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荷物を置いて軽い行動の打ち合わせの後、着替えてレッスンが始まる。
動きやすい服を着て、本堂から離れた風通しのよさそうな蔵で行うらしい。不思議だな。と思っていたら、どうも敬人が練習するために防音構造になっているとのことであった。

「活動歴でいうと、お前らが一番下だからな『Trickstar』。」
「えーにゃんにゃんのほうが最近のでしょう?」
「三毛縞はいいんだ。」

……ばれてる。なにが、とは言わない。登良は中学生のころに一度、場繋ぎとしてアイドルの舞台を踏んだ。夢ノ咲の生徒でもないのに、高額なチケットが発行されるライブに兄の手回しで振んだ。…登良はとぼけたふりをして、首を傾げて俺が一番下ですよ?と訂正をしておいた。今バレても問題はないのだろうけれども、あの頃はただの名前のない一人である。

「三毛縞も、明星も、ついてこれないようだったら容赦なく篩い落とすぞ。」
「今回も、あっと驚かせてやる。なあ明星。」
「もっちろん!やる気満々だから安心してねっ、最高のキラキラを見せてあげる!ね、にゃんにゃん。」

いきなり名前を言われて驚いて、こくこくと頷く。一緒に頑張ろうね!と言うのだけれども、スバルの明るさにやられて結構ぐったりしている。始まる前からかなり体力やらを持っていかれて、登良はくたくただった。けれども、へこたれるわけにはいかないので、レッスンが始まると同時に、集中して周りの観察を行いながらも動く。一通りの振付を全員で確認しながら食いついていくことができた。けれども、やはり場数の差もあってかわずかながらに離されて、最終的にある程度の差を自覚した。それでも、負けじと上級生に食らいつくように振付や意見だしにも積極的に行う。負けてられない。全員でのレッスンは終われど、体に染みつかせるのに時間がかかると判断した登良は敬人と掛け合って追加で1時間ほど練習時間をもぎ取った。音楽を流して、一つずつを反復して踊る。踊りがしなやかな人、荒い人、洗練された人。といろいろいたのを思い出しながら、どう見せるかがいいかと考えてたら携帯のアラームが練習時間の終わりを教えてくれた。タオルをとって、一通り片付けてから蔵を出て本堂の方に向かっていると遠くで紅朗と斑が居るのが見えた。
何かを話している様子だったが、しばらくしてなにかに向けて二人でかがんで何かしているのが見えた。

「…お墓…?」

寺で、二人で、並ぶというのなら墓ぐらいなんだろう。三毛縞家は海のかみさまを信仰してるので、寺には厄介にならない。…となるならば、紅朗の身内の墓だと理解する。離れた場所で、ひっそりと拝んでから、二人に声をかけた。

「登良くん!ママだぞお!」
「登良、てめぇも拝んでけ。俺の母ちゃんの墓だ。」
「大将のお母さんの。」
「人数多い方が喜ぶと思ってんだ。合わせてやってくれ」

紅朗に言われて、登良は遠慮なく墓の前に腰を下ろして、紅朗から数珠を受け取る。心の中ではじめまして。と挨拶をしたら、ふと微かに女の人の声が聞こえたような気がして顔を上げた。気のせいだったのだろうか、首を傾げる。

「挨拶は済んだか?」
「はい。」
「うし、じゃあ。やることやったし。ほかの連中と合流すっか。」
「速いなあ。俺、まだ紅朗さんのママに名乗ってもいないんだけど。」

お参りしてる暇があるなら、一分一秒を惜しんで生きろっていうような母ちゃんだったからな。俺とは違ってお喋り好きだったから、物足りないかも知れねぇ物足りないかもしれねぇけど。ま、いつか死んだら雲の上で嫌ってほど親孝行するさ。
あっけらかんと言う紅朗に、登良の中にいた鉄虎が目を輝かして凄いっす大将。て言っている気がした。多分言うだろうな、と想うと苦笑しか浮かばないのだけれども。内緒にしてたこと、ぶちまけてスッキリもしたしなあ。満足そうに笑う兄に対して嫌な予感しかない。そっと目を反らして、聞かなかったことにしたかった。

「母ちゃんの前ではふざけずに、真面目に冥福を祈ってくれてありがとな。登良も。」
「当然だろう、全てのママは俺にとっていつかそう成りたい憧れの存在だ。決して蔑ろにはしないぞ」

てめぇはそういやなぜかママになりたいんだっけか。紅郎の言葉に斑は反応してパパは登良くんだぞ!と公言するので、登良の表情は歪んだ。ほんと、お前ら兄弟真逆だな。と笑うから、一緒にしないでくださいと頬を膨らませた。
その姿に妹を重ねたのか紅郎は、登良の頭を強く撫でた。乱れた頭を軽く整え直してから、登良はぶすくれた。そんな様子が年相応にも見えて、紅郎は笑う。笑わないでくださいと恥ずかしそうな目線を送っていたのにも気付いてはいたが、紅郎は気にせずその様子を目に入れてから、二人を促してから三人は本堂に移動をしだした。



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