバルは三毛縞に意見を求めた。けれども、答えは自分で出すと言い切った。もう、諦めたのかわからないけれどもつむぎがくじ引きを提案しだして、もう現場はカオスになっていた。とりあえず分別すると『紅月』を新選組にするか『Trickstar』を新選組にするか、そして呆れているもの。新たに別の派閥に手を上げるもの。多種多様に居た。なんとか、人数を集めたいスバルが
にゃんにゃんも一緒にやろうよ!と促すように揺さぶる。

「えぇい、こうして話をしていても埒があかん!これから各々、新選組っぽいパフォーマンスをするぞ!三毛縞弟、お前もだ!」

そんな声と同時に、眼鏡越しの瞳が登良の視線と重なった。蛇に睨まれた蛙のように登良は固まって動かなくなった。蛇と小動物のにらみ合いのような構図になって、固まった登良を心配してか颯馬が声をかける。登良はそっと紅朗の後ろに隠れた。紅朗は敬人に小心者だからほめてあげてほしいことと、そこまで見てやるなとたしなめた。そんな姿が愉快なのか英知が茶化して、場を賑やかす。そうして夜が過ぎていこうとする。
そして人数的な配置で、登良は斑と共に黒船側を担当することになった。…決まった瞬間の顔はとても形容できた顔じゃないことをここで記しておくし、決まった時点で逃げたいと顔に書いていたのは言うまでもない。



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